ラーメン屋の駐車場で
ラーメン屋の駐車場で、熊が声をかけると出てきたのは?
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「もう誰もいないぜ」
熊五郎がラーメン屋の駐車場の暗がりに向かって声をかけると、下を向きながらサトの姿が現れた。
「あたし、どうしたらいい?」
サトが蚊の鳴くような声で呟く。
「どうしたらって、なんだ?」
「学傷つけた」
「気にしてないだろ?あいつ、そんな奴じゃないだろうが」
「だけど、安奈守れなかった」
「オレがいなかったら、守ってただろうよ。ワンコにとっては災難だろうがな」
「学と安奈、いい感じだと思う?」
「あ、そこね」
「ま、悪くないな」
突然、声が大きくなった。
「小さい頃から~」
びっくりする熊五郎の目の前で、サトの声が突然泣き声に変わる。
「いじめられる安奈、守って来たんだ~」
泣き声が小さな声に変わる。
「今だって、これからだって、守っていけるって思ってた」
サトの頬を涙がこぼれて流れる。
「あいつ、いじめられてねぇだろうが」
熊の言葉にもう一度サトが顔を手でおおって泣く。
「そう~~だよ~」
泣きながら声が震える。
「だから~あたしなんか、もういらないんだぁ~」
熊が大きく顔を上げて首を振った。
こいつの中で、そこが一番重要だって事か。
「そんな友だち形態だけじゃねぇよ!世の中は!」
「わ~ん」
子どものように泣くサト。
安奈を守る自分に自信を持って生きてきた。
それが揺らいで、自信も価値観もぐらついて立っていられない。
熊五郎には、目の前のサトの姿を通して小さい頃からの二人の関係が透けて見えた気がした。
「いいか、おまえが安奈守らなくたって、安奈にとっておまえは大切な友だちだろうが!どこをどうしたってそりゃ変わらねぇ事実だろ!」
「え~ん」
駐車場に泣き声が響く。
もうすでに、宵闇が迫って通りには人影もなくラーメン店の明かりだけが、ポツンと灯っていた。
もう少ししたら、小さなラーメン店も客でにぎわう時間だ。
「少ししたら、結構混むんだぜ!この店!行くぞ」
熊五郎がサトの背を押して道へ促す。
声は小さくなって、熊と一緒に歩き出すサト。
いつものハキハキした態度からは想像できないくらい静かな声のトーンで、熊に言う。
「ありがと、付き合ってくれて」
「別に、あんな暗がりにいて通報でもされたら事だしな」
熊五郎の笑い声がサトの心のどこかに響く。
背の高い二人は、学校の角を曲がり大通りを歩いて行った。
なんであたし、こいつに気持ち打ち明けたんだろう?
サトは隣で何もなかったように鼻歌まじりに歩いている熊五郎の顔を見上げた。
「話、聞いてくれてありがと」
蚊の鳴くような声でサトが呟いた。
「聞こえねぇな!」
熊が楽しそうに笑う。
こいつの事、あたし信用して話したんだ、きっと。
自分の素直な気持ちに気付くと、納得した。
久しぶりに人前で泣いた。
恥ずかしかったけど、それでもすっきりしたな。
「ありがとう!」
熊の顔を見上げてサトは、大声で言った。
「おう」
熊と目があった。瞳が優しかった。