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朝の光 サトと安奈  作者: sakurazaki
11/20

ネギソフトと事件

ネギソフトはどんな味だったのか?そこで起こった事件とは?

   11


ネギソフトの味は複雑だった。

薄い緑色したソフトクリーム。

にこにこ嬉しそうに来々軒の店主は作ってくれた。

「ネギだぁ~~」

「ホントだ」

「鼻からネギの香りが」

「ネギ」

四人はラーメン屋の横の駐車場に置いてある小さなパラソルの下の椅子に座っていた。

なんとも複雑な味に感想を述べあいながら笑った。

「ネギの香りが鼻からぬけるぅ~~でもその後すっごいミルク味じゃぁ~~ん」

美奈香が一番に食べ終わると鼻をすすった。

「そうだね、ミルクの味は濃いからどこかの牧場ソフトみたいだね」

学が頷いた。

「じゃ鼻をつまめば美味しいのかな?」

いつもより、和やかな表情をつくってサトが言う。

安奈はようやく最後のコーンの部分を口に入れて頷く。

「ネギ、だけど美味しいよ」

「だね、ネギだけど美味しいね」

安奈の言葉に同意して学がサトの方を見上げた。

見つめる二人の視線にサト。

「まあ、ネギ、だけど、確かに美味しいわ」

学は話しやすい。そして優しい。安奈に対しても自分に対しても。

サトは学と安奈が話をしているのを見て、最近そう思う。

人見知りしがちな安奈だけど、学とは気軽におしゃべりができてるな。

嬉しいような気持ちと寂しいような気持ちがぐちゃぐちゃに入り混じる。


「おー、お前ら、ネギのアイス食べたのか」

駐車場に現れたのは熊五郎と翔と陽介。

「ネギソフトクリームだってば!!」

美奈香が大きな声で熊五郎に叫ぶ。


「うっへ~~、どんな味なの?それ?」

翔が気味悪そうな顔になって美奈香の周りの匂いをクンクン嗅ぎまわる。

「ネギのパウダーでも入ってるんじゃないかな?店長も思い切った物を作ったものだね」

陽介も眉間にしわをよせてメガネを押し上げた。

「確かにネギの匂いがするな」

熊五郎が鼻をひくひくさせた時。

道路の方から悲鳴が聞こえてくる。


「だれか~~」

声の方に顔を向けると大きな茶色い動物がふわりと現れて風をきってこちらに突進してくる。

茶色いサラサラの長い毛の不気味な塊だ。

そこに居る全員、それがアフガンハウンドで犬だとわかったのはもう目の前に大きな身体が近づいた時だった。

足の長い犬は数歩で一番道路に近い場所に座っていた安奈の目の前に走って来た。

「うわ」

安奈は声を上げて腰を浮かせて逃げようとしたけれど、間に合わない。

犬の息がかかる位近づいた。

飛びかかられる、そこに居る誰もがそう思った時。

安奈の目の前を、すらっとしたサトの足が横切り大型犬の顔面目掛けて飛んで行った。

けれど、その足はいつの間に現れたのか熊五郎の背中を強打していた。

更にサトの足の先は熊五郎にたどり着く前に何か他の物にも当たった。

「よしよ~し、だいじょうぶ!大丈夫」

熊五郎は大きな身体を力強く抱え込んだ。

長いサラサラの犬の毛が熊の身体を包むように落ち着いてくる。

立ち上がると人の背丈より大きな犬は、前足を熊の両肩にのせて、熊五郎の顔をペロペロ舐めだした。ガルルルルと甘えた声も聞こえてくる。


「すみませ~ん、ありがとうございました~」

おばさんが走ってやってきて熊五郎になついているアフガンにリードを付けると、何事もなかったかのようにおとなしくなってシッポをふっている。

何度もお辞儀をしておばさんとアフガンハウンドは優雅に身体の毛を風になびかせながら歩いて行った。


ほっとして振り返ると、学が膝をついて座っていてそれを安奈が覗き込んでいる。

サトのキックが学の額をカスって行ったのだ。

学の額に赤く擦り傷がついていて、安奈が心配そうに

「だいじょうぶ?」

ポケットからハンカチを取り出して当てる。

「あ、ごめん」

サトがようやく状況を飲み込めたように謝る。

「すご~~い、サトちゃんかっちょいい~~」

美奈香が吞気な声を上げてサトに向かって手を叩いて笑った。

「でも、安奈守ったのは熊五郎だ」

下を向きながらもう一度口を開いて

「あたしは学を傷つけただけだ」

学は立ち上がるとにっこり柔らかくほほ笑んだ。

「とっさに、安奈ちゃんの前に飛び出たからサトちゃんのキックがかすったけど、びっくりしただけでなんともないよ。気にしなくていいよ。それより、サトちゃん本当にかっこよかったね」

熊五郎が大きく手を広げた。

「犬の顔面、キックしてるとこだったな。おまえ空手でもやってるの?とっさに出ないぜ、ありゃ」

陽介が笑った。

「ノックダウン間違いなし、だね」

翔が

「かっこよくね?オレ弟子入りしようかなぁ、山奥で熊に出会ってもだいじょぶじゃね?」

「オレは襲わねぇぞ!」

熊五郎が即答えると、そこに居る全員が大きな声で笑った。

笑いながらサトの胸がチクチクする。



「じゃぁね~~また明日ね~~」

美奈香は熊たちとラーメンを食べると言うので、安奈たちに手を振った。


三人はゆっくり歩き出した。

夕日が影を落として今日の日の最後を彩っている。

しばらく歩いていくとサトが

「あたし、忘れ物した。先帰って!」

そういうと同時に踵を返して、走って戻っていく。

「待って」

そういう安奈の声はもう小さくなったサトの姿には届いていないように思えた。

サトは力いっぱい走って安奈たちから遠ざかっていた。



「あ~~おいしかったぁ~~。やっぱソフトクリームだけじゃ腹はいっぱいにならないよね~~」

美奈香が大盛りラーメンを平らげるのをみんな驚いた顔で見ていた。

「ネギソフトからの、大盛りラーメンっておまえ、何もの~~?」

翔がいい加減呆れた顔で箸を置いた。

「そんなに食べて太らないのが不思議だな」

熊五郎が立ち上がる。

店を出て歩き出した熊がふと、立ち止まる。

「どうしたの~~?」

熊のすぐ後ろを歩いていた美奈香が熊の背中にぶつかった。

並んで歩いていた翔と陽介が顔を見合わせる。

「熊ちゃんは用事を思い出したみたいだから、先に帰ろうか」

陽介が美奈香を先頭に立たせて、二人で歩き始める。

「はぁ~~熊ちゃん、どうしたのよ~~、もう一度ラーメン食べる気じゃないよね~~」

美奈香が振り向くのを二人で抱えるように道を歩いて行く。

「みなか、ラーメンだったら付き合うよ~~普通盛ならもう一杯いけるよ~」

「どんだけ、食うんじゃ!」

翔に頭をはたかれている。

「美容に良くないよ、食べすぎは」

陽介が無理やり前を向かせる。

遠くの方で美奈香の声が小さくなって夕闇の中へ消えていくのを熊五郎は見送った。

辺りには誰もいる気配はなく、静けさが駐車場をおおっている。

熊五郎は暗がりの中を、じっと見つめて立っていた。

いろいろと面倒な奴だ。

少しだけ笑みがこぼれる。




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