11話 面倒な事に限って、なぜ2度・3度と起きるのか・・・
休憩時間超過のピンチをなんとか嘘で乗り切った威流は、
己の願いが神(場合によっては破壊神)にいつ届くのか、
期待して待つことにした。
蓮のお陰でリフレッシュも出来たし、今日の仕事は捗りそうだ。
・・・と、そう思っていた時期が、僕にもありました。
受付から連絡があり、クライアントの突然の来訪。
「赤音さん、アポ無しですまない。現在展開しているWEB広告の効果検証方法について確認したい」
集計されたデータの考察について聞きたい、営業部の後輩、山田。
「赤音さん、このデータで分かった考察が、なんの役に立つか分からないんです」
先日のストレスチェックの結果について、人事担当者。
「赤音さん、ストレスチェックの結果、産業保健師との面談が必要と出ています」
今度はマーケティング部の部長までもがお出まし。
「赤音君、終活における家族の気持ちについて意見が欲しいんだが」
埋め夫のお願いはいつものこと。
「赤音君、明日の部長会で話す今月の施策についての原稿が必要だ、
作成を任せるよ」
威流のデスクにある電話がけたたましく鳴り、受話器を取る。
「あのぉ、電力会社を変えようとおもっているんですが」
「恐れ入りますが、当社は電力会社ではありません」
受話器を置く時、ふと目に入る。電話機に表示されている22時35分の文字。
「はぁ~、なんでこうなるんだろ」
天井を見上げながら、威流は溜息混じりに呟く。
おいおいおい、誰だ”今日の仕事が捗りそう”とか言っていた愚か者は。
そうだよ、僕だよ。いつも通り”自分以外”の仕事が捗っただけじゃないか・・・。
ただ、周りを見渡せばそれなりに人が残っている。
みんなも頑張っていると思えばいい、それだけで救いにはなるものだ。
そして、今日が終わっても、明日もきっと同じ様な日になるんだろうな。
いや、昨日も一昨日も同じ様な日だったよな。
「もういいや、今日は少し早いけど、もう帰ろう・・・」
威流はいそいそと帰り支度を始める。
営業部からエレベーターで1階まで降り、エントランスを抜けてビルから出る。
昼の陽気とは打って変わって、夜風はまだ冷たい。
「うぅ~寒い。飯買いに行くの面倒だし、タクシーで帰ろ」
スマホを取り出し、アプリでタクシーを呼ぶ。
震えながらビル前で待つこと数分。
到着したタクシーに乗り込み、自宅の住所を伝える。
車内の暖かさと揺れが心地よく、ついウトウトとしてしまう。
「お客さん、着きましたよ」
と運転手に起こされ、僕は礼を述べタクシーから降りた。
マンションの入り口からエレベーターで上がり、自宅の鍵を開け、中に入る。
「真っ暗な部屋に帰ってくるのも、もう慣れたな」
電気のスイッチを押し、鞄をダイニングテーブルに置く。
椅子に座り、ダイニングテーブルに倒れこむ。
「晩飯はカップラーメンでいいか・・・」
とは言いいつつも、湯を沸かす気力が無い。
「真っ暗じゃない部屋に帰ってこれたのは、いつだったか?」
部屋に射し込む夕日のオレンジ色が眩しくて、手をかざして遮った。
それは、ほんの数年前の記憶。
今ではとても遠い昔の記憶の様に思える。
「そういえば・・しらがみ様は・・お供え物・・食べたのかなぁ?」
今日あったことなのに、記憶がぼんやりとしてる。
「どんな風に・・・・叶えて・・・・くれるの・・・・かなぁ・・・・・」
威流の意識は、ゆっくりとゆっくりと静かに深い闇へ落ちていった。




