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大虐殺

ハンドブレード・零式はメリーシャの力でさらに強大に進化した。

2本しか生み出せなかった刃は10本以上に増え、その一本一本をまるで己の指を動かすが如く意のままに操ることが出来る。これがメリーシャの自動演算能力の力か。


前世の言葉に『辻斬り』という言葉がある。

日本刀を片手に通り行く人々を斬り捨てる、所属の藩を持たない浪人侍がよく辻斬りになったと言うが、実際の真偽のほどは知らない。私は殺人快楽主義者ではない『つもりだった』し、何より日本史の知識は人並み以下だ。だが、今私がライングレッド王国の名を背負いながら辻斬りになっている現実だけを受け止め、そして溢れ出る快楽に身を委ねることに何の躊躇いもない。

既に私の下着は水も滴るいい塩梅になっている。純粋な水によるものではないが。


「アハハハハハハハ!!」


私に向けて魔法で作った火球を投げつける愚かな守護魔術師の頭を撫で切りにし、剣を振り下ろす剣士たちを鎧ごと輪切りにしてやった。血で滴る零式の刃たちは、まだ血を吸い足りないとばかりにうねる。分かっているとも。お前たちの飢えも乾きも、私にはよく分かる。だからまだまだ殺してやろうではないか。


「怪物めエエエエエエッ!!!」


四肢を引き裂き、駒切にした兵士が言い遺した言葉が建物に響く。

ああそうとも私は怪物だ。それは魔法や飛行技術の有無によるものではない。昔から私はそうだった。

感情のないモンスターだと陰口を叩かれていたよ。人を成績でしか判断できず、奴は人間を生命ではなく己の利益効率を最適化するための人形としか見ていないとな。


「ガオオオオアアアアアアアッッ!!」


目の前の兵を三人まとめて、ズタズタに引き裂いてやった。

女と男、そして恐らく初陣であったであろう子供。実に哀れだ。

相手が私でなければ、今頃勝利の美酒に酔いしれていただろうに。


ペルドット共和国の軍勢は200万。そして私は既に閲覧の間に来るまでにその半数を殺戮している。

殺した数はもう忘れた。どこぞのラスボスの言葉を引用すると、『今までに食べたパンの数を覚えているのか?』という話だ。


そして、玉座にて小便を漏らしている男の前に私は立つ。

マスクの一枚や二枚では防げない程の異臭が男の股間付近から漂ってくる。実に汚らしい、そして汚らわしい。今すぐ首を跳ね飛ばしてやりたい衝動に駆られる。


「アヒャ、アヒャ、アヒャヒャハハ⋯⋯!」


男は我を失っていた。

手に持つレイピアの剣を、まるで玩具を振り回すが如く私に向かって振り下ろす。だが私の零式はその剣を一撃で跳ね飛ばした。


「ジルージア書記長殿。覇権国家樹立の夢はお捨てになられた方がよろしいですわよ」


「ヒャハ⋯⋯飛んでる、飛んでるう!!」


上空二メートルで漂う私を見てそんな言葉を漏らすジルージア。

下の口だけでなく上の口の緩みも酷くなっている。まるで、私がかつて本社営業部長の座から引きずり落として地方の部署に左遷してやった時に、私の目の前で絶望の余りに脱糞したあの男のようだ。


「マリー殿⋯⋯貴方は一体⋯⋯」


「黙っていた方が身のためですわよバルグ」


後ろでそう声を漏らしかけたバルグにそう忠告すると、零式の刃先でへたり込んだジルージアの襟元を持ち上げるとその場でつるし上げた。


「目の前の罠と分かりきった餌に飛びついた末路ですわね、ジルージア書記長」


「目の前の⋯⋯エサ?」


どうやら、この男は分かっていなかったようだ。

デ・ヘカテス連邦が所詮は中堅国家にすぎず、経済的にも深い交わりがあるわけでもない、ましてやかつて内戦の末に分裂した過去を持つペルドット共和国と連携を結ぶ意図は『体の良い道具にしやすいから』以外の理由が存在しないだろう。


この男は今回の連邦との提携を足掛かりに覇権国家として超大国になろうという野望を持っていたようだが、そんなことが本気で起こると思っているのだろうか。


「デ・ヘカテス連邦は貴方達を支援しようとした理由はただ一つ。火中の栗を貴方達に拾わせて、貴方達にデメリットを全て背負わせた後に、甘く豊潤な『利益』を全て頂くつもりだったからですわ」


「嘘だ! ヘカテス連邦は⋯⋯ヘカテス五世は我等に繁栄を約束してくれた!!」


ヘカテス五世。恐らく連邦の最高権力者だろう。

約束だと? この世で信じてはならないのは、政治家の口約束と大学生の『行けたら行く』だというのは全人類の総意だと思っていた。

しかしやはり一番信じられないのは、上司の『君の幸運を祈っている』だろう。ソースは私だ。


「夢を見すぎると冷静な判断が出来なくなるのですわね。良い勉強になりましたわ」


もういい。面倒だ。

この男を潰して、後は残党を処理して⋯⋯


「お待ちくださいマリー殿!!」


私の肩にしがみついて刃を止めようとする男がいる。

私を止めたのはバルグだった。


「命を狙われた身では御座いますが、一つ提言させて頂いてもよろしいでしょうか」


バルグの様子を見ていると提言というより、懇願だ。

それとも今の私が冷静ではないと見込んでこんな行動をしたのだろうか。だとしたら失敬な話である。

私は興奮してはいるが、理性を失ったわけではない。


「ジルージアという指導者を失えば、この国は事実上の廃国となるでしょう。そうなればこの国の民は流浪の民と化し、行き場を失った民は⋯⋯」


ああ、それが『普通』の考えだろうな。

民が行き場を失い、御する術を失えば、起こるのは紛争と混乱。

バルグはそれを防ぐためにもここでジルージアを殺すのは適切ではないと考えたのだろう。


だが、それを打開する一つの術がある。

お前如きでは推し量れぬ究極のウルトラCがな。


「今日より、ペルドット共和国はライングレッド王国の統治下となりますわ」


「⋯⋯は?」


「ペルドット共和国は消滅し、この国はライングレッド王国の一部となりますの。つまりこの瞬間、ここはライングレッド王国になったということですわ」


ならば、この国をライングレッド王国にしてしまえば良いだろう。

ペルドット共和国という形を存続させてしまえば、いずれ新たな指導者が生まれた時に反逆される可能性が生じる。アインが言っていた言葉を信じるならば、『未来永劫続く火種をここで消す』ということだ。


「お、お待ちください! 我らがライングレッド王国には、ペルドット共和国の民を養っていくだけの財力も食料も存在しておりません! 彼らを招き入れれば、王国民にも負担を強いることとなり、それでは国全体からも不満が生まれることと⋯⋯」


「だ・か・ら、こうするのですわ!!」


何故、私が反乱勢力になりえるペルドット共和国の軍を殺戮したのか。

そして農民や市民だけを残したのか。

それらは全て、こうするためだ。


「私の力があれば、この国全体を豊かな農場に変えることが出来るのですわ!!」


「何ですと⋯⋯!!」


私はペルドット共和国を農業国に作り変える。

荒れ果てた大地を魔法でミネラルたっぷりの肥よくな大地に変性し、荒廃した建物群は全て頑強に作り直す。私の魔力総量とメリーシャがあれば、それが出来る!!


「ペリドット共和国を作り変えますわ! 今、この瞬間に!」


メリーシャの最高出力を発動する。

緑色の光がメリーシャから輝き、ほのかに腕輪に熱が帯びる。

魔力をありったけメリーシャに注ぎ込み、脳裏に現世の肥よくで広大な大地を思い浮かべた。確か仕事で北海道から取り寄せた資料に映っていたものだ。マグネシウムやカルシウム、あらゆるミネラルを出来るだけぶち込む。虫も湧きそうだが、それはもう少ししてから一斉に始末すればいい。


建物は、地面から鉱物を引っこ抜いて建物を形成しよう。

幸いこの土地は粘土質が多い。レンガを作るのには苦労しなさそうだ。

なるべく世界観が崩れないように、中世のレンガ造りを基軸とした家造りだ。ス〇イツリーのような巨大建造物を作っても面白いかもしれないと一瞬思ったが、風雨で壊れたら大惨事を招きそうなのでやめた。


「神よ⋯⋯!!」


荒れ果てた土地がフカフカの布団のようによく耕された肥沃な大地に変貌していく。

壊れ果てていた建物が、まるでその一つ一つが伝統工芸品のように品のある細工の施された美しい街並みに変貌していく。


私の名誉のために言っておくが、これらの建物は決して私が壊したのではない。

軍事国家樹立を目指して国民から税を多く搾取していたジルージアの政策により、ペルドット共和国の国民は疲弊していたのだ。それこそ、壊れた家を修理する暇もないほどにである。


だが私とメリーシャの力なら、国家規模で全てを作り直せる。無論、魔法による妨害がないことが前提条件だが、それを今この瞬間に証明して見せたのだ。

たったの数分後、ペルドット共和国は生まれ変わった。


「マリー⋯⋯殿」


唖然として街並みを眺めるバルグ。

ペルドット共和国は豊かな街並みと、どこでも農業が可能な最高の土地を持つ国へと変わったのだ。


「あとは種を撒いておけば、勝手にどんな野菜でも育ってくれますわ。水はけの良い土地を御所望なら、別途私を呼んでくださいまし。500万ゴールドで果樹園を作って差し上げますわよ」


これで、国の統合による食糧問題は解決するだろう。

初期の食糧不足はダイナディア帝国からの援助でしのげば、半年後には補って余りあるほどの食料でライングレッド王国は満たされるはずだ。


「文句はないですわね、バルグ」


仮にあったとしても言わせない。

ここから先の道に情は不要だ。


「そして、国に王は二人も要りませんのよ」


二人の王を持つ国が上手くいった試しなど一つもない。

だから、最後の憂いをここで消し去ることにした。

両の手に私はハンドブレード・零式を再び具現化させる。


「ま、待て! 私にはまだやるべきことが⋯⋯!!」


ションベンを股から垂れ流す男が剣を放り投げて命乞いを始める。

だが知ったことではない。いつの時代もクビを飛ばす時はあっけないものだ。

ジワジワと湧き上がる興奮と、滝の如く股から流れ出る快楽の雫。


「私の創る国に貴方は不要ですのよ。永久にさようなら」


「あっ、悪魔めエエエエエエッ!!」


最高の快感もこれで終わる。燃えるような興奮と共に私は零式を振り上げる。

究極の絶頂を感じながら、私はジルージアを切り刻んだ。


そして、果てた。

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