サトとの遭遇
生徒会室にいた安奈。生徒会の面々。
まだこれから始まる、女子との遭遇第一日目である。
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サトは教室の中を見回してみた。
いつもの雑踏、生徒の話声、笑い声、その隙間を廊下から入ってくる風が通り抜けてゆく。
季節が変わってゆくこの時期、なんとなく胸がザワザワするのはなぜだろう。
どこにも安奈の姿がない、胸騒ぎが止まらない。
すらっと伸びる高い身長からサトは安奈を探す。
どこいっちゃったんだろう?誰かに連れてかれちゃったかな?
首を振って一人口角を上げる。
なんてね、あの安奈があたし以外の人について行くはずないよね。
サトは、首を傾げてため息を吐いた。
ショートボブの黒髪をサラッと風が触って逃げた。
「だれ?」
「あれ~?」
「きみは?」
生徒会室に入ってきた、生徒会長の笹塚熊五郎、高松翔、新城陽介がそろって声をあげる。
生徒会室の中片隅に小さく腰かけているのは、色の白いなんとなくはかなげな華奢な少女だった。
「おっそいよ~~まちくたびれちゃったよ~~ん」
その目の前にポテチの袋からバリバリと音を立てて口の周りに青のりのついた、副会長の美奈香が座っていた。
表情がいつにも増して楽しそうに八重歯を見せている。茶髪が踊っている。
対照的な二人の女子。
「お~~、オレにもたべさせろ~~」
書記には見えない高松翔が美奈香に駆け寄ると、美奈がはべぇっと舌を出して
「ざ~んね~ん、今一歩おそかったでぇ~~す」
と言って空になったポテチの袋をさかさまにした。
何も出てこない袋と翔の顔を見比べて
「ごっちそうさま!」
と言ってゲップをし、口の周りに付いた油を手のひらでふき取りながら美奈香は満足そうだ。
そして、うやうやしく紹介する。
「こちら、部活申請にいらっしゃった、あんなちゃん!」
三人が小さくなって固まっている女の子を見つめると、さらに縮こまってうなずく。
「部活、ね」
熊五郎がうなずくと、だらしないTシャツの翔が口笛をふく。。
前生徒会長の新城陽介が、メガネを押し上げて爽やかな顔で二人の女子に近づいてくる。
現在は会計だ。
何の問題もないという無表情で、申請用紙を差し出して、
「ところで、何部をつくりたいの?人数は何人いるのかな?」
とメガネを押し上げて尋ねる。
陽介の髪はサラッと揺れて優しい眼差しに変わる。
安奈は耳たぶまで真っ赤になって、下を向いて何か言葉を発したけれど誰にも聞こえない。
肩まである柔らかそうな髪が顔をかくして、表情が見えない。
「いいから!そういう事はゆっくり話せばいいんだからぁ。陽介はせっかちなんだよぉ~~~」
美奈香のクルクルはねた茶髪が頭の天辺でゆれる。
今日もくりんくりんの髪の毛はいつにも増して自由奔放だ。
「え?ゆっくり話すって事でもないんじゃね?何部かきいただけじゃん。オレも知りたいわ」
高松翔が美奈香の隣の席に座って首をかしげた。
安奈の身体がキュウっと小さくなる。
熊五郎は翔の隣にしゃがんで、安奈の下を向いてる顔を覗き込みながら
「恥ずかしい部活って訳じゃないだろ?」
その質問には安奈はこくりと首を縦に振る。
「みんな、こわいんだよぉ、脅迫だよ熊ちゃんも~~~。あのね~~世の中にはね~なんでもかんでもすぐに答えられる人ばっかしじゃないんだからねぇ~!」
美奈香がまともな事を云ったと三人はお互いの顔をみて噴き出した。
「おっめ~~、わかったようなこと言うこともあるのな~~」
翔がお腹を抱えて笑う。
よれっとしたTシャツは、小さなドクロがいくつもプリントされている。
「別に急いでないな。そりゃあその通り!」
熊は笑いながら離れた場所に座った。
生徒会長らしからぬ物腰で、置いてあった漫画を取り出して開く。
「まあ、時間はたくさんあるって事だね」
熊の隣に陽介が腰かけると机に申請用紙を置いた。
その時、生徒会室のドアがガラっと開いて大きな声が聞こえた。
「あんな!こんなところにいたの!だれ?安奈を引っ張って行ったやつ!いい加減にしてちょうだい、拉致だよ!まったく、乱暴なんだって!」
そう言うと、まっすぐに奥まで歩いてくると背の高い女子は安奈の手を引っ張り上げて
「帰るよ!」
ショートボブの黒髪をサラッと揺らせて、安奈の手を握ってつかつかとあっけに取られている三人の前を通り過ぎる。
振り返った熊五郎は手にしていた漫画を落とし、陽介は口を半開き、翔は半分しか腰かけていなかった椅子から転げ落ちた。
「もう、こんな事しないでくださいよ!!安奈に用がある時はあたしに言ってください!!」
もの凄い剣幕で、熊五郎と翔、陽介の顔をにらみつけるとピシャンとドアを閉めて姿を消した。
「は?」
「なに?」
「だれ?」
狐につままれた顔の三人を怒った顔で美奈香が見つめて
「もうぅ~!!なんで帰らせちゃったのよぅ~~」
頬を膨らませて怒っていた。
サトとの遭遇第一日目の事だった。