第2話 認めたくない現実・・・そして旅立ち
どれだけ時が立っただろうか・・・
途中で記憶がない。
ティアは目が覚めて気づくと、自分が横たわっていたことに気づいた。
そうか・・・途中で意識を失ったのか。
周りをみると夜は更けていて、森の中にいることを認識する。
焚き火が一つ・・・それと大きな男が一人。
「目が覚めたか・・・気分はどうだ?」
男は立ち上がると、身長2M以上もあるかと思える圧倒さにティアは眉をひそめる。
「あなたは・・・誰?」
男は赤い髪の頭を右手でかきながら、長い耳を下げて見せた。
「ゼフィドだ、一度会っただろう。覚えているか?」
ティアは、はっと気づくと
「ごめんなさい・・・そうですね。それとありがとうございます。私は・・・」
「ティアだろ?知っている。レイナ様に頼まれてお前を探していた」
赤髪の男は、焚き火のところに戻り座りなおす。
「おかぁさんが・・・?」
ゼフィドはなにも言わず、焚き火の近くにさしていた串刺していた焼けたお肉を
ぬくとティアに向け
「食うか?腹減ってるだろ?」
そのおいしそうなにおいと空腹がお腹の虫を活性化させる。
ティアは顔を赤くしながらこくりとうなずき、ゼフィドのもとに寄った。
串刺したお肉に一生懸命かぶりつくティアをみながら、ゼフィドはしばし少女の横顔を
目を細めてみているのだった。
「ティア、単刀直入に言う。僕は遠まわしが嫌いなもんでな」
ティアはゼフィドに顔をむけると
「え?」
ゼフィドの次の言葉にティアは唖然する。
「お前の母親・・・レイナ様は死んだ」
串刺しは手からするりとぬける。
「おかぁさん・・・が?」
ゼフィドは冷静にこくりとうなずく。
「そうだ、レイナ様は死んだ」
ティアは涙目になりながら
「そんな・・・おかぁさんが死ぬわけ・・・」
ゼフィドは焚き火を見つめながら
「僕もその場で戦っていたが、応戦しようとしたときにはすでに暗黒騎士にやられていた・・・これが証拠だ」
ゼフィドは懐から紐で結んだ金髪の包みをティアに投げる。
この世界での習慣で、亡くなった人の髪の毛を紐で結んで包みにいれることはすでに死亡していることだという証拠になるのだ。
ティアはその習慣のことは幼い時から知っている。
ほんのりと髪の毛から母親の匂いが感じられる。
「嘘だ!!絶対嘘だ!!おかぁさんが死ぬわけない!!」
ゼフィドは目を見開くと
「僕はレイナ様の遺体を確認している・・・何もできなかった僕も悪いが」
「嘘だ!!おかぁさんと約束したんだ!後で会おうって!!」
ゼフィドは耳を立てながら、目つきを鋭くすると
「認めろ!!そんなに母親の死体がみたいなら見に行くか!?現実を認めろ!!戦争にはドラマも奇跡もくそもない!!目の前にある現実を見ろ!」
その圧倒さにティアは身を一歩引く。
「う・・・嘘だ・・・おかぁさんがおかぁさんが・・・あ・・ああ・・ああああああああああ!!!!!」
ティアはその場で泣き崩した。
すると地に落ちていた串刺しをとると、自分の首めがけて刺そうとする。
「馬鹿!!やめろ!!」
ゼフィドはその行動に驚きながらも危機一髪でティアの自殺を未遂で終らした。
ティアは涙を流しながら
「ほっといてよ!!おかぁさんのとこに逝かせてよ!!」
ゼフィドは思わずティアの頬を手で軽くたたいた。
しかし、少女にとっては威力は高く土の上に倒れこんだ。
「お前は阿呆か!?なんのために母親がお前を生き残した?お前に生きて欲しいからだろ?村人の死を無駄にするきか?お前はそこから逃げようとしたんだぞ?死んだ人たちの業を背負って生きるんだ、お前は!」
ティアはゼフィドをにらむと
「なんで・・・なんで私が・・・こんなちっぽけな私が」
ゼフィドは目を細めると、低い声でいう。
「お前が・・・この世界の最後の聖騎士だからだ」
「聖騎士・・・ってなに・・・」
ティアはゼフィドに疑問を問いかけるように見つめた。
「レイナ様になにも聞いていないのか・・・そうか・・・」
(それだけあの方はティアを本当に普通の女の子として育てたかったわけか・・・)
ゼフィドはレイナ様がどれだけ自分の娘のこと愛し、平和な時代で普通に育てたかったかという気持ちが伝わってくる。
ゼフィドは目を瞑りながら話を続けた。
「だが、お前が最後の聖騎士だ・・・暗黒騎士と対抗できる唯一のな」
といった矢先にティアは目を開くと
「私そんなのできない・・・剣なんか触った事ない!なんで私が聖騎士なの!?」
ゼフィドはまだ幼なすぎる聖騎士をみながらなにも言わなかった。
「なんかいってよ!何もできないこんなちっぽけな私がそんなのできるわけないよ!」
ティアは立ち上がると暗闇の森の中に駆け出す。
ゼフィドは焦りながら
「待て!!夜は危ないぞ!」
ゼフィドはしまったとおもいながら手元にある、レイピアと大きな袋包みをもった。
(レイナ様・・・あなたはこんな幼い子に大きな運命を背負わせてるのはあまりにも酷いですよ・・・)
ティアは泣きながら、がむしゃらに走り続ける。
(どうして・・・なんで・・・少し前までおかぁさんと普通に暮らしていたのに!・・・おかぁさん・・・私を残していかないで・・・)
ふと立ち止まるとすでに自分が迷子になってたことに気づいた。
周りはなにも見えない。
急に寒さを感じ、緊張感がわいてくる。
すると・・・暗闇の中から声が聞こえてくる・・・
ティアは木を背にしながら四方を見渡す。
「なに・・・誰?」
するとその音は声になり、声はうめき声となっていく。
その赤い光がティアを凝視し、ティアも吸い込まれるようにその目に捕らえられる。
その赤い光が12・・・
その赤い光を持つものがゆっくりとティアの元へやってくる。
ティアは目を大きくし、小さな涙をこぼす。
(狼・・・?)
その赤い光をもっていたのは狼だった。
しかもその体は一際大きく、普通の人間サイズがよつんばになってはってるようにうごいている。
ということは12個の光は、6匹の獣をあらわしたのだ。
グルルーとうめき声がティアを責め立てる。
ティアは恐怖のあまり、歯をガクガクといわせ体が動かない。
(どうしよ・・・いや・・・)
すると低い声が遠くから聞こえる。
「ティアーーーー!どこだーー!」
ゼフィドだ。
しかし、恐怖のあまりに声がでない。
(せめて・・・一声だけでも・・・)
口を開けようと努力するが、奥からうまく声がでてこない。
(いや・・・おねがい・・・たすけて!!)
狼は一気にティアに飛びつく。
ゼフィドはその場面に気づくのが少し遅すぎた。
「ティア!!くそ!!」
死ぬ・・・もう終わりだ・・・
あー・・・これでおかぁさんの元にいける・・・
ティアは目を瞑り、自分の短い人生が終ることを見届けようとする・・・
すると獣のわめき声が鳴る。
どさっと重い音が四方に鳴り、そのまま時が止まる。
ティアはゆっくり目を開くと、目のまえに大きな袋包みがあったのだ。
「なに・・・これ・・・」
ゼフィドも目を大きく開き、驚く。
自分の背中に負っていた大きな袋包みがなくなってるのに気づいた。
「勝手に動いた・・・!?」
袋がハラリと解け、大きな両手剣をあらわにする。
ゼフィドが大声で叫ぶ。
「ティア!!ラヴィスを持て!それがレイナ様が最後に残したお前の剣だ!」
ティアは目の前にある大きな剣の柄を両手で持つ。
その大きさと反対に、羽のように軽い。
その驚きに目を開く。
しかし、ティアは一度も剣を持ったことがない。
「どうすればいいの・・・」
ゼフィドは腰にかけているレイピアをぬくと一匹目の狼の急所を慣れた手で突く。
「僕が倒すまで、それで身を守れ!」
ゼフィドは軽やかな身のこなしで2匹目を倒す。
しかし、一匹の狼がゼフィドの横をよこぎり、ティアのほうへ走り出した。
「しまった・・・」
戦い慣れたゼフィドでも数が多いとすべてを相手にするにも難しすぎる。
ティアは襲ってくる敵を目前とした。
(お願い!わたしを守って!)
そう心でつぶやいた。
すると剣は光りだし、剣の形から徐々に変化する。
剣を持っている本人も、狼もゼフィドもその光景に絶句する。
剣が一瞬、幻を見せる。
(・・・翼・・・!?)
ゼフィドは心でそうつぶやいた。
剣から翼へ・・・そしてその形は盾へと変化してゆく。
ティアの目の前にはさっきまであった剣が盾へと変化したのだ。
若干翼の形に似ている純白できれいな模様がしてある盾。
しかも幼い聖騎士のサイズにあわせたかのように・・・
勢い余った狼は盾にぶつかると閃光とともにふっとび、そのまま動かなくなった。
盾を持っている本人も唖然としている。
「そのまましていろ!」
これは思ってもいないチャンスと踏んだゼフィドは素早く3匹目の狼をレイピアで貫いたのだった。
「今日も冷えるわ・・・」
フサフサの耳をした美女が暖炉に薪をいれると、ドアのほうから鐘が鳴る。
だれかが訪ねてきたのだろうか。
「こんな朝早くからだれかしら、はぁーい・・・どなた?」
女はドアのほうに歩きながら答える。
「マシュリ、僕だ。ゼフィドだ」
マシュリは気を緩め、めんどくさそうにドアを開ける。
「珍しいわね、どうしたの?こんなはやく・・・」
マシュリはゼフィドの背中をみて驚きを見せた。
「ティアじゃないの!こんなに衰弱しちゃって・・・早く入って」
「悪いなマシュリ、ティアの顔見知りっていうとお前しかいなくてな」
マシュリがベッドに寝かしてつけたティアの頭を撫でながら答えた。
「もう11だっけ・・・大きくなったわね。レイナ様の元を離れたのが私が20前の時かしら。で突然どうしたの?」
マシュリは微笑みながらティアを懐かしむ。
ゼフィドが椅子で足を組み替えると眉をひそめながら言う。
「聖騎士狩りがすでにティアの村まで及んだ。フィラデルフィーア大陸最南西まで来たということは聖騎士は全滅したようだ、こいつを残してな」
ゼフィドは眠っているティアをみつめた。
マシュリはコアラによく似た耳を下げ気味ながらうつむいた。
「そう・・・でレイナ様は?」
ゼフィドは首を振った。
「亡くなられた・・・」
マシュリはゼフィドから顔をそむけた。
「あ・・・なんか目にゴミが入ったみたい、ふふ」
わざとに笑っているのがわかるがそれはマシュリの意地だろう。
昔からそうだった・・・マシュリは。
何もかも我慢する。
ゼフィドはそれを知っている。
「どうだろう。しばらくティアをマシュリのそばにいさせてくれないか。僕はファブリアフォールに行って、ハルディア将軍に報告せねばならん」
マシュリはこくりとうなずいた。
「わかったわ。まぁ昔からの義姉妹みたいなものだったしね。でゼフィは?」
ゼフィドは椅子から立ち上がるとコートを羽織る。
「テルミールはどこだ?ティアの様子を見てからここを発つ。ティアが聖騎士として生きる、生きないどっちにしても報告せねばならん」
テルミールとは、この世界で言う電話みたいのだ。
世界にテルミールと言う木があり、その木は世界各地の同じに木に話を伝えることができるという不思議な木なのだ。
あるひとがそれを発見して、改良したことで一般的な生活でそのテルミールは多く活用されてる。
ゼフィドが家にでたあと、マシュリはティアのそばにある大きな両手剣を見る。
(幼い女の子が小さな手でこんな大きな剣を持ち、大きな運命を背おあわせるなんて・・・なんて非情な神様なのかしら)
ティアは一言寝声をいうと涙を一粒こぼす。
おかぁさん・・・と。
あたしの名前はティア。セレスティア・アルカーナ。
今年で15才になります。
4年前まではフィラデルフィーア大陸の最南西の村、ファンスターにいましたが、聖騎士狩り(パラディンテイカー)の襲撃で今は魔法国家のアルファステイツから少し離れた小さな家でマシュリ・エテルナことマシュ姉と一緒に暮らしています。
コーラル族が住むこの国でまたマシュ姉もその種族、ただその国の元で働いているたった一人のエラファー族のゼフィド・レッドフィールドことゼフィがたまに訪ねてきては剣技から学業まで惜しみなくたたきこまれました。
恐い人だけど、本当は根がやさしい人なのです。
マシュ姉は私がへこんでる時や悩み事があれば話をきいてくれました。でも、怒る時はゼフィドもかなわないほど恐ろしいものでした。
なんか兄と姉がいるようなきがしました。
ある時、ゼフィドがこういいました。
「聖騎士として生きていくか?」
わたしは最初拒みました。
わたしみたいななにもできない女一人がなにができるんだって。
そのたびにわたしは泣きながら、アルファステイツの全景がみえる丘で一人よくいました。
だんだんみてるうちに母親の言葉をおもいだしました。
「おかぁさんはね、この世界すべてが好きなの。だからティアもこの世界がどんな形になろうとも愛してあげるの」
私自身どこまでできるかわかりません。
ですが、私だけができること精いっぱいやってみたいと思いました。
母親が最後に残した剣「ラヴィスカリバー」と紐でむすんである母親の髪の毛・・・
私の決意をゼフィドに伝えました。
するとゼフィドは「一度ハルディア殿に顔を合わしたほうがいいな」といい、これから私の旅が始まるのだと確信しました。
マシュ姉も一緒です。
わたしがすべきこととは一体なにか?
なぜ聖騎士なのか?聖騎士とは一体なにか?
わからないことはいっぱいあります。
なので、私はそれを自分自身で確かめたいのです。
第2話終わり
第3話謎の仮面の騎士その名は「ソラ」に続く