表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタボウ  作者: バランガ
9/10




メッセージ一つで、校門にレンタカーで迎えに来てくれた牛頭先輩が喚く。


「だからって、なんでまた僕を巻き込むんだよ君らは!」


言ってみるもんだなあ。











「いいか、一週間だけだぞ。タダじゃないんだからな」


ミラー越しに目があって気まずいことこの上ない。


「はは……お世話になります」


いやマジで思いつきだったんだよ、真に受けた猿渡が止める間もなくスマホいじくっただけで。

いい先輩を持ったもんだ。

こんないい人がどうして猿渡にこき使われてるんだろう。


「へー猿渡さんの先輩なんすか」

「そうだよ、医大にはストレート合格だったのに国家試験に落ちちゃったんだ。でもいい人だろ」

「乾くん。この性悪男に嫌気が差したらいつでも言ってくれ。夜逃げの手伝いくらいはするよ?」

「はあ」


申し出はありがたいが、まずこの先輩が猿渡を出し抜けるとは思えない。

……今度何か差し入れよう。

試験頑張ってください。


「順番に送ってけばいいんだよな」

「ええ。確かいちばん近いのは……」

「「「俺たちです!」」」


ヤスタカキヨか。

お前らほんと仲いいな。


「その次は俺とミツヨシだな」

「牛頭先輩あざーすっ」


それぞれを自宅まで送り届けてもらい、オレと猿渡と臼井さんの三人になった。

臼井さん家ってどこなんだろ、これをきっかけにcancerを潰した暁には一緒に登下校しちゃったりして。

ささやかな夢に想いを馳せる。


「危ないッ」

「ぐえっ」


シートベルトの食い込みで現実に引き戻された。


「先輩ッ大丈夫ですか!?」

「轢いてない、ギリギリセーフ……!」


牛頭先輩が運転席の窓を全開にする。


「こら!危ないだろ!」


飛び出しらしい。

どこのどいつだバカ野郎。

オレもそう口に出しそうになったそのとき、先輩の顔面がガッと掴まれた。

車内に、舌でナイフをペロペロしそうなスキンヘッドが首ごと入ってくる。


「はじめましてえ〜、cancerでぇす。乾ってのはお前かこの野郎!!」

「ひえ」


来たー!

来るなら来るって言えよ!

びっくりするだろ!

先輩も固まってるじゃん!!


「囲まれたね」


いたって冷静なのは猿渡だ。

やっぱな!そーゆーヤツだよお前は!

オレらはともかく臼井さんだっているんだぞ!


「へー不良って本当に鉄パイプとかナイフ持ってるんだ」

「臼井さん!?危ないって!」


なるべく相手を刺激しないよう小声で止めるけど、もう遅い。


「ああ?なんだてめぇ」


矛先がこっちに向いた。

あああ、終わ


「あっ」


らなかった。

矛先を向けてきたスキンヘッドが、それだけ言ったきり喋らなくなった。

逆再生のごとく牛頭先輩の顔面から手を離し、窓の外へ引っ込んでいく。

そして車を取り囲んでいたヤツら全員が、ササーッと波のように引いていった。


「え……え?なん、だったわけ?」

「さあ?苦手な相手でもいたんじゃないか?……何か言いたそうだね」

「……イエ、ナンデモナイデス」


苦手な相手って絶対お前じゃん。

何やったらあんな反応されるんだよ。

体育祭でも見たことない機敏さだったぞ。

口ごもるオレの代わりに先輩が叫びつつアクセルを踏んだ。


「もう嫌だこんな生活ーッ!!」







「へーあの後そんなことがあったんだ」

「口ピアスはしてなかったけど目つきの悪いスキンヘッドだった、めちゃめちゃ怖かった」


敵対してきたときとは一転、タカシくんとはよく話す仲になった。

いや~結構気のいいヤツなんだよ彼は。

同年だし。

オレのつっかえつっかえな話も、否定せず適度な相槌をうちながら聞いてくれるのだ。

幼馴染三人組が仲良し三人組のままなのも納得である。


「スキンヘッドっていうと、金太さんかな」

「金太さん……?」


力持ちそうではあったけど優しくはなかったぞ。

山賊とかの方が似合う。


「金太さんって気難しくて荒っぽいから、運が良かったな」

「将来の持ち運ゴリゴリ減ってそうだけどな」


乾いた笑いしか返せない。


「でも、いつかは対決しなきゃなんないぞ。あの人も確かやってるはずだからな、クスリ」

「マジで!?あーもーなんでクスリなんかやんだよ、ゲームとかでいいだろ?」


猿渡も言ってたが、何の保証もない、訳がわからん代物だぞ?

そんなものが身体のなかに入るって、怖くないのかよ。

ちなみにオレは今でも注射が怖い。

針が身体に突き刺さって無事なわけなかろう。


「でもそれなら、もう少し練習しといた方がいいんじゃね」

「何を?」

「ケンカ」

「…………」

「そんな顔すんなって!俺で良けりゃ教えるからさ」


イスやら段ボールやらを隅に移動させて、狭い準備室の中央にスペースを作った。

タカシくんがゆっくり動きを見せてくれた。


「いいか?ケンカってのは先手必勝!とにかく相手の攻撃が当たるより先に、自分の攻撃を相手に当てる」

「そりゃそうなんだろうけどさ~」


それが咄嗟にできないから怖いんだって。

猿渡も臼井さんもいないので、思いっきり情けない声を出す俺に、尚もタカシくんは続ける。


「まあ、乾のタッパなら闇雲に腕と足振り回すだけでも何とかなるかもな~運が良けりゃ」

「……悪かったら?」

「その腕と足を掴まれて、ボコボコにされる」


そーですよねえ。

牛頭先輩、一週間と言わず一年くらい帰り送ってくれないかな〜〜。

無理だろうな~~~。






翌朝。

案の定牛頭先輩にすげなく断われたダメージを引きずってジョギング登校をしていると、またもやあの人が現れた。


「おはよう」

「は、はよっす」


相変わらずの強面だ。


「金太と遭遇したそうだな」

「遭遇ってより襲撃されたって感じですけどね……」


前を向いたまま、力なく答える。

来週生き残れるかなオレ……。


「ギャラクシーベガ」

「は?」

「金太にはギャラクシーベガが効く」

「は??」

「健闘を祈る」


行っちゃったよ。

何なんだよギャラクシーベガって。

……プロレス技とか?

またもや学校に着くなり猿渡に聞きに行ったのは御愛嬌だ。

ながらスマホは危ないからな!

そうして、オレは衝撃の事実を知ることになる。










続く






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ