昼に送られてきた手紙
◆ ◆ ◆
「レイチェル、すまない。また縁談は決まらなかったよ」
メイドたちは何食わぬ顔で朝早くに帰ってきて、両親は暗い顔をしながら正午近くに帰ってきた。何かまた悪いことを言われたのかもしれない。お母様は酷くショックを受けているようだった。
――私のために、そんなに苦しまなくて良いのに……。
私だって、そんな両親の姿を見て心を痛めないわけではない。何か言ってあげたいけれど、早く婚約出来るように私も頑張るから、なんて、そんな嘘の言葉を言うことは出来ない。
「お父様、お母様、ごめんなさい。私……」
その言葉の先は考えていなかった。ただ、玄関の扉を叩く音が聞こえ、メイドの一人が出ていく。
「旦那様、お手紙です」
静かに戻ってきたメイドが言った。部屋の中に居た全員の視線が彼女の手にある手紙に向く。お父様がそれを受け取り、一瞬、ハッとしたような顔して、ペーパーナイフで丁寧に封を切った。そして、
「レイチェル……、なんてことだ……」
お父様はそう言い、驚愕の表情を私に向けた。
「一体、どうしましたの?」
お母様が心配そうにお父様の方を見ながら私に寄り添う。手紙の内容はまた私に関する悪いものに違いない。だから、お父様はそんな表情で私を見て、微かに震えているのだと思った。
「レイチェル、婚約の申し出だ」
「え……」
あんなにも望んでいた婚約の申し出の便りなのに、お父様の表情は少し曇っていた。その理由はすぐに分かる。
「リーデンハルク侯爵からだ」
難しい顔をしてお父様はそう続けた。「リーデンハルク様ですって……」と、メイドたちがざわつく。
昨日、メイドたちが噂をしていた〝あの〟リーデンハルク侯爵である。冷酷で怪物みたいで三十七にもなって結婚していない、という。
でも、私には関係ない。このままだとお父様とお母様が惨めになってしまう。たとえ相手が冷酷な人であろうと、婚約が決まれば悪い噂は少なくなるだろう。また駄目なら戻ってくれば良いのだ。両親のために私は決断をしよう。
「お父様、私、その申し出、お受けいたします」