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異世界ナポレオン  作者: ブルーバッテン
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第2話”異世界 アリアンス王国の神官・ペルゴーナ”

 わたしはペルゴーナ。代々王に仕える神官の家に生まれ、神官を継承するために、長年修行を重ねて来た。

 しかし、近年、魔王軍の動きが活発になってきた。王国軍は魔王軍の戦力に圧倒され、国境地帯の支配を喪失。王国の領土の多くに魔王軍の配下の魔物が出没するようになる。神官だった父は魔王軍との戦いの末、戦死し、神官の地位を継承することとなった。魔王軍との戦乱で聖堂は燃え、継承した神官の配下の集団も混乱の渦中にあり、その混乱を納めるのに、多忙の日々を送るなか、王から無茶苦茶な要求を受けた。“先祖伝来の魔術をもって英雄を召還せよ”というものだった。

 この世界では、魔術が使用することができる。特に我々神官家と王家は、両家の祖が建国の折り、倒した魔王軍幹部から、魔王軍特有の魔術道具を奪取することで、独特な魔法術を展開することができる。その魔術の力で王と神官はこの国で強大な権力を有することが出来た。魔王軍に敵わなくなった王は、英雄を求めた。英雄を召還する魔術は我々神官家の開祖が最後に見つけ、研究した秘伝の中の秘伝といえる魔術といえる。英雄を召還することはつまり、王と神官の無力さを露呈することだ。

 王は、父が戦死したことで危機感を一層に抱いているのだろう。だが、召還した英雄の力が弱ければ意味ないし、強すぎれば我々の支配体制に大きな驚異を与える。召還すればいいというものではなく、召還した後、我々はこれから召還していく英雄を厳しく監視・管理・注視していかなければならない。

 家祖の伝来の書によれば、町のはずれの野原に、魔方陣を形成していく。

「ラ・ベリ・アリアンス、ラ・ベリ・アリアンス、ラ・ベリ・アリアンス、ラ・ベリ・アリアンス………」

 そして、英雄召還の呪文を唱え続ける。家祖が見つけた召還方法とはいえ、魔方陣は野原に形成することなど謎な点があり、これで本当に見つかるか、とても不安だ。

「ラ・ベリ・アリアンス、ラ・ベリ・アリアンス……。う、煙が……」

 目の前に、魔方陣から発生していく煙が立ち込め、煙で咳き込んでしまうほどの煙が段々とひいていくと、魔方陣がつくられた場所の跡地には、一人の男がたっていた。

 男は、よく物語にでてくるような若くて逞しい若き青年というわけではなく、冴えない中年の男だ。勇者が戦士が着用しているような甲冑を着ているわけではなく、青と白のツートンカラーの変わった軍服を着用し、半月型の奇妙な帽子を着用している。彼は果たして魔法使いなのか……。

 

「余はフランス皇帝、ナポレオンである。そなたは誰だ」

 男は、そのように名乗った。私はギョッとした。男は冴えない中年の風貌をしているが、言葉を発するナポレオンは、内に秘めたる野心、胆力がひしひしと伝わっていくものがある。

「わ、わたしは、ペルゴーナです。神官をやっています……こうてい……」

 私には、“こうてい”なる言葉に理解に苦しんだ。私は、この“こうてい”という言葉を聞いてみることにした。

「勇者様ではなく、こうてい?」

「そうだ、余はかつてヨーロッパを征服した」

 ナポレオンは、自信満々に答える。“こうてい”というものが具体的に理解できたわけではないが、恐らく“皇帝”とかいうものは強大な君主なのだろう。王と同列かそれ以上のものだろう。そしてヨーロッパとかいうものはよくわからないが、この男の自信、野心、胆力からして、この征服というのは、並々なる広大な地域を征服したということだろう。

「余は突然の光景に驚いている。この世界を教えてくれ」

 ナポレオンは毅然とした態度で、私に質問してくる。この男は侮りがたい。確かにこの強力な覇者の存在は、魔王軍の存在を前には、非常に頼もしい。だが、強力すぎれば王と我が神官家に仇なす存在であることに違いない。何よりもこの男の自信、野心、胆力からして、無害であるというのはあまりにも無理がありすぎる。

「貴方は覇者だったもの、何ですよね……」

「そうだ、いかにも」

 ナポレオンは淡々と答える。こうなれば、我が魔力をもってこの男に脅迫して、我々のコントロールの下におけるようにしてしまうしかないか。私は魔力杖をナポレオンの前にかざし、心の中で魔術を念唱した。

(パレパレポールヘッド)

 魔力が魔法杖の先端に充填されていく。この魔法は殺傷能力のあるものの中でもっとも威力の小さいものだ。私の脅迫に屈し、私と王に忠誠を誓ってくれるなら、それはそれでよし、忠誠を誓わないのなら、そこで討ち後顧の憂いを断つことになり、それもそれでいい。

「皇帝、ナポレオン。貴方に我らが王の配下となり、魔王を倒しなさい」

 驚いたナポレオンは自身の考えを整理しているのだろうか、黙ってなにか考え事をしている。この男は、魔力のことを知らないのかもしれない。さらにいえば、魔力を産み出せないのかもしれない。だとすれば、魔力を出せる私が、ナポレオンを制すれば良いのか。では、彼の者は魔力を持っていないのに、いかにして覇者となったのか、理解し難い。

「よかろう、お前たちに余の力を貸そう」

 そういうナポレオンの言葉は自信に満ち溢れた。いったい、この男は何者なのだろうか……。


 こうして、かつての皇帝と女神官の冒険が始まった。



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