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朝の光 サトと安奈  作者: sakurazaki
18/20

安奈のいない部活

安奈がいないまま始まった部活。熊五郎がサトに声をかける。

 18


翌日月曜日は雨だった。

薄暗い雨雲が空に張り付いて流れてゆく。

憂鬱な気分は朝起きた時からずっと続いていたが安奈と通学の待ち合わせ場所に向かう前に、サトの母が言った。

「安奈ちゃん、今日休むって。具合悪いらしいよ、今お母さんからメール」

サトの憂鬱は、更に学校に行くと更に深まった。

学も学校を休んでいる。


どうしよう、安奈だけじゃなく学も傷つけちゃったんだ。

サトはどうしていいかわからなくて、誰に相談していいかもわからない。

厚い雲は去り、雨も止んで校庭も乾いてきた。

生温い風は時折木々をゆらすけれど、薄日もさしてきた。


部活の時間になり、どうしようか迷っているサトに熊五郎が声をかけに来る。

「おう、部活行くぞ!」

「は?」

熊は陸上部でもないのだけれど。


「昨日は食べすぎたから、少しカロリー減らさなくちゃじゃん!」

高松翔のTシャツは紫にラメが入っていて、どこから買ってきたの?というセンスである。

「熊ちゃん、走るの得意らしいよ」

もうトレーニングウェアの新城陽介は長いサラサラの髪を一つに束ねてシャープな顎のライン。

その姿を見て、女子がなにやら隅で噂している。


帰るのもしゃくだったので、仕方なくサトは着替えてトラックでストレッチを始めた。

美奈香もいつもと違ってむすっとした表情でやってきて、体操をしながら

「美奈香、お腹すいちゃった~、お昼ご飯パンだったんだも~ん。くまちゃん、なんか食べるもん持ってないの~?」

それを聞いた翔が嬉しそうに鞄からおにぎりを取り出して、にぃっと笑った。

「あ~~~~、美奈香にくれるの~~~?」

「へっへ~ほしいか~~?」

「うんうん」

飼い主にシッポを振っている犬よろしく美奈香はおしりを振って喜んでいる。

「しゃ~ない、三回まわってワン!」

「ワンワン!ワン!」

とうとう犬になった美奈香は、三回クルクル回転してしゃがんでワン!と大きな声を上げた。

「意地悪しないで素直に上げなさいよ!」

なんだか、哀れになってサトが翔に言うと頭をかいて

「へい、調子にのりました~」

翔がおにぎりを美奈香に渡した。

「うっわぁ~い!」

満面の笑みで受け取ったおにぎりを頬張ると、俄然元気を取り戻した美奈香。


そうか、こいつらは優しいから昨日の今日であたしと美奈香が二人きりになるのを心配して来てくれたんだ。

なんだかそう思うと、サトは有難くて胸の真ん中がじわっと暖かくなってきた。


熊五郎は長身から思った通りに走るのは速くて、本当に陸上部に入部させたくなった。

陽介も真面目に走るのは得意らしく、翔はどうも障害があると実力を発揮するタイプの様でただ走るよりハードルを走り抜けるのが得意だった。

にぎやかに部活の時間は楽しく過ぎて行った。


終わりの時間になって

「オレら、とりあえず仮部員って事でよろしく!」

熊がそう言った。

「お願いがあります」

サトが息を吸い込んで吐きだしながら、熊たちに向かって小さな声で言う。

「ふん、わかっとるわ!」

熊がニッと口元を片方上げてウィンクした。

「その為に来たんだよ」

陽介がこそっとささやいた。

「うっるせぇ女いるっしな~~」

翔がかったるそうに、あごで走っている美奈香を指した。

「さっき連絡とっておいたから!」

陽介がスマホを取り出して、鞄にしまった。



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