リーデンハルク様からの贈り物
◆ ◆ ◆
リーデンハルク様は私が帰ってからすぐ料理をすると予想されていたのだろう、いつの間にか食卓に移動されて待ってくださっていた。待っている間にルルに小言を言われなかっただろうか、と想像すると少し笑ってしまいそうになった。
「たらこパスタです」
そう言いながら、急いで、それでいて丁寧にリーデンハルク様の前にたらこパスタを置き、カトラリーもセットする。
「いただこう」
変わらぬ雰囲気で彼が静かに言い、また黙々と食べ始めた。私も前の席に座り、一緒にたらこパスタを食べ始める。
レシピは知っていたけれど、実際にたらこを食べるのは初めてで、とても感動してしまった。卵の一つ一つの粒がしっかりしていてとても美味しく、食感も面白い。ちゃんとパスタにソースが絡んでくれて良かった。
今回もリーデンハルク様はしっかりと食べてくださっている。偏食家などとは嘘のようだ。それでも
『レイチェル様、主はあなた様のお料理しか召し上がらないのですよ?』
何度もルルの言葉を思い出しては嬉しくなる。黙って食べてくださっているのが最上の答えだ。
コンコンッ
「失礼いたします」
リーデンハルク様が先に食べ終わり、私ももう食べ終わるだろう、というときにルルが部屋に入ってきた。その手には茶と白の何かもふっとした大きめのものを持っていて……。
「ル――」
「昨夜!」
ガバッと立ち上がったリーデンハルク様の声を遮るように、ルルが思いのほか大きな声を出したので、私は少し驚いてしまった。
「失礼いたしました。――昨夜、嬉しそうに選ばれていたではありませんか、今がお渡しするときかと」
ルルが静かに私の横に来て、「主の手作りです」と小声で言い、私にそのふわっとしたものを手渡す。
近くでよく見てみると、それは毛足の長い猫のぬいぐるみだった。ラグドールという種類の猫だろうか? ぬいぐるみらしいまん丸としたフォルムが、とても可愛らしい。ブルーグレーの目もまん丸だ。
「それは作ってあったものだ」
ぼそりとぶっきらぼうにリーデンハルク様が呟いたのが聞こえた。今にも歩いてどこかに行ってしまいそうだ。
「ありがとうございます。よろしいのですか? こんなに素敵なものをいただいてしまって」
「……ああ」
まだお話は終わっていない、と判断してくださったのか、リーデンハルク様はもう一度椅子に腰を下ろした。
「とても可愛らしいです。ふわっとして、本物らしさもあって、ぬいぐるみらしい可愛らしさもあって、職人の作ったもののようです」
思わず、ギュッと抱きしめてしまう。ベッドに置こう、と私はもうすでに心の中で決めた。
「そうか……、今度は一から君のために何か作ろう」
「ありがとうございます」
本当に小さな声だったけれど、リーデンハルク様の声を私はしっかりと受け取り、お礼を言った。リーデンハルク様は何の反応も返さないけれど、すぐに席を立ってどこかに行こうとするのはやめたようだった。
「良かったですね、主」
そう言って、一番嬉しそうな顔をしているルルを見て、私は彼女と会ったら彼女の分のパスタを作ろうと思っていたことを思い出した。
「――そうでした、ルル、あなたの分のパスタもこれから作りますね?」
まずは皿をカートに片付けてから、と思い、席から立ち上がって猫を自分の椅子に置く。そんな私にルルは「いいえ、レイチェル様、その必要はございません」と静かな声音で言った。
「はい?」
不思議に思って、思わず聞き返してしまう。いままでに作った私の料理が口に合わなかったのだろうか。それならば無理強いは出来ない。
「口に合いませんか? 嫌いな食材を使ってしまったとか……」
そうだ、好き嫌いが理由のこともある。ルルは私の料理を楽しみにしている、と言ってくれたのだから。
「いいえ、そうではないのです。私は、さきほどいただきました」
ルルは怒っているのだろうか、さきほどまでの元気で明るい雰囲気がない。
「ルカに分けてもらったのですか? ごめんなさい、あなたがすぐに戻ってくると思わなくて、ルカにも悪いことをしてしまいましたね」
私の気が回らなかったばかりに二人には申し訳ないことをしてしまった。二人であの量では足りなかっただろう。
「いえ、実は……」
そう言いながら、ゆっくりとルルの右手が彼女の頭のほうに向かっていく。そして、
「私がルカなのです。私は男なのです」
その手で自分の長い金髪を取り払ってしまった。カツラだったのだ。
瞬間、私の中にある考えが浮かんでしまった。