つかみ合い
どれだけ色々考えたのか?どんなに悩んだのか?こいつにわかるはずない。
サトは心の中にわき上げる怒りを止められなかった。
17
突然、サトが美奈香に向かって突進した。
「うるさい!!!」
美奈香を掴んで押し倒そうとした。
陽介が美奈香の前に割って入り、熊五郎がサトの肩を掴んで抑え込む。
「あんたなんか!何にも知らないくせに!」
熊五郎の腕の間から美奈香の頭に手を伸ばすと髪を掴んで引き寄せる。
「いたぁ~~~い~~」
花のポンポンがサトの握りこぶしに揺れている。
「やめろ!」
熊の声。
サトの身体がようやく動きを止める。
「あたしがどんな気持ちで、どんな一生懸命考えたか知らないくせに!」
サトは大きな声を上げた。
「そんなの知らないよ!サトちゃんは安奈ちゃんに、ベタベタくっついているのがいけないんだよ!安奈ちゃんの気持ちなんか、ぜんっぜんわかってないんだから~~」
美奈香が背の高いサトをにらみつけてわめく。
「どこがわかってないって言うの?考えたから学と安奈お似合いだと思ったんじゃんか!」
サトが涙声になって握っている手を放し美奈香を見つめて唇をかむ。
「サト!やめとけ!」
熊五郎がサトの耳元で低い声で諭す。
「美奈香!静まれ!」
高松翔が真面目な顔になって睨んでいる視線を切った。
「やめてよ!!!」
聞きなれない高くて済んだ声が響き渡った。
安奈の声。
安奈がこんな大きな声を出したのって、いつ以来かな。
サトは身体の力が抜けてくるのを感じた。と同時に熊が押さえつけていた力を緩める。
安奈は泣いていた。
あ、泣いている、そこに居る誰もが罪悪感と悲痛な気持ちが湧きあがった時、安奈は唐突に走り出した。
「安奈!」
サトは安奈に向かって声をかけたけれど遠く去っていく後姿は聞こえているのか、どんんどん小さくなっていく。
「学!追いかけろ!」
熊五郎が学に声をかけた。
呆然と立っていた学は、はっと気がついた様子だったが
「行かない」
そう言って立ちすくんだままだった。
誰もがどうすべきなのかわからないまま夕暮れの中、時が一瞬固まったような空間が広がっている。
季節が変わるのを知らせるように夕闇を連れて、生温い風が吹いてくる。
安奈のこと、あたし傷つけた。
サトはどうしようもない、後悔の気持ちが揺れて身体が震える。
大切な大好きな人を守りたかっただけなのに、傷つけて泣かせた。
いけないのは、あたしなのかな。
サトは肩にかけられた熊五郎の手の温もりがやけにじんわり感じられて、泣きたくなってくるのを一生懸命我慢するのがやっとだった。