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朝の光 サトと安奈  作者: sakurazaki
16/20

打ち上げ、トラブル

ご苦労様会という名目で打ち上げた行われた来々軒。誘われて訪れたサトたち。

サトの一言に、事件が起こる。

      16


音楽祭は盛況盛大に終わった。

素人バンドに売れないグループや即興のカルテット。

ロックからクラシックまでなんでもありの音楽祭だった。

最後に今話題のバンドが三曲演奏すると、会場は割れんばかりの拍手喝采。

美奈香はノリノリで最初から最後まで立ったまま踊っていた。

最期は両手を頭の上で叩いて、これでもかと声を上げている。

その隣では学と安奈が美奈香を見て笑い転げ、それでも楽しそうに手を叩いてリズムを取っていた。

その二人を眺めるようにサトが笑いもせずに口をとがらせて舞台と客席の二人を交互に眺めた。


二人とも気が合ってるんだな。こんなに安奈が楽しそうにしてたのって、いつ以来かな。

サトは小さい頃の安奈の笑顔を思い出しながら、ふぅっとため息を漏らした。


会場から出ていく人々は皆楽しそうで、会場整備の人たちもそれを嬉しそうに見送っている。

先を行く人ごみの中に背の高い影を見つけると美奈香が叫んだ。

「く~ま~ちゃ~ん、美奈香ここだよ~~」

振り返る熊五郎は手を上げて答えた。


「おう、これから来々軒でちょっとした打ち上げやるってよ、お前らも来いよ」

音楽祭に出演していたグループに卒業生が出ていたらしく、お疲れ様会をやろうという事らしい。

「行く行く~~、安奈ちゃん達も一緒に行こう~~」

安奈と学は半ば強制的に手を引っ張られて、人ごみから逃れた。

その脇でサトはう~ん、とうなっていた。

「サトちゃんも、行こうよ」

学が美奈香に引っ張られながら、サトの袖をつかまえた。

「え~あたしは、いいよ」

人ごみに戻ろうとするサトに、安奈が

「サトちゃんが行かないなら、わたしも行かない」

美奈香の引っ張る腕を振り払った。

「サトちゃんも行くって~~」

美奈香がサトの腕に絡みついてニカッと牙を見せた。

吸血鬼の牙はとがって今にも噛みつきそうだ。

「く、食われる」

サトは急いで三人の前に歩き出した。

「じゃ、わたしも行く」

安奈がサトの隣で笑顔になって歩調を合わせた。

学も安心したような顔になって美奈香と歩き出す。


来々軒は、学校の音楽の先生や古典の先生も来ていて、今日は貸し切りになっていた。

知らない人がたくさんいて、安奈もサトもちょっと小さくなって入っていく。

「今日は店主のおごりらしいよ。好きな物食べていいみだいだから、さあ、どうぞ」

新城陽介が四人を店の席に案内した。

店のカウンターでは、今日出演した男の子二人と女の子のグループを囲んでワイワイやっている。

「ジュース飲み放題だってよ、この店、気前よくねっ?」

安奈たちのテーブルにコーラとオレンジジュースとサイダーを数本持ってきて高松翔が

「カウンターに餃子とか酢豚とか焼きそばに炒飯があるぜ」

と笑いながらカウンター横の取り皿を指さした。

「あ、ありがとうございます」

学が頭を下げて取り皿を持ってくる。

「サトちゃん、何食べる?」

箸を渡してサトに学が聞いた。

「あ、自分で」

サトは学から箸を受け取って置くと取り皿を持って立ち上がった。

「わたしも」

安奈が一緒に並んだ。

「わ、エビチリがあるよ、サトちゃん」

サトの大好物のエビのチリソース。

「あ、ぼくも大好きなんだ」

学がサトの皿にエビチリを取り分けて自分の皿にものせる。

熊五郎と翔たちは、ジュースで乾杯をして、肉団子を頬張っている。


奥の方の席には卒業生の人たちがやはりジュースで乾杯をして、楽しそうに話をしている。

その中に美奈香が入っていて大きな声ではしゃいでいた。

「誰とでも仲良くなれるんだね」

安奈が羨ましそうに美奈香を見て言った。

「大丈夫だよ、安奈ちゃんだって」

学が安奈に優しく笑う。

ああ、そんな事も言うのか。

サトは学の優しい言葉に心のどこかを動かされた気がした。

学だったら安奈とうまくいくかもな。

さて、あたしはどうやって生きて行こうかな。

エビのチリソースは少し辛くて美味しかった。

炒飯も焼きそばも美味しくてそんなにお腹が空いていなかったのにたくさん食べられた。


誰もが飲んだり食べたり、楽しそうに時間が流れて行く。


「はーい、来々軒のマスターに感謝~~~」

熊五郎の大きな声で打ち上げという名の食事会はお開きになった。

みんな大きな声で

「ありがとうございました~」

「またよろしくお願いいたします」

「おいしかったで~す」

「感謝感謝です~~」

と口々にお礼を言って終わりになった。

みんな満腹になったらしく、笑い顔が幸せそうだ。


「美奈香、腹八分目で終わりにしておく~~~」

翔が怪訝そうな顔になって

「オレの倍食ってんじゃね?」

陽介がメガネを上げて頷きながら

「底なし、という事だね、美奈ちゃんは」

「満足だろ?それが幸せってもんさ。ごちそうさまでした!」

熊の一言でそこに居る全員が頭を下げた。

ガヤガヤと礼を言って帰って行く。


表に出て来るなりサトが学に言った。

「安奈と付き合ってくんない?」

駐車場で立ち止まった学と安奈。三人の後ろをガヤガヤと帰っていく人影。


「え?」

学がびっくりした表情で立ったままだ。

最期に店から出てきた生徒会の面々。

「なになに?」

翔が黒のTシャツの腕をまくり上げた。裾に金のロゴが大きく入っている。

「お、よく言ったな」

熊五郎が出てきて感心した顔になる。

その時、熊の横から出てきた美奈香が

「だ~~~め~~~~!!」

金切声を上げる。

「は、どうしたの?お前」

熊と翔が美奈香の顔をまっすぐ見つめる。

「だから~~ダメだって~~~」

何がダメだって言ってるの?この女!

サトの中で何かが切れた。

あたしがどんな気持ちでこの言葉を口にしたと思ってるんだ?

「ダメったらダメったらダメ!」

美奈香は両手に作った握りこぶしを胸のところで合わせて跳ねる。

「どうしちゃったの?」

陽介が美奈香の肩に手を置く。

「ダメなもんはダメ、なの~~~」

「だからどうしてなのかな?」

優しく陽介が髪をかき上げて首をかしげて美奈香の顔を覗き込む。

首をブンブン振りながらいやいやをする美奈香。

その様子を目を細めて難しい表情になって見つめる熊五郎。


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