参の世界①
参の世界――魔王の話――次元の扉付近にて
「聞けぇい! 我が同胞よ! 我々は我らの故郷である『魔界』を開拓して、はや数千年が過ぎた! 我々は当初は信念、志のちょっとした相違から対立しあい、数百年にも渡る戦国時代に身を投じた! 勇猛果敢な魔界の戦士は皆揃って武器を持って戦い、その結果多くの民が血が流れた! ――諸君らの先祖の話である!
しかし、今となっては諸君らも知っての通り、各氏族は互いの存在を完全に認知し、尊重しあい、『魔界』の発展を目指し、魔族全体の総意となることができている! それは何故か!? 偏にそれは、我々が『魔族』として団結し、打ち倒さねばならない敵が出現し、それを認識したからと捉える! 敵とは何か!? 諸君らも既に知っているだろう!
――そう、『人間』である! 諸君らの中には――それがしも含めて――その下等生物とも言える下劣な存在と、類似した様相を持つ者もいるだろう。その理由、非常に遺憾なことである! それは『人間』とは、魔族の中でも高位魔法を特に得意とする人魔族の裏切り者が、戦国時代の最中、迫り来る戦に恐れをなして『楽園』へと勝手に逃げ延びた、云わば人魔族の成れの果てであるからだ!!
彼らは戦から逃げたため、我ら人魔族が持つ溢れんばかりの魔力も、洗練され卓越した魔法を扱う術も失った。当然の報いだ。しかしその代わり、彼らは下劣な思考を備えた上で、愚鈍な行動を行うようになる。我らが『楽園』と呼び、『神々が住まう所』とされた神聖な場所を、勝手に『人間界』などという呼称を振り当て、我が物顔で――水を、木を、草を、土を、海を、山を、挙げ句の果てには空までをも汚染し尽くしたのだ! これは我らの神々の聖域を、土足で踏みにじったと云うのに他ならないっ!
今こそ! 我々は力ある魔族の戦士として――人間が犯した罪を弾劾する執行官として――数多ある神々の安楽を望む使徒として――武器を取り、隊列を組み、強者どもよ! いざ、『人間界』へと行かん!!
人間の存在など恐るるに足らず! あえて言おう! カスであるとッ――!!」