温かくて大きな手
「……っ」
リーデンハルク様が突然立ち上がり、私のことを大きな影が覆った。背の高いリーデンハルク様が近付くとその身長差に緊張してしまう。
分かったような口をきくな、と怒られるのだろうか。それとも、この大きな手によって実家に送り返されてしま……この大きな手?
――リーデンハルク様の両手が私の頬に……!
気が付くと、リーデンハルク様の温かくて大きな両手が私の頬を包み込むように覆っていた。そのままの状態で少し上を向くようにされ、モサッとした前髪を挟んで少し屈んだ彼と視線が合ったような気がした。
――みつ、見つめられている……。
「あの……」
思わず、たじろいでしまう。前婚約者であったミスグリード様は私に触れようともしなかった。手を引かれ、エスコートされたことさえない。それは彼がゴーストウッド家の名声と財産を目当てにしていただけであって、リーデンハルク様は一体……。
次の言葉が見つからず、ぐるぐると頭の中で答えなど見つかるはずのない問いの答えを考えながら私が困っていると、私を見つめたままリーデンハルク様が「ルカ」と口にした。
主に呼ばれ、ルカが「はい」と静かに答える。
「あの部屋のことは保留にする……、しっかりと施錠しておけ」
ぼそりと、本当にぼそりとリーデンハルク様がおっしゃったのが聞こえた。
「かしこまりました」
ルカは主の声をしっかりと聞き取ったらしく、真っ直ぐな声で答えた。そのルカの返事を聞き、リーデンハルク様の手はスッと私から離れていった。
そして、
「礼を言う」
また、それだけを言って、彼は去って――しまうと思ったのに、去ろうとした足を一度止めて、私のもとに戻り、ウサギを受け取ってから
「あとで庭に行ってみるといい」
と、さきほどと同じようにぼそりと言った。
「お庭、ですか?」
その私の問いに答えはなかった。何も言わずにリーデンハルク様は部屋から出ていってしまった。
――いつか私にご自分からご趣味の部屋を見せてくれるときが来るだろうか……。
私は彼が去っていった扉を暫く見つめていた。少しだけ火照る自分の頬に触れながら。