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海老とホタテのじゃがいもグラタンと婚約破棄



 ヒソヒソと廊下でメイドたちが噂話をする声が聞こえる。


「あの歳で出戻りなんてね」

「使用人みたいなことばかりしていたからでしょう?」

「そりゃミスグリード様も婚約破棄したくなるわよ」

「だって、それなら誰だって代わりになるものね」


 そう、私は二日前、婚約破棄をされた。


 相手は私の家、ゴーストウッド家と同じ爵位のミスグリード伯爵。今年三十になる私よりも三つ年下で、両親はやっと相手が決まったと喜んだ。でも、彼は傲慢で、それでいてプライドが高く、自分の爵位に劣等感を抱いていた。私はそんな彼の理想にはなれなかった。


「料理なんて使用人のするようなことはするな! ミスグリード家の品位を落とすつもりか!」


 彼のその言葉は、私を酷く苦しめた。私は料理がしたかった。ただ、料理がしたかったのだ。婚約なんてしたくはなかった。両親に心配されて、両親が持ってきた縁談を受けただけ。


「これ以上、使用人の真似ごとを続け、我がミスグリード家の品位を脅かすことは許されない! レイチェル・ゴーストウッド! 君との婚約は破棄する!」


 そう言われたとき、正直ホッとした。貴族の客人をたくさん招いた社交パーティーで、彼が私の作ったグラタンを大理石の床にぶち撒けなければ。


「そして、新たに僕はこのアンセント家の令嬢、ミリーナと婚約する!」


 声高らかに、彼は皆の前で宣言した。哀れみ、嘲り、喜悦、大勢の客人が私に多種多様な視線を向けたのが分かった。


「彼女のほうが君より若く麗しく、清楚で、教養もある。何もかも君より上だ」


 私だけに聞こえるように彼はぼそぼそと囁くように言った。


 彼の隣に立ったミリーナという女性は確かに私よりも可愛く、若かった。キラキラと光るピンク色のドレスを着て、そこに居る誰よりも目立っていた。私の朱色のドレスが、落ち着いた、というよりも周囲から浮いているような気さえした。分かっている。私は可愛くない。


「去れ、レイチェル」


 冷たい氷のような視線を向けられ、私は嘲笑の中を黙って駆け抜けた。床に散った赤い海老と白いホタテのことは一生脳裏に焼き付いて離れないだろう。


「はぁ……」


 そして、私はここに居る。実家に戻り、メイドに噂されながら、次に何を作ろうかと考えている。キッチンに居る今が一番幸せだ。


 両親は私を心配して、今夜も縁談を探しに行くらしい。


 ――私は一生一人でも良いと思うのに、どうして、周囲の人間はそんなにも私を誰かと婚約させたがるのだろう……。

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