27話 学んでもいても、活かせなければ意味が無い・・・
飛び込んだ先に目に入ってきた物は、足元に横たわる狼。
・・・に角が生えた狼もどきが数匹、どの個体も既に息絶えているように見える。
次に、一番奥の狼もどきを踏みつけている、茶色の毛を生やしたふっとい足。
さっきから、フゥーフゥーと荒い息遣いが聞こえているが、目線を上げてその姿を見るのがとっても怖い。
相手を刺激しない様に、ゆっくりと頭を上げる。
そこには体長4メートルはあろうかという巨大カピバラが立っていた。
鋭い目つきに長い前歯、針の様な茶色の体毛に短いが太い脚。
動物園で見た穏やかな姿はどこにも感じられなかった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」
威流は驚きのあまり、襲われたヒロインの様な悲鳴を上げた。
その悲鳴に呼応するかの如く、巨大カピバラも奇声を発する。
威流が聞いたのは女性の悲鳴では無く、
巨大カピバラの威嚇の咆哮であった事にここで気付かされる。
威流という新しい外敵が現れた事で、巨大カピバラは戦闘体勢に入る。
外敵を睨みつけ、右前脚で土を掻き上げアイドリングを始めた。
「その、前脚で地面蹴るの止めて。闘牛の牛が突進するのと同じ動き」
すぐさま反転し、茂みに突っ込み逃走を図る。
だが、逃げる威流に焦りは無かった。
「巨体は鈍重と相場が決まっているのだ、俺様には追い付けまい」
あれだけの巨体で脚が短いのに、追い付かれる訳がない。
走りながら振り向くと、巨大カピバラは追いかけてきてはいるものの、
その距離は遥か遠く、まず追い付いてこないだろうと確信出来た。
「ちょろいな、げっ歯類よ!!」
余裕の笑みすら浮かべる威流に過去の記憶が蘇る。
有料番組で人気のチャンネル ”動物惑星”
動物大好きの威流は大人になっても視聴を続けていた。
ある日の特集で、カピバラの生体について詳しく取り上げられていた。
そのワンシーンで、生物学者は穏やかな声でカピバラの生体について語る。
”カピバラは普段おっとりとしてのんびりとした印象を与えますが、
外敵などに襲われ危険を感じると・・・・”
「たしか、時速50キロメートルで走ることが出来るんだっけ?」
威流に冷や汗が流れ始める。
念の為、再度走りながら振り返ると、巨大カピバラは首を振り、
猛り狂いながら追跡してくる。
「しまった。調子こいてしまった」
全力だ、全力で逃げなければ、狼もどきと同じ運命が待っている。
「けど、これは違う。外敵を襲ってんのあいつの方だろ」
しかし、時速数キロの俺では、時速50キロの巨カピから絶対逃げきれない。
言うなれば、人間 VS 単車のスピード勝負、本当に馬鹿げている。
そんな事を考えている内に、後ろの地鳴りが徐々に近づいてくる。
「くそっ!!やるしかないのか」
そう言うと、威流は青い魔石を起動する。
そうして、走りながら大きくて太い木を探した。
「あった!!!」
威流は、その大きな木の前に立ち止まり振り向く。
迫りくる巨大カピバラの恐怖に足の震えが止まらない。
巨大カピバラは頭を下げ、頭突きの体勢で突っ込んでくる。
十分引き付けたところで威流は電撃を放ち、すぐに横に避ける。
電撃を浴びた巨大カピバラは、そのままの勢いで木に激突する。
「やったぜ!!」
いくら巨大カピバラでも、木にぶつかれば少しぐらいピヨるだろ。
その隙に逃げ切ってやる。
ここでメキメキと最近どこかで聞いた環境破壊音が聞こえてくる。
「ははは、まさかねっ・・・・」
それは単純な話だった、その大きな木より巨大カピバラの強度がただ高かった。
突撃された木は根元からポッキリ折れ、ゆっくりと倒れていく。
威流の相手は、”単車”ではなくて”戦車”だったのだ。
様子を伺っていた威流は、全力で走り始める。
もう振り返る余裕は無い、ただ走れるだけ走るしかない。
ヘビーアーマーエルフといい、巨大カピバラといい、
なんでここはパワー系しかいないんだ。
恐るべき強敵と対峙する威流。
本当に危険な事があった時の為に、紫の魔石を1個だけ持ってきてはいたのだが、
生死に関わるこの状況であっても、威流は紫の魔石を使う事を躊躇っていた。




