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裏切り者の末路

時刻は少し遡り、マリーとジェクトが秘密の部屋の扉を開けた頃。

その部屋の中には、ありとあらゆる衣装がぎっしりと所狭しに並べられていた。


私の計画を完遂するにはジェクトと、そしてもう一人の助けがいる。

だが何よりまずは変装してもらう必要があった。


「ここは王族が使うためのドレッシングルームですわ。ここには世界中の服が古今東西から揃えられておりますの」


我々王族が舞踏会や遠方の国の社交界に呼ばれることは日常茶飯事だ。

そのためどんな国に行っても問題ないように、あらゆる文化を想定した衣服がこの部屋に全て揃えられているのである。ドレスやタキシードが無数に押し込まれているこの場所は本当は王家の人間とその従者しか入れない場所なのだが、今回は特別にジェクトの入室を許可することにした。


「すげえな。ここにある服を全部売り払ったら城が立ちそうだぜ」


そんなことを言っているジェクトの前に、私は何着かの軍服を置いた。

この部屋には世界中の全ての軍隊の軍服も常備している。


「今から貴方にはお着替えをしてもらいますわ。あとお化粧も」


「はあ? 何で俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ!」


「つべこべ言わずに従いなさい。あと、これから貴方にセリフを覚えてもらうための紙も渡します」


「セリフう!? 俺は役者じゃねえぞ!」


「一時的に貴方はこれから役者になるのです。一応貴方は私の計画の中では重要なんですから、しっかりやってもらわないと困ります」


そう言いながら、私は通信魔法をもう一度発動する。

この計画は一人では完遂するのが難しい。よってもう一人エキストラを呼ぶことにした。


「安心しなさい。貴方一人にやらせるわけではありませんわ。すぐにやってくるはずですわよ、もう一人の協力者が⋯⋯」


すると部屋のドアが開いて中に青髪の少女が現れた。

現れたのはレアンである。


「さあ貴方もそこにある適当なドレスを着てメイクアップをするのです」


「??????」


レアンには、『今すぐこの部屋に来い』とだけ伝えたので何も要領が分かっていないようだ。

仕方ない。取り敢えず最低限のことだけは伝えておくとするか。

私は部屋に置いてあった羽ペンと羊皮紙を二枚手に取ると、さらさらといくつかセリフを走り書きをする。

そして書き終えた後に一枚ずつジェクトとレアンに渡した。


「これはゲローに自分の罪を自白させるために必要な撒き餌ですわ」


「撒き餌? どういう意味だよ説明しろ!」


「貴方は演技が下手そうなのであまり詳しく説明するとボロを出す可能性がありますわ。取り敢えずこれから貴方方には私が渡した紙に書かれたセリフを、10分以内に全て覚えてもらいます。そして書いてある通りのことを完璧なタイミングで言えるようになるまで練習しますわよ」


「だから俺は劇団員になった覚えはねえ!!」


「つべこべ言わずにやるのですわ!! レアンはもう練習し始めてますわよ!」


「そりゃ姉ちゃんが素直なだけだ!」


「だったらあなたも素直になりなさい!」


「嫌だね!」


「力づくでもやらせますわよ!」


「上等じゃねえか。やってみろ!」


などとゴタゴタが少し発生したが、結果的にはジェクトにやらせることに成功した。何やかんややってみればノリノリだったのはここだけの秘密だ。


今回の私の計画はゲローに私に対しての殺意を持たせることだ。

そのための下準備として、ジェクトとライアンには以下のことをやってもらうことにした。


まずはジェクトに近衛兵のふりをしてもらい、城中に私がゲローが殺人に関与したという噂を広めていると伝えてもらう。だが実際は噂を広めることはしない。何故なら、もし本当にそんな噂を流せば余計な第三者がゲローの所に噂の真偽を聞きにくる可能性があるからだ。私の計画に邪魔な変数を持ち込まないためにも、私の掌の上だけで踊ってもらうようにタイミングを上手く調整することが今回の計画の肝なのである。


そしてジェクトの報を聞いたゲローは間違いなく焦り、その噂が真実かを確かめるために外に出るだろう。そこでレアンの出番だ。

レアンには貴族の貴婦人を演じてもらう。そして、毒を用いて兵士を殺害したという噂が広まっていることをゲローに伝えてもらうのである。ゲローもまさか毒を使ったことまで把握されているとは思ってもいまい。それを聞いたゲローは自分が追い詰められていると感じるはずだ。


ゲローはプライドが高い男だ。自分が年端もゆかぬ子供に自分の地位を脅かされていると感じれば間違いなく逆上するだろう。そして私に対して殺したいほどに強い殺意を覚えるはずだ。

だが王族である私を日中に襲撃することは難しい。となると最も襲いやすいのは夜の人々が寝静まる時間帯。恐らく私が寝ている時を狙って襲い掛かってくるだろう。

怒りを自分でコントロールできなくなるまで怒らせるために挑発用の魔物の卵も用意し、後は自分でベラベラと事の真偽を話してもらうための誘導尋問をすれば計画は完遂する。


そして私は最強の証人を作るために、夜中に兄のローディウスと父を呼んだのだ。

なお今回の一連の計画はジェクトが計画したものであると父と兄には伝えている。

そして事の経緯をジェクトに説明してもらい、バルグが無罪であることと、ゲローこそが新兵殺害の犯人であることを知らせたのである。

囮として私を使うことには父と兄はともに大反対していたが、万が一の時はジェクトがマリーを守ると約束した上でゲローが全てを自白するまでの間、父とローディウス、ジェクト、レアンの4人は暗闇の中で待機していたのだ。



「国家反逆罪、国家機密漏洩罪、殺人罪、違法毒物所持罪、まだまだ余罪はありそうですがこの瞬間だけでも以下の罪状が該当します」


レアンが空中で円を描くと空中から青い杖を取り出した。

これはレアンの愛用する杖、その名も『流星氷華(スター・グレイシア)

万年雪に2000年間氷漬けにされていた神木から作られた世界に一本しかない魔法の杖であり、癒しの加護と氷雪系魔法の加護の両方を併せ持つSS級の魔法具だ。


「ゲロー・サリバル。貴方を捕縛します」


レアンの杖が煌めき、ゲローの周りを巨大な氷塊が覆う。

まるで氷で作られた牢獄の如く、氷はゲローを囲んで動きを封じた。


「ゲロー。お前の軍籍を剥奪する。爵位も功与も同様に全て剥奪だ」


「クソッ、クソッ、クソオオオオオオオオッッ!!」


父の無慈悲な言葉に、ゲローは涙を流しながら地を叩く。

するとローディウスは剣を腰に帯びた鞘に納めると言った。


「僕は確かに国の長となるには不十分な人間です。才もなく、頭脳ではマリーに劣り、父のように武芸に秀でているわけではありません。僕は⋯⋯僕は、王になるべき人間ではないんです!」


それは自分自身、認めたくはない真実だったのかもしれない。

握り締められた拳と、食いしばった口元が如実に表していた。

だが、ローディウスはゲローに決然と言い放った。


「でも僕は自分自身の保身のために国を、家族を売るくらいなら、自ら死を選ぶ!!」


ローディウスの目に迷いはない。それは本心からの発露だった。

またその言葉を聞いた父の頬が僅かに緩んだのを私は確かに見た。


「国賊、ゲロー・サリバル!! その罪を死をもって償え!!」


国王、ローディウス、レアン、ジェクト。

この4人を前にしてもう逃げ道はない。

すると、ゲローはフッフッ⋯⋯と低い声を発し始める。


「死をもって償えだと? バカめ、全てを失った私にもう生き続けてまで守る物など存在しない!」


その瞬間、私の体を得も知れぬ快感が走り抜けた。

ああこの感覚⋯⋯懐かしさすら感じる。ペルドット共和国で感じた時以来の快感だ。


「国だ国だと正義感に踊らされるお前たちはいずれ、連邦の脅威の前に屈するのだ!!」


じんわりと私の座るベッドのシーツに冷たい何かの感触が広がっていく。

下腹部を中心に広がる究極の快感、それは死神の足音が奏でる旋律によって引き起こされることを私は知っている。


「私はお前たちの手では死なん!!」


ナイフを取り出したゲロー。

その銀の光を見た瞬間再び私の体を快感が走り抜け、ぴちゃりと床に雫が零れた。

そしてそのナイフを見た瞬間、その場に居る全員がゲローの意図を理解した。


「待て!! ゲロー!!」


「地獄にてお前たちが来るのを待っているぞオオオオオオッッ!!」


グサッ!!という肉を切り裂く音が闇に響く。

苦しみに身を悶え息を絞り出す掠れた音と、ドボドボと大量の血が流れる音が私を絶頂の彼方へと誘う。


「ハアアアッ♡」


思わず声が出てしまったが、それに気づいた人間は一人もいるまい。

ビクビクと痙攣しているのは死の淵にいるゲローだけではないとは誰も気付かない。


「さら⋯⋯ばだ。お前たち⋯⋯は、ヘカテス⋯⋯五世には、勝て、ぬ⋯⋯」


ガクリとゲローの腕が垂れ、ナイフが地面に転がり落ちる。

レアンが駆け寄るが、もう手遅れなのは誰の目にも明らかであった。


ゲローは自らの手によってその生涯を終えた。

そして私は一人部屋の隅で、舞い散る自らの雫に濡れながら果てた。

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