6話
「まあでも真永君がそういう奴らみたいに成らなければ良いだけの話なんだけどね」
澪吏さんはニコニコ笑い乍ら云い、ふと足を止めた。
「此処が僕の家だよ」
見ると、一軒家が在った。其の家は壁が白くて、屋根が青く、二階建てだった。澪吏さんは門を開き乍ら、家の鍵を出して扉を開けた。
「入り給え」
「お、お邪魔します……」
若干躊躇い乍らも、澪吏さんの家の中に入る。
「一人暮らし何ですか?」
「そうだよ。其れに相手が居たら心中してる」
笑顔で言う澪吏さんに一瞬恐怖を覚えた。
「真永君、お風呂に入っておいで。服は僕のだけど良いかな?」
「はい。大丈夫です」
俺はお風呂に入り乍ら考える。俺には妖怪が視える……其の所為で親から捨てられた。けれど、澪吏さんが助けて呉れた。
澪吏さんに感謝しないと……明日の入門試験も不安だけど、其れ以前に俺は自分の力を操れるのか……?試しに手に力を込めてみる。すると、手に炎が宿った。
「うわっ!?」
吃驚して思わず大声を上げてしまった。しかし直ぐに炎は消えた。其の後、頭と身体を洗い、湯船に浸かってから風呂を出た。脱衣所には太宰さんの服と思しき物が置いて在った。
うん、予想はしてたけど……
「大きい……」
身長差と対格差が有るのは出会った時から分かっていたけれど、此処迄とは……リビングに行くと、澪吏さんはソファーに座ってテレビを見ていた。
「澪吏さん、お風呂上がりました」
澪吏さんは俺を見て苦笑した。
「矢っ張り大きかったかな。一番小さい奴を選んだのだけれど」
「大丈夫ですよ。澪吏さんの家なのに、色々迷惑掛けて済みません」
そう言って謝る。
「良いんだよ。君を拾った時からこうなる事は予想していたからね」
そう言う澪吏さんに、ふと疑問に思った事をぶつけてみた。
「あの、如何して澪吏さんは俺を助けて呉れたんですか?自覚が無いまま霊能力が暴走して、沢山の人に迷惑を掛けた筈なのに……」
澪吏さんは少し黙った後、口を開いた。
「確かに、被害はマフィアに恨まれる位の酷さだったね」
澪吏さんの言葉が、グサッと胸に突き刺さる。そんなに酷かったのか……落ち込んでいると、澪吏さんが話を続ける。
「後、僕が君を助けたのは、僕にとって大切な子に似ていたからだよ」
懐かしむ様に目を細める。
「其の子はね、僕みたいに自ら命を絶とうとしてた。でも自殺願望が有るわけじゃないんだ。自分は生きてちゃいけない、価値の無い人間だと思っているんだ。だから僕は約束した。君が生きる事をやめたら、僕も生きる事をやめると」
息を呑んで澪吏さんを見る。
「其の子は僕達と同じ霊能力者なんだ。でも、彼の子は自分の力を忌み嫌っている」
澪吏さんは僕に視線を向ける。
「あと其の子はマフィアに所属してるから、何時か出会うんじゃないかな」
え、マフィアの人なの!?
「道真一門はマフィアと手を貸し合う仲なんだ。だから君を捜す時も私達に協力を申し込んで来たんだ」
そうだったのか……でも、マフィアに手を貸すなんて、危ないんじゃ……
「今のマフィアのボスと道真さんが知り合いでね。親しい間柄だから、困っている時は助け合うと決めたみたいだよ」
澪吏さんの話を聞き乍ら、思わず欠伸をする。其れを見た澪吏さんは笑い出した。
「使い慣れない霊能力を使ったから、疲れたんだろう。部屋に案内するね」
澪吏さんに着いて行き、二階の部屋に移動する。
「今日は此処で寝て」
机とタンス、ベットにクローゼットが在る部屋だ。一人暮らしの割には、部屋数が多いんだな……眠気が限界に達した俺は、ベットに倒れ込む様に身体を預けた。
「おやおや。仕方ないねぇ」
頭に手を置かれ、撫でられる感覚がある。優しい温もりを感じた。その温もりは母や父が頭を撫でてくれた時の温もりと同じで無性に泣きたくなった。
「おやすみ」
鈴の音の様な声を聴き乍ら、俺の意識は闇に溶けた。