第4話“忠臣・ドゼー”
ナポレオンの部下はわかりやすく2つ存在した。ナポレオンの手足となるもの、そしてナポレオンの同志となるもの。前者は意のままに動き、扱いやすいが、いざというとき、役に立たない。
後者は、思慮深く、自身の意図を汲み取り、いざという時ナポレオンを助けてくれるが、思いどおりにはならず、裏切りのリスクを抱えていた。
ナポレオンの方へめがけて、腕力攻撃型の魔物が殺到してきた。ナポレオンは、馬を操り、魔物を引き付けていく。こういう仕事は自分の得意ではない、ネイやミュラのような猪突猛進で勇敢な将軍の方が、にも思えるが、それに似たような部下どころか、そもそもとしてナポレオンには、部下は誰ひとりいない。そうなれば、ナポレオンひとりでやるしかない。
部下なのか、単なる目付なのか、怪しいものとして、ペルゴーナがいるが、あれが本当に仕えるか、部下になるのか、今回あの魔物を使って見極めていこうと、ナポレオンは考えている。敵を引き付けるよりも前に、あの者に、塹壕を掘って掘りまくるように、命じている。あれが、どのような行動をしていくのか、見者だ。
ナポレオンを乗せた馬は、駆け抜けていく、魔物は、必死に追っていくが、追い付くことはない。むしろ離れていく。ペルゴーナのもたらした情報の通りだ。あれは無能や最初からこちらに嘘をつくようなものであることはこれで分かる。さて、魔物との距離が離れていくが、これが必ずしもいいことではない。安全はどんどん確保されていくが、魔物は距離が離れていくと、敵は興味を失う。敵を引き付けられるよう、ほどよい距離を維持できるようにしていなければいけない。器用な仕事だ。ナポレオンはネイやミュラの仕事だと思ったが、あいつらには難しすぎるのかもしれない。
「こういうのは、ネイ・ミュラではなく、ドゼーの方が適任か。いや、ドゼーならなんでもできるか……」
ナポレオンはふとそのように走りながら思った。
ドゼーは、権力を握ったばかりのナポレオンの元で活躍した将軍であり、ナポレオンの同志・親友であった。ドゼーは、軍事的天才であり、公明正大な人間で、そしてナポレオンの理解者だった。
彼の最後の戦い、マレンゴの戦いはまさに彼の優秀さを現した戦いだった。
アルプスの越えの肖像画で有名な、ナポレオンの愛馬たるマレンゴと同じ名前の戦いで、敵であるオーストリア軍にナポレオンの本隊の苦戦しているなか、ドゼー率いる別動隊は大砲の音で、情勢を的確に判断、ナポレオンが今求めていることを見極め、ナポレオンの事前に出した命令を実行せず、ナポレオン本隊へ救援を駆けつけ、ナポレオンに勝利をもたらしたが、彼は戦いの最後で絶命した。
ドゼーは、唯一無為で完璧で究極の部下だった。部下の性質では、思慮深い方のタイプであったが、彼とナポレオンの心は深く繋がっており、マレンゴでドゼーが生き残っても、ドゼーは裏切りことはなかったであろうと、前世を振り返ったナポレオンはそのように感じていた。死後、ナポレオンに仕えたドゼーの元部下らは優秀で、帝政フランスを支えた。しかし、ドゼーに匹敵する部下は現れず、どの部下も意のままに動く、ナポレオンの駒のような者が多く、ワーテルローの時、ナポレオンの命令を順守することに固執した別動隊指揮官・グルーシーのようにいざという時に役に立たなかった。ドゼーのように、ナポレオンの意図を読み取り、命令外の行動できる部下は外相・タレーランや警察大臣・フーシェといたが、彼らは野心家で隙あれば、平気で裏切った。
果たして、ベルゴーナはどんな部下なのだろうか、ナポレオンは引き付けた魔物が、ペルゴーナの放った魔物によって倒された、その閃光を眺めながら、ナポレオンは考えにふけっていた。