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朝の光 サトと安奈  作者: sakurazaki
13/20

帰り道に

部活の帰り道、安奈を見つめながら熊五郎の言葉を思い出すサト。


    13


部活の帰り道は安奈が明るく話をする。

「そうね、わたしもあの曲好き」

サトの前を歩いている安奈が楽しそうだ。

「あったしも好きどぅぇ~す」

安奈の隣で学の方に手を上げて答えるのは美奈香。

身体はひと汗かいて少しだけけだるいが、吹く風が気持ちよく顔や髪を通り抜けてゆく。


「今度、音楽祭があるって知ってる?」

学が目を輝かせて二人を見る。

「知ってる知ってる~この地域で主催してやるんだよねぇ~音楽祭~」

美奈香がピョンピョン跳ねる。安奈が頷いて、

「そうなんだ、あ、掲示板にあったっけ?サトちゃん」

ああ、そういえば団地の中の掲示板にも貼ってあったな。

「ん」

サトは思い出しながら、この間の帰り道熊五郎の言った言葉を思い出していた。


『子どもの頃、弱っちくたって成長するにしたがってどこかが強くなっていくんじゃねぇえの?』

安奈は最近クラスメイトとも話をするようになったな。明るくなった。

『反対に子どもの頃ガキ大将だったからって、一生ガキ大将のままの奴なんていねぇよな!』

安奈を守る為、自分はガキ大将みたいだったのかもしれないな。

そうして、そのポジションが心地良くってずっとずっとそのままでいられると思っていたのかもしれない。

安奈を守っていられるって事は、安奈が子どもの時のままだって事で、安奈が弱虫のままだって事だ。

『大好きな奴が成長するんだったら、そりゃ嬉しい事じゃねぇの?』

熊五郎はそうも言っていた。

あたしは安奈が弱虫から、強くなっていくのを喜んでないのかな?

目の前を歩く安奈の笑い顔が眩しいくらいに見える。

小さい頃から泣き顔や悔しそうな表情や悲しい顔ばっかり見てきた。

でも今、安奈の笑顔はキラキラしてとっても可愛くて素敵だ。


「ね、サトちゃん!」

安奈が振り返ってサトに声をかけた。

「え?」

安奈が笑う。

「聞いてなかったの?音楽祭、行きたいね」

「ああ、そうね」

サトの返事が終わる前に美奈香の声が騒がしく聞こえた。

「わぁ~~い、みんなで行こうよ~~音楽の先生からチケットもらえそうだし~~~」

「ほんと?」

嬉しそうな安奈。

「やった!」

学が喜んでいる。

中学や高校、一般人の音楽活動をしているグループたちで構成された音楽祭だ。

そうだ、たしかこの辺の出身で最近ブレイクしているバンドがゲストで出演するって書いてあった。

そうか、安奈も学もあのバンド、好きなんだ。

サトは、ふたりともやっぱり気が合うんだ、と思った。

お邪魔虫の美奈香も好きらしいが。

「じゃ、チケットよろしくね」

「よろしくお願いします」

安奈と学が美奈香に向かって小さく頭を下げる。

「まっかしといて~~~」

頭の天辺の綿みたいな黄色いポンポンを揺らしながら美奈香が自分の胸をパンパン叩いて両手を上げた。

サトの顔を見上げて吸血鬼の八重歯を見せながら、小首をかしげたので

「よろしく」

とサトも頭をちょこんと下げた。

「うけたまわったぁ~~」

そのままフワフワ宙に浮いたように身体を揺らし手をブンブン振って別れていく美奈香を、三人は笑いながら見送って手を振った。

団地を抜けた三差路でみんないつも別れる。

「ホントに行こうね!」

学がサトに向かって言う。

「う、うん」

安奈がサトに

「ホントだよ!」

「わ、わかった」

今日も一日が終わりに近づいて、いつものままのあたしは変わらないままで過ぎてゆくんだな。

だけど、安奈はどんどん人とのかかわりが上手になっていってちっとも小さい頃の弱虫安奈じゃなくなっていく。

サトは別れた安奈の後ろ姿に、小さく手を振った。

そして、大きく息を吸い込むと自分の頬をパンっと叩いて顔を上げた。

もうじき、夜になって星が灯るだろう、そして月も出れば暗闇は明るく照らされる。

サトは勢いよく階段を駆け上がった。




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