10話
「はい。有名な神様ですし、ゲームとかにも名前が使われてますから」
前にもそういうゲームをした事が在った。ただ、神様には馴染みが無いのか、複雑そうな表情を浮かべていた。
「話を戻すが、もう一つは神獣や幻獣、ドラゴンを含む凡ゆる怪物が突然居なくなったんだ」
今度は全員が不思議そうにした。だって、ドラゴンとかファンタジーの世界にしか存在しない生き物だと思っていたから。
「行方が分からなくなった、という事ですか?」
道真さんがそう聞く。銀髪男の神様は頷き、ある名前を口にした。
「テュポンやフェンリルの名くらい知っているだろう?」
テュポン?フェンリル?また良く知らない名前が出て来て、俺は頸を傾げる事しか出来ない。
「テュポンやフェンリルも復活したんですか?」
「いや、復活したというより、今まで感じられた気配が一気に無くなったんだ。他の神々に探させたが、全く行方も掴めない」
道真さん達は考え込む様に黙り込んだ。
「もし、消えた怪物達が人を襲う事が在れば、被害は想像が付かないだろうな」
晃時さんはぽつりと呟く。
「怪物達を探し出すのを、手伝って欲しい。それと、此れが一番重要なんだが……」
怪物を探す以上に重要な事って何だろう?男の神様は後ろを振り返り、自身の背後に立っていた女の人を促す。女の人は手に風呂敷で包んだ大きな物を持っていた。女の人は一度机に置くと、風呂敷を解いた。
包まれていたのは、鮮やかな青色の光を放つ“石”だった。其の余りの美しさに息を呑む。石なのに削れや傷が一つも無く、つるつるとした大理石みたいで、視界に入れたら一瞬で目を奪われる。
「主神、此の石は一体……」
漸く石から目を上げた澪吏さんが問う。
「それは、怪物達が居なくなった日に突如現れた石なんだ。北欧にも、緑の石が現れたらしい」
そう金髪の神様が言い、他の石も見せてくれた。一つの石だけでも綺麗なのに、二つともなると何とも言えなかった。机には、鮮やかに輝く石が冷たい光を放っていた。
道真さんは顎に手を当て、うーんと唸った。
「アポロンの神託に拠れば、他にもこうした石が存在し、其れ等を集めれば謎も解けると予言が出された」
でもこんな石が見つかれば、直ぐにニュースになってそうだけど……じっと石を見つめていると、ふと目の前に在る石が欲しくて堪らなくなった。如何して急にそう思うか分からなかった。此の石に魅了されたのか。それとも___
「欲しくて堪らないだろ?」
突如思った事を中てられ、驚いて声がした方を見る。紺色の髪に蒼い瞳を持つ男性が、意地悪そうな笑みを浮かべて立っている。
「その石は人間に見せると、石が欲しいという強欲が強くなって人間同士で石を巡る争いが起きるんだ」
其の物言いに言葉を失っていると、男の人はひょいと石を片手で持ち上げた。
「俺ら神には唯の石にしか見えないが、人間から見ると大層な代物らしい」
そう言い乍ら人差し指で石をくるくると回し始めた。石はグラグラと傾き、今にも落ちてしまいそう。ハラハラし乍ら見ていると、燃える様な赤い髪を持つ神様が止めに入る。
「おいロキ!やめないか!」
ロキと呼ばれた神様は怒鳴られて渋々と石を元の場所に戻した。
「分かったよ。全くトールは相も変わらずな性格だな」
どうやら彼の赤い髪を持つ人はトール神というらしい。トール神はロキ神の物言いに腹を立てて居たけど、他の神に宥められ落ち着いた。
けれど、ロキという名前が出た瞬間、他の神々が敵意を込めた様な視線をロキ神に送っていた。ロキ神は其れに気付いていたみたいだったけど、無視を決め込んでいた。
俺はそんな神々の様子に首を傾げた。ロキ神は見るからに意地悪そうだけど、他の神々が敵対する程なのだろうか。すると、俺の様子に気が付いたロキ神は、呆れた様に溜息を吐いた。
「お前、ギリシャ神話処か北欧神話すら読んだ事が無いのか」
ロキ神は俺の前まで来ると、俺を見下ろしてこう言った。
「俺は北欧の神で、主神オーディンの義弟。神と言っても巨人出身だがな」
え、巨人……?巨人って、あの、人より大きい……怪物……だっけ?ロキ神は俺の事なんて気にせず話を続ける。
「周りからはトリックスターと呼ばれ、邪悪な神とも呼ばれてる。ラグナロクを引き起こしたのも俺だ」
ロキ神はあっけらかんと云った。ラグナロクって、先刻言ってた……じゃあ此の人、北欧の神々を滅ぼした張本人!?漸く他の神が警戒する理由が分かり、唖然とする。
「ふーん。知識は無くとも理解力は良いみたいだな」
俺を見てロキ神は鼻で嗤う。
「だから他の神々は俺を信用してないんだよ。まあ俺も信用する気は更々無いが」
神々に冷たい視線を送り、踵を返して部屋から出て行った。
「転生しても性格は変わらず、か……」
「逆にあのロキが丸くなるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ませんよ」
帽子を深く被った男の人と、幼い姿をした男神が言った。澪吏さんは深い溜息を吐き、道真さんを見やる。其の視線を受け取った道真さんは、頷いて立ち上がる。
「分かりました。お引き受けしましょう」
そう言うと、神々は大層喜んだ。
「ありがとう。事が解決したら君らに褒美をやるから考えておいてくれ」
と銀髪の神様がそう言った。