部活申請
安奈は部活申請できる?
5
サトと安奈は小さい頃から何をするにも一緒だった。
生まれた日も同じ、生まれた病院も同じ。サトのママも安奈のお母さんも仲が良くていつも一緒に公園に遊びに連れて行ってもらった。
用事がある時はお互いの家で夕食まで取り、ひとりっ子同士まるで双子のように育った。
活発なサト、おとなしい安奈。なんでも思ったことを口にするサト、思った事の半分も言えない安奈。
両親は二人で一つみたいだと笑ったものだ。
幼稚園の時から、いじめられる安奈をサトが守っているのが定番になっていて、小学校では安奈に手を出してサトにぶん殴られて泣いた男子が何人もいた。
おとなしい安奈だけれど、二人とも外で遊ぶのは大好きで暗くなるまで走り回っていた.
「それで、部活申請はどうするのかな?」
陽介が優しく聞いた。
安奈がうつむいて赤くなる。
「そんなに急がせないでよ!メガネ!」
サトが間に割って入る。
「うひゃぁ~けっこうイケメンでとおってる陽介にメガネとかいっちまうんだ?ほぉ~こわいこわい」
少しのけぞった陽介を指さして高松翔が面白がっている。
「じゃ~さ~ポテチでもたべる~~?」
力いっぱいポテトチップスの袋を開けようとして美奈香が、力を入れて赤い顔で笑う。
「もらおうじゃないの!」
サトが美奈香の持っている袋を奪い取って、事もなげにバリンと袋を開けて中からポテトチップスを握って口に押し込んだ。
「そんなにいっぱい食べたら、なくなっちゃうじゃ~~ん」
珍しく悲しそうな顔を作って美奈香がサトから袋をうばう。
「ま、時間は十分あるさ、気が向いたら言って来いよ。それより、陽介今日の宿題うつさせろ!」
熊五郎が陽介にノートを借りて写していく。
「あ~~オレも俺も」
翔が隣に座っると、その間に美奈香が椅子を強引に引き入れて書き始める。
「そう~~、今日の宿題、すっごくむずいんだよね~~めんどくさ~い」
美奈香のカールした髪が邪魔で、翔が立ち上がり陽介のノートをのぞきこむ。
「オレにも写させろっつぅの!」
熊五郎たちが宿題のノートを写しているところから遠い窓際に座った安奈たち。
「あ、の、あたし」
安奈が小さな声で呟くと隣に座っていたサトが顔を寄せて耳を近づける。
「なに?何部を作りたいの?」
安奈がごちょごちょと口ごもっているのを、顔を上げた美奈香が
「な~~に~?安奈ちゃん、あたしに聞こえるようにいってみて~~~?」
その美奈香の大きな声に反応したのは、サトだった。
「聞こえなくたっていいだろ!あたしがそっちに聞こえるように言ってやるから」
「だってぇ~、安奈ちゃんが部活申請するんでしょ~?通訳いらないじゃな~い?日本語だし~~~、ね、あんなちゃ~ん」
美奈香の言葉が終わるか終わらないかの間に、サトが立ち上がって熊たちの方に歩いてくる。
「通訳だって?だいたいチャラチャラしてて、うざいんだよ!あんたら」
サトが喧嘩腰で危険な香りが充満している。
「待てよ!主役はお前じゃないだろ!安奈がここに来た理由があるだろ!」
熊五郎の声がサトの歩みを止める。
「サトちゃん!わたし、陸上部をつくりたい!」
安奈がみんなに聞こえる声を出した。
「サトちゃん、陸上部に入りたいのにこの学校ないって言ってたよね」
語尾が小さな声に縮んでゆく。
「え?あたしの為?」
サトが不思議そうな顔をする。
「ううん、わたしも走るの大好きだし」
もう一度声がフェードアウト。
「なら、話はべつ。あたしが部活申請するわ!」
サトが熊たちの方に顔をむけて
「いいだろ?」
と、あごを上げる。
「いいんじゃね?」
高松翔がサトに部活申請書を渡すと、隣で本を開いていた新城陽介が腕組みをして
「一つ問題点があるよ。部員は三人以上必要って事だけど」
ノートから顔を上げて熊五郎が笑う。
「オレ、入ろうか?」
安奈の答えを待たずにサトが答える。
「いい!入ってくれなくなくて、いい!他に人探してからもう一度来る!」
そう言うと、安奈の手を握ってサトは申請書をヒラヒラさせながら、生徒会室を足早に去って行った。
まだ何か話したりない風の安奈を引きずって。
その姿を見送りながら、美奈香が「ぶぅ~~」と口を尖らせた。
「なんで、おまえがブーたれてんの?」
瞬く間に風のように去って行った二人に、不思議な空気が流れていた。
不思議な奴らだ。
熊五郎はノートに目を落としながら思った。