31話 郷に入りては郷に従うのは、異世界でも同じですよね・・・
草むらに隠れる威流は、僧侶の視線に気が付いた。
「あいつ、俺がここに隠れてるの分かっているのか!?」
余程注意深く見てないと、気が付くはずが無いのに。
不用意に近づき過ぎたか!?どうする?
威流の焦りを他所に、僧侶は穏やかな微笑みを湛えており、
左手で法衣の右の袖を押さえながら手招きをしている。
覚悟を決め、威流は立ち上がり、草むらから出る。
僧侶は軽く頷き、手招きを続ける。
威流は恐る恐る近づきながら、男の表情をよ~く確認する。
大丈夫、大丈夫だ。
あんなに優しい笑顔の人を、今までに見た事があるか?
まるで菩薩の様に慈愛に満ちているではないか。
あの男を信じよう。
不安を払拭する為に、威流は自分に言い聞かせる。
そして、僧侶の前まで辿り着く。
威流を目の前にしても、僧侶は何も語らず優しい眼差しを向けている。
そんな僧侶の包容力に不審者の緊張感は徐々に和らいでいった。
ま、まずは礼儀だ。礼儀を忘れてはいけない。
威流は両手を合わせ、丁寧にお辞儀をする。
僧侶も続いて手を合わせ一礼。
顔を上げ笑顔を見せる威流に応える様に、
僧侶もまた穏やかな表情で微笑む。
通じ合っている、心が通じ合っている。
・・・・そう思っていた時期が僕にもありました。
その後、僧侶は手を伸ばし、先程のギャルピースをしてくる。
それが作法であると威流は分かっていた。
葬式でお焼香の作法が分からず、前の人の真似をすればいいといった感覚。
それが作法であり常識なので、何も恥ずかしくは無いなんて事も理解した上で、
やっぱりギャルピースが恥ずかしかった。
威流は、つい普通のピースをしてしまった。
それが何を意味するかなど、威流には分かるはずも無かった。
ピースをした瞬間、時が止まり空気が張り詰める。
瞬時に威流は察した、俺、何かやっちゃったと。
「なななななっ、何か気に、さっ、障る事が、あっ、ありましたか~!?」
焦って呂律が回ってないが、そもそも言葉は通じてない。
僧侶の表情が、みるみると変わっていく。
先程までの優しい瞳はどこにいったのか、
どっか遠くに飛んで行ってしまったのであろうか。
今はもう親の仇にでも会ったのかという目になっている。
どうしよう、何か分からないけどこの人凄く怒っている。
さっきまでの菩薩スマイルはどこにいったの!?
今はもう、悪魔と対峙したエクソシストみたいな顔になっている。
いや違う・・・ あれは”祓う側”じゃない、”祓われる側”の顔だ!!!
この時威流はこの男を、
”赤備え エクソシスト デーモン”、
通称”AED”と呼ぼうと心の中で決めていた。
AEDは、即座に後ろに飛びのく。
威流も後方へ飛び、ポケットから魔石を数個取り出す。
AEDは威流を指差し、鬼気迫る表情で何かを叫んでいる。
「何を言っているのか分かりません!!何か失礼があったなら謝ります」
威流が必死に訴えるも、AEDは聞く耳を持っていなかった。
と言うよりも、言葉が通じていない。
互いに何を言っているのかが分からない状況で、戦う事になるのか。
けど、怒ってる理由も分からずに攻撃は出来ない、どうする?
何かを言い終えたAEDは顔を横に向け、建物内に向かって声を掛けている様だった。良くない事が起きるのは予想出来ていたが、AEDの迫力に押され動けない。
ドタドタと足音が聞こえ、4人の僧侶がAEDの加勢に現れる。
AEDは仲間を呼ぶタイプのボスだった。
加勢に来た僧侶は2人づつ、AEDの左右に陣取る。
黄色の魔石で一網打尽に出来る配置である事が威流の頭を過る。
出来る訳ねぇーだろ!!!
異世界に来て数日で ” はいっ!!人殺してね ” って、
俺は平和ボケの国から来たんだよ。
AEDは、再度威流を指差し、また何かを伝えようとしている。
何を言ってるか分からないのに威流は、つい、ひきつった愛想笑いをしてしまう。
それを見たAEDは、怒りを込めた大きな声で怒鳴る。
加勢に来た僧侶達も各々武器を抜き、身構え始める。
そして、建物の中からズシンズシンと重く力強い足音が響き、
それは入り口へと段々と近づいて来る。
「あっ!!また、このパターンですか」




