30話 違和感を軽んじるな、きっとそれは何かの警告だ・・・
赤い法衣の男に出会い、ここの集落が人間のものである可能性が高まった。
そんな中、威流は別の事に気を取られているのであった。
「想像通り!!ここの奴らの法衣は”赤備え”だ」
想像通り全身真っ赤だった事に加え、白抜きされた”ト”のマークが燦然と輝いており、威流は笑いのツボを突かれ、手で口を覆いぐっと笑いを堪える。
「何故 ”ト”なのか、何故 ”ト”なのかを知りたい」
気になって仕方が無いが、流石に聞きに行くほど愚かでは無い。
ふざけてないで、真面目に、真面目に。
僧侶は入り口の階段を降りてから、後ろに振り返る。
手を合わせ建物に向かって深々と一礼をし、建物を見上げながら立ち止まる。
金属で造られた手の平に納まる大きさの ”ト”を手に取り、
ただ静かに祈りを捧げていた。
この様子を伺っていた威流は、何故かこの男に警戒心を抱いた。
ゆっくりと歩を進める姿に優雅さと同時に力強さも感じ取れ、
ピンっと伸びた背筋に清廉さだけではない、生命に溢れる精強さが滲み出ている。
一礼に込められた信仰心の深みは、神への感謝がそうさせているのであろうか。
この人物の位の高さを窺わせるのは、この1つ1つの所作が気品に溢れ、
一廉の人物であろうと推察出来た事と、着ている法衣の豪華さであった。
ただ、それと同時に異質な何かを威流は感じ取っていた。
突然僧侶がゆっくりと振り向き、その場でお辞儀をする。
お辞儀をした方向を見てみると、杖をつく老婆と幼い少女が歩いてくる。
余計な好奇心を刺激された為か、ここに住んでいるのは人間かどうかなんてことは、とうに忘れてしまっている威流であったが、やっと目的を思い出す。
「ここの集落に住んでるの人間だ」
しかしここで浮かれるな俺、しっかりと観察をするんだ。
牙や角が生えていないか、尻尾やケモ耳などがくっついてないか。
腕が6本あったり、おでこに目があったりしてないか。
「ここから見る分には、普通の人間だな」
ちょっと考え過ぎかもな・・・
あっ!!そうだ、言葉が通じるのかも確認したい。
話し声を聞きたい威流は、なるべく入り口近くの草むらへ移動する。
僧侶の前まで来た老婆と少女は、両手を合わせ一礼する。
すると、僧侶も改めて手を合わせ一礼する。
「ほうほう。異世界でも、一礼する時は手を合わせるんだな」
一応、異世界の作法を覚えておいて損はないよな。
僧侶が頭を上げたタイミングで、老婆と幼女は右手を伸ばし前に出す。
手の甲を下にして、人差し指と中指を伸ばし、それ以外を内側に折り込み、
指先を少し下げる。
「うんっ!?あれ、ギャルピースしてる?」
クライアントでいたな、若い女性向けの雑誌を出版してるところ。
その時に見せられた写真のモデルの子と同じポーズしてるんだが!?
僧侶は老婆と少女に優しい微笑みを浮かべ、ギャルピースで応える。
「えぇ~!!それが作法なの?いいのそれで!?」
ギャルピースを知っている以上、それをやるのは気恥ずかしい。
少女が腹部にあるポケットに手を突っ込み、可愛らしい貝殻を取り出し、僧侶に見せる。僧侶はそれを受け取り、しゃがんで少女の目線に合わせ、頭を撫でながら何かを伝えている様だ。
なんて微笑ましい光景なのだ。
きっと、あの男は皆に慕われているのであろう。
この光景が威流の警戒心を薄れさせていく。
「はっきりと聞こえてるってわけじゃないけど、
正直何を言っているのかさっぱり分からない。」
当たり前ではあるが、異世界の言語だなこりゃ。
いざとなったら、現代の叡智である非言語コミュニケーションを駆使しよう。
会話を終えた僧侶は、二人を赤い建物の中に入る様に促した。
その様子を見ていた威流は、次の行動をどうするべきか悩んでいた。
「う~ん。あの男の人、凄く優しそうな雰囲気だから話し掛けてみようかなぁ?」
言葉が通じないのは分かってるけど、けんもほろろに追い返すという事は無いと思うし、何かしらの手助けをして貰えるかもしれないよな。けど、異教徒認定されたら大変な事になりそうだしなぁ。
威流が行動を決めあぐねていた、その時だった。
僧侶は視線を威流が隠れている草むらへ向けた。




