29話 何かで得た知識が必ずしも正しいとは限らない・・・
威流が目印から歩き始めてから10分くらい過ぎた頃だった。
「う~ん・・・」
威流は突如立ち止まり目を凝らす。
「う~ん、どう見ても人工的に作られた物だよなぁ~」
そう遠くも無い距離の海岸に、年季の入った桟橋と木製の小舟を発見する。
10分前まで壮大な冒険の始まりかと思っていたが、
まさかのこんな近距離で、人工物を見つけるとは・・・
森の中ばっかり探索してたから、あんまり海岸に意識が向いてなかったかも。
桟橋とかあるって事は、きっと何かしらの集落がありそう。
けど、そうだとしたら下手な田舎のご近所さんよりも近い距離だぞ、これは。
「ちょっと見に行こう」
桟橋に向かって歩き始めると、今度は左側の森の上に櫓が顔を覗かせる。
「え、え?!あれは櫓?」
威流は、また立ち止まる。
「櫓があるってことは、何かしらを警戒しているはず」
このまま進むのはちょっとした賭けだぞ。
ここに何が住んでいるのか?人間か亜人か?最悪、魔族の可能性もある。
櫓がある時点で原生生物への警戒か敵対勢力がいるかもってことだ。
「こっそり近づいて、様子を伺った方がいいな」
櫓には誰もいなかったが、死角になる森側に沿って進む。
森に沿って進んで行くと、櫓辺りから緩やかな下りの傾斜になっており、
森の中から見つからずに集落の様子を確認するのは困難そうだった。
しかし、海岸から近づく時には、集落と海岸に高低差が生まれ身を隠しやすい。
威流は耳を澄まし、気配を探りながら慎重に進んでいく。
すると、海岸から集落へ上がって行けそうな道を見つける。
その道の先にはいくつかの家が見え、屋根の上の煙突から煙が昇っていた。
「やっぱり、誰かいる」
そこらの岩の陰に隠れながら周囲を見渡してみるが、海岸にも集落に上る道にも人の姿は無い。しかし、不用意には動いては駄目だ、慎重に行動しなければ。
「しかし、随分と粗末な家だな」
石を積み上げて隙間を砂で埋めて固めた壁に木製の屋根と扉。
木の板を嵌め込んだ窓がある家も有り、様々な大きさの瓶も置いてある。
「漫画やアニメで見たイメージよりも文明が発展していない感じだな」
ただ、この文明レベルがこの世界での水準なのか、
若しくは人間以外の種族だから文明レベルが低いのか。
この地域に限って文明が発展していないって事も有り得なくは無い。
他の地域では機械化が進んでいて、都会と田舎で文明格差があるなんてよくある話だし、都市部では衛兵がアサルトライフル持ってましたなんて事も・・・
取り敢えず、何が住んでいるのかを確認出来たら、一旦帰ろう。
物陰に隠れながら集落への道を進んで行くと、一際目立つ建物が目に入る。
「あれは教会?」
その建物は、威流の想像する教会とは少し様相が異なっていた。
神聖さを感じさせる白い壁や、色鮮やかなステンドグラスが映える洋風のデザイン。建物の至る所に十字架が掲げられており、清廉さと厳かな雰囲気が漂う場所。
教会はそんなイメージのはずだった。
「建物のデザインとか、なんとなくの雰囲気も教会だと思うんだけどなぁ」
なんでかな?!全体的に建物が赤、もう真っ赤っか。
久城さんの広告デザインを思い出した。
他にも十字架は無くて、カタカナの ”ト” が随所に散りばめられている。
こんな気になる建物を見せられたら、もうスルーは出来ない。
この建物を正面から見てみたい。
威流は好奇心に抗えず、建物近くの草むらに潜みながらゆっくり進む。
「しかし、なんで全体がこんなに赤いんだ?」
異常なまでの赤への拘りは、一体なんなんだ?
”兵”と書いて”つわもの”と読むあのお方でも、
あそこまでは赤く備えてはおらんぞ。
建物の外観を眺めながらも、建物の正面付近へ徐々に近づいていく。
建物を近くから見たくなった威流は、不用心にも草むらから出ようとした時、
何か声の様なものが聞こえ、直ぐに草むらに身を潜める。
突然、鐘の音が辺りに響き、重苦しい音を立て教会の扉が開く。
開いた扉から、赤い法衣を身に纏った白髪交じりの男が現れた。




