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《幸せな時間 1》

平日の朝の7時。

隣の部屋からぴぴぴと携帯のアラームが2つ聞こえてくる。母と妹だろう。はあ……煩い。

家が木造建築でだいぶ古いからか壁が薄い。壁についてはすごく気にしているわけでもないが、私の睡眠時間を削ってくるのは許せない。


「おはよ!!!」


美波の甲高い声が二階全体に響き渡る。

美波は私の妹で、歳は6つ離れている。つまり今は中学2年生。私とは性格が違いすぎて、多分美波は私よりかなり楽して生きている。

明るい性格で憎めない笑顔、男女ともに友達は多く、しかも成績はクラスで1番というわけじゃないらしいが、3番目くらいにはいつもいる。おまけに運動も出来るっていう強者。

どうでもいいが、美波の部屋にいくつか賞状が飾ってある。

何があったらこんなにも差が生まれるのだろう。


でもそんなのはよくある話で、長女はある程度我慢をさせられて生きているのに対して、次女、三女に続いていくにつれて、結構自由に生きれたりするもんだ。

我慢は慣れている。怒られることにも。


そんなことは今はどうでもいい。

この大事な時間が奪われるのが一番腹が立つ。


「あれ?有は??」

「起きるわけないよ」

「いつものことだよね。私も眠ってたーい。あ、髪の毛結んでー」


そんな会話が聞こえる。

今母が美波の長い黒髪をひとつのポニーテールにしている最中なのだろう。

知っている。ポニーテールはモテる。

似合う子は本当に可愛いと思う。

私は真反対のベリーショートである。

髪型の話なんかするつもりはない。早く一人になれるように適当に考え事を繰り返して時間の経過を待っているだけだ。


(……まだかな)


この時間は本当に時間の経過が遅い。遅すぎる。部屋から出る気はないが、起きないのを分かっているなら静かにしていてほしい。

起きるわけがないのは自分が一番分かってはいるが、母にそんな風に言われたいとも思わない。


(……なんでもいいから寝かせて)


ぼーっと起きてたらかれこれ1時間が経過。

煩い美波の学校に行く時間。


「行ってきます!!!」


ドタドタと階段を下りていく足音。

ここからは静かな空間。

そして続いて、母が独り言を言うこともなく、黙々と身支度をして仕事に出発。


「ようやく」


ここからバイトまでの時間が私の至福の時間である。

バイトだってしたいわけじゃないが、20歳にもなると親からお金をもらうことはできない。

家は大都会の1番街に住んでいるが、祖母と祖父が脳の研究をしていてそれで大成功した時にお金がたくさん入っただけのことであって、今の暮らしが裕福なわけではない。家を建てるのにお金を使ってしまったのだから。

それにしたって、そんな研究をしていたのにも関わらずなんでこんな木造建築に……。

おそらく研究所か何かが綺麗で昔ながらの家に憧れたのだろう。


脳の研究については詳しくは知らないし、詳しく語る人もいない。写真すら残っていないのだ。そもそも本当の話かすらわかってない。

まあ、知りたいとも思わないのだけれど。


ここで誰かが、家の話なんかよりも、学校は?と私に聞くだろう。


学校は辞めた。

元々は美術の専門学校に通っていた。

絵を描くことだけは昔から好きだった。

だけど辞めた。所謂、思ってたの違ってた、ってやつだ。

そんなわけで今はフリーターである。

学校辞めた経緯を話すとそれは本当に辛い出来事なので今は蓋をするとしよう。


私は社会不適合者かもしれない。


ああ、こんなことを考えるのはやめよう。またいつものやつがやってきそうだ。

泣く暇があったら、早く眠ろう。そしてあっちで目覚めよう。待っている人がいる。


カーテンすら開けずに、もう一度私は眠りについた。16時にお気に入りの曲でアラームをセットして。






「おはよう有」

「おはよ」


次に目覚めたのは10分後のことだった。

いつものベッドだけがひたすら並んでいるかなり広い真っ白い部屋で私は目覚めた。天井がやけに高い。

ベッド以外はなにも置かれてない。本当に真っ白で純白な部屋だ。


私は着いた嬉しさに大きく息を吸い、少し微笑みながら息を一気に吐き、体を起こした。


私に話しかけたのは親友の(そう)だ。

この女の子が実際に存在しているかは分からない。

なんせずっと見た目が変わらないのだ。15歳のままだ。

だけど誰よりも私のことをこの世界では理解してくれていて、この世界の案内人でもある。

いつも白いワンピースを着ていて、身長は150㎝くらいで白色の髪をいつも片方だけ耳にかけている。この子には、ポニーテールはしてほしくない。顔も随分と美人で綺麗な二重に細く伸びた眉毛に可愛らしい小さな唇。これは、結ばずに流し髪の方が似合うに決まっている。


「今日はいつもよりちょっと遅かったね??」

「ちょっと、妹が煩くて」

「大丈夫??」

「全然平気。数分遅れなら全然大丈夫」


大丈夫と言っても、5番も遅れてしまった。

いつも1番最初に到着するのに。初めての体験だ。

ベッドには番号が振ってあり、枕にもその番号が小さく記載されている。今日は5だ。

この数がどのくらい存在しているかは分からない。この広い部屋がひとつだけとも限らないのだから。

でも、確かに分かることは、この数字の分だけ私と同じ体験が出来る人がいるということと。少なくとも100人は存在しているということ。そして、こっちに着いた順にその番号のベッドの上で目覚めるということ。


この世界の正式な始まる時間は未だによくわかっていない。

どうして1番に私が毎回着くのかもわかっていない。

どうして今日遅れてしまったのかも分からない。

だけど別にいいだろう。楽しければ、謎多き世界でも幸せでいれるのだから。

だけどやっぱり、幼少期から1番の私からしたら今日の遅れはやはり大問題である。


「ショックだわやっぱり。助けてお姉ちゃん」


奏のことを冗談半分でお姉ちゃんと呼んでみる。


「有は随分と成長したね」


結構本気で返されてしまった。

最初に会ったときは、本当の姉のように親しくしてくれた。それが今は私の方が年齢は上。身長も気づいたら7㎝抜かしていた。それでも、私の中ではずっと姉であり、理解者なのだ。


「早く行こう」


私はそう静かにそれだけ言った。


「有、今日は何をしよっか」

「今日は提案がある」

「期待してる」


毎日こんな話をしながら、扉の前で足を止める。

扉を開けてしまえば、今日の始まりだ。

さあ、行こう。

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