まだドキドキしてる
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お屋敷までの道を馬車が走る。向かい合って座る私たちは特別に話をすることもなく、リーデンハルク様は膝にリアルウサギの人形を乗せて少しだけご機嫌な雰囲気を纏っている気がした。
私も今日のお買い物は楽しくて、彼の優しさに触れられてとても嬉しかった。だから、私は少しだけ勘違いをしてしまった。
「これで少し、私と婚約して良かったと思っていただけましたか?」
リーデンハルク様の悪い噂を隠すための名ばかりの婚約者だけれど、こんな問いを口にするなんて厚かましいことだけれど、彼との婚約に光を見てしまうなんて。
「違――」
「きゃっ」
私の問いにリーデンハルク様はガバッと顔を上げて、即座に何かを返そうとしてくださったけれど、車輪が大きな石を踏んでしまったのか馬車が急に激しく揺れて、私は前に飛んでしまいそうになった。
瞬間、力強い両腕に抱き留められる。
――大切な人形が床に落ちて……。
「ありがとう、ございます」
冷静になってみると、思ったよりも身体が密着していることに気が付いて、ドキドキしてしまう。
「……よければ、隣に来るか?」
そのままの状態でリーデンハルク様に尋ねられ、私は「はい、失礼いたします……」と大人しく、彼の隣に腰を下ろした。そして、私はいま思い出したように人形を床から拾い上げ、リーデンハルク様に手渡した。彼もいま思い出したようだった。
――まだドキドキしてる。
それ以降、会話はなかったけれど、私にはずっと騒がしい音が聞こえていた。自分の心臓の音が……。