第2話 どこにも属さない森・3
2話「僕たち、」3話「私たち、」 2・3話「「入れ替わってる?!」」
「やっぱり、持つべきものは料理のうまい隣人だね。」
「そうだな。ウノが来てくれなければ、わしらは生肉の味しか知らんかった。」
それを聞くとウノは顔をしかめて、ため息をついた。
「ほんと、わざわざ危険な森の奥に住んでる人っていうものは、変人ばっかりよね。」
かわいい顔で毒を吐くウノだ。ハタナギはすねて狭い部屋の隅っこで丸くなっている。
ハタナギは、幼いころ森に捨てられ、黒狼とは敵対関係にある、白狼に育てられた。
今ではもう白狼はめったに見かけないが。
そしてそれをハタナギは、誇りに思う反面、自身の唯一の欠点だと思っている。
「ハタナギ師範、私も生肉しか知りませんでしたよ。」
私が慰めようと、木のボウルにこびりついたシチューをかきこみながらそう言うと、
ハタナギはかえって機嫌が悪くなったようで、
「ケインは別だもん。人間でも動物でもなんでも無いもん。」
と、子供のように呟く。
・・・いい年したおじいちゃんがそんなことしてもかわいくとも何ともないですよ。
だんろの薪が静かに燃えて、ウノのきれいな赤毛を照らして見せた。
もし、私が人間だったなら、ウノに出会っていたのなら、きっと、恋をしただろう。
今だっていとおしいが、所詮何者でもない私だ。
普通を望んだってかなわないから。
ただ、なにも考えまいと、目的も無く剣を振り続けた。
朝。
今日は訓練も無いので昼過ぎに起きて、着替えて何か食べようと居間にでると、
何だかいつもと違う感じがして。なんていうか、暗い感じ。
昨日のことからまだ立ち直って無いのだろうか?
まったく、精神年齢の低いおじいちゃんだ。
窓から差し込む太陽の光を眺めていたハタナギは、不意に呟いた。
「ウノの父親が死んだらしい。つい最近昇進したばかりだったが・・・、暗殺らしい。
さぞ無念だったことだろう。戦場で死ねなかったんだ。」