幼なじみ
小さい頃から一緒に育ってきたサトと安奈。
何かが変わっていく予感がサトの胸に芽生える。
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「ねえ、安奈。変な奴にはついて行っちゃいけないよ!もう、どんだけ心配したと思ってるの?」
サトが前を歩きながら振り向いて安奈の顔を覗き込む。
身長差があるので、大人が子供に話をするようだ。
「連れて行かれた訳、じゃないよ」
恥ずかしそうにうつむいて、覗かれたサトの顔から眼をそらす。
「何言ってるの?あの、生徒会長?あいつが来てからなんだか学校中がいつもと違う感じで、ちょっと不安なんだよね、あたし」
安奈の横を歩きながら、サトはため息まじりに言う。
「前はさ、注意してヤな奴から安奈の事守っていればそれで良かったけどさ。なんだか、誰もかれも、調子に乗ってるっていうか、行動的になってるっていうか。とにかく、あたしは怖いんだよ!わかるでしょ?」
ざわつく胸の鼓動は、生徒会長とその取り巻きの姿を想像すると苦しくなる。
「走ろう!」
安奈がくっきりとした口調で前をむくと、足を速める。
小走りになると地面を蹴って走り出す。
「お!競争ね、負けないよ!」
サトも安奈の後ろ姿を追って、走り出す。
この道はサトと安奈の団地に向かう公園のある道。真っ直ぐな直線が長く続く。
小さい頃からサトと安奈はこの真っ直ぐな道を競争してきた。
走るのが早い二人は、運動会でもリレーに選ばれては競争するのが常だった。
木々がざわめき、緑が駆け抜け風が髪を揺らす。
さっきまでのざわついた胸のどこかが、落ち着いて楽しくなる。
「ゴール、同着」
サトが息を切らせて笑う。安奈も肩で息をしながら笑顔を作りサトを見つめる。
「気持ちいい」
「だよね~」
サトが長い手足を伸ばして空を向いて汗をふく。
「うん」
安奈も空を仰ぎ見る。
どこかで子どもの笑う声が聞こえている。
空は少しずつ夕焼けの色に変わって、今日一日が終わるのを知らせているようだ。
「じゃ、また明日、朝迎えに行くよ!」
「うん」
手を振り二人は団地の一角に入って別れる。
サトは胸が幸せでいっぱいになる気がして、振り向いて安奈の姿を探す。
いた、今日も安奈は可愛い。そして、今日も安奈の笑顔で別れる事ができた。
良かった。明日も安奈を守って行こう。
サトはほほ笑みながら家に向かう階段を上って行った。