波乱の幕開け?
安奈が部活申請に来てから数日後のお話
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生徒会室に安奈が現れて部活申請したいと言ってから数日が経っていた。
「熊ちゃ~ん、生徒会室いこうぜ~~、あ、それと帰りラーメン行く?今日弁当早く食べちったから腹減ってんじゃね?」
今日はピンクのTシャツの高松翔、新城陽介は「ラーメンいいね」と笑う。
窓際にかたまった女子が小さく悲鳴を上げてなにやら小声で話してはきゃあきゃあ言ってこちらをうかがっている。
「オー」そう言いながら立ち上がった熊五郎は、ふと振り返り
「ちょっと待ってろ」
と言うと教室の隅の方に歩いてゆく。
開け放たれた教室の窓からはさわやかな風が吹いて、一番後ろに座って帰り支度をしていた安奈の柔らかい髪を気持ちよさそうに撫でてゆく。
「あのさ~、部活のことだけど」
いつも教室の隅で印象の薄い彼女がわざわざ生徒会室まで来たのは、思い入れがあったのかもわからない。
目立たない女子に声をかけるのを周りが不思議そうに注目している。
笹塚熊五郎が山田安奈の前に立って、次の言葉を口にしようとしたその時。
サトが割って入ってくる。
「なに?なんか言いがかりでもつけるって言うの?言いたいことがあるならあたしに言ってよ!」
背の高い熊よりは低いが、女子の中では一番に背が高い村上里美は仁王立ちで熊をにらみつけて立っている。
サトを見つめて熊がニヤリと笑う。
「来たな」
「ただ、聞いてるだけじゃね?何で戦闘モードはいってっかな~?」
高松翔が熊の隣に来て両手を広げて肩をすくめる。
「言いたくない理由でもある、とか?」
陽介が涼しい瞳を安奈に向けて歩いてくる。
「まって」
安奈が聞こえる声をだしたのでみんな、おっと顔を見合わせる。
その声に、サトが慌てて
「部活の申請に行ったって知ってるよ。申請だったら、あたしがするからいいでしょ。安奈をいじめないでよね。この間安奈を拉致ったのあんたなんだよね、生徒会長!」
熊の顔を再度睨みつけてサトが声を荒げた。
その声に反応して甲高い声がした。
「は~~い、は~~い、それ、あったしどぅえ~~す!」
副会長とは思えない美奈香が手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねながらやって来た。
天真爛漫、いつにも増して楽しそうだ。
今日は頭の天辺に水玉のリボンが揺れて、珍しく両肩にゆるい三つ編みが跳ねる。
「は?結局こいつ怒らせた犯人はおまえか!」
熊が呆れた表情で美奈香を見下ろすと
「え~?だって聞かれなかったでしょ?熊ちゃん達ったら~」
更にぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる。
「あんたが安奈連れてったの?いい加減にしてよ!どういうつもり?」
サトが今度は美奈香をもの凄い形相でにらんだが
「だぁってぇ~、部活動したいっていったからぁぁ~部活申請させてあげようかなぁ~っておもったんだも~~ん。あたし、まちがってるかな~?くまちゃ~ん」
身体をくねらせて口をとがらせて熊五郎の顔を見上げると、にっと吸血鬼みたいな八重歯を見せて笑う。
「いや、間違ってない」
熊五郎が言うより早く
「でしょでしょ?みなか、えら~~~い?」
高松翔が呆れた顔で
「おっまえ、無理くり連れて来たんじゃね?」
ブンブンと顔を振りちがうと主張する美奈香。
「じゃ、本人の意思で来た、って事なんだよね」
陽介が冷静な声を出して安奈の方を見る。
こくんと頷いた。
「じゃ、行くぞ!」
熊が親指を立てて、あごで教室の出入り口をさした。
すると
「一人で行かせられると思ってんの?あたしも行くよ!あんたたちみたいな、むさっ苦しい奴らの中に安奈一人で行かせられないもん」
サトが安奈の手を握った。
困った表情の安奈。
熊五郎は、陽介に目くばせして先を歩いて行く。
小さな安奈を囲んで、背の高い連中がぞろぞろと生徒会室に向かう。
廊下ですれ違う生徒たちは、何事かと両脇によけて立つ。
波乱の幕開け、みたいな気がする。
熊五郎はふとそう思った。