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パラレル!  作者: 入羽瑞己
第四話 終わりを司る魔王
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拾肆の世界①

拾肆の世界――大総統の話――街道にて


「何だかんだでうまく収拾がついたって言えるのかな、これ」

「あたしとしては満足よ。長年の目標が達成できたしね」


 校長室でテレビを見た後、急いで僕たちは準備を整え、蓮皇海浜にかけつけた。

 僕は改造人間を総動員し、大総統用の一張羅(いっちょうら)の黒マントと仮面まで用意して出っ張った。しかし驚いたことに、その時には全ての事態が収束していた。

 魔族軍は少数を残して撤退の準備をしており、結局本格的に攻撃をしかけてくることは無かった。どうやら、本隊を本格的に動かす前に大規模な内部分裂があったらしい。侵攻どころではなくなり、撤退を余儀なくされたようだ。

 今回、世界転覆を狙ったケイテンは、迅によって既に葬り去られていた。ナツキちゃんはしきりに、

「あたしがトドメを刺す。あっさりと死ぬより遙かに辛い苦しみを与えて殺すんだ」

などと物騒なことをぶつぶつ呟いていたが、迅によって既に人の形を留めないまでに損傷させられた亡骸を見て、多少考えも変わったようだ。

 マオちゃんは僕たちが到着してからもしばらく意識を失っていたが、やがて意識を取り戻した。どうやらケイテンに精神を乗っ取られた時の記憶はなく、その前後も少しあやふやらしい。とりあえず検査入院くらいはした方が良いだろうということで、しばらく彼女は入院することになった。

 われらの迅も、流石に今回は、同じく特異点として数えられるマオちゃんと本気でやりやったこともあってこたえたらしい。全身の骨が複雑骨折を起こしており、「常人ならば立つことはおろか動くことすらできないはずなのに……」と病院で診断されたらしい。全くデタラメな話だ。

 エルちゃんは迅が入院するとあって、それに付いていった。あれだけ献身的に尽くしても迅の気持ちはエルちゃんには向かないのだから、世の中とは不思議なものである。僕だったら、あんなカワイイ子にあんな態度で迫られたら十分とかからず陥落するのに、といつも思っている。

 九鬼さんたちは今後の色んな後処理があるそうで、今日は事務所に泊まり込みらしい。担任もそれに付き合わされることになって文句を言っていたが、あの人はたまには真面目に仕事をした方が良いと思う。仕事をする『振り』だけは天下一品だから侮れないけど。

 ナツキちゃんは明らかに腕が折れているのだから、病院に行く必要があるはずなんだけど、

「どうせギブスで固定して終わりでしょ? あたしも仕事が残ってるし、それで拘束されるくらいなら自分で処理した方が早いわ」

などと言って、病院に行くのを断った。でも後から、

「添え木くらいもらってこれば良かったかしら。いつまでもこんな状態じゃ、ちょっと都合が悪いわね」

包帯で吊られてこそいるが、それでもぶらんぶらんしている片腕を指差し、微笑みながらそんなことを言うナツキちゃん。茶目っ気すら感じさせられる動作だが、骨が折れているという内実を考えると、流石に茶目っ気なんて感じてもいられない。

 まぁ、そんなこんなで、僕はナツキちゃんと一緒に帰路につくこととなったわけである。


「にしてもその様子だと、ナツキちゃんは僕が秘密組織の大総統だって知ってたみたいだね。僕は隠してたつもりだったけど」

「立場上ね」

 苦笑い。

 夜の道を、二人で歩く。夜と言っても既に夜中であり、帰り道は街頭の光だけが僕らを明々と照らすばかりで、誰とすれ違うわけでもない。

 そんな中で垣間見たナツキちゃんの微笑みは、僕をもう少しナツキちゃんの隣を歩きたい気持ちにさせるには充分すぎた。きっと迅がこのことを知ったら怒るんだろうな……なんて、まだ思考の追いつかない頭でぼんやり考える。

「それにしても今日はありがとね、史郎くん。帰り道送ってもらっちゃって」

「いいよ、そんなの。どうせ途中までナツキちゃんと道同じだし」

「えへへ。でも、結構頼もしく思ってたりするのよ、史郎くんのこと」

 そう言いながら、ナツキちゃんは残った片手で自然に僕の手を握ってくる。隣の美少女がこんなセリフを言いながらこんなシチュエーションでこんなことをしてくれたら、全国のチェリーボーイ代表こと、いつもの巽史郎だったら昇天モノだろう。だけど、珍しく僕は素直に喜べない。だって、

「僕は今回何もしてない。呼び出しをくらって、ナツキちゃんたちについてって、ちょっと担任と戦って……何にもできてないのに頼もしく思ってもらう資格なんてないよ」

「うーん、でも……担任に本気を出させたんでしょ? あたしはそれだけでも凄いと思うよ!」

 僕は戦っていない。実際戦ったのは、僕の召喚した部下の改造人間たちだ。加えて、もっとうまい指示が出せれば怪人達ももっと善戦できたかもしれないのに……結局は右往左往。

 そんな風に考えると、どれだけ可愛い娘にどれだけ賞賛の声をかけられても、いつものように、馬鹿みたいに喜ぶことなんてできやしない。

「うん、ありがとう……」

「どうしたの、史郎くん。元気ないよ? あたしの言葉は嬉しくないかしら?」

「いや、凄く嬉しいよ……」

「むぅ……嬉しそうじゃない! 手を握って、褒めて、こんなにアプローチしてるのに、史郎くんどうでもいいみたいな感じ」

「い、いや……そんなことは」

 ぷくっと頬を膨らませるナツキちゃん。その美少女の表情豊かな様には癒しすら感じられる……にしても、何だって?

「あたしは、史郎くんが『送っていくよ』って言ってくれた時、凄い嬉しかったわ。だって史郎くん、あたしの方が強いってわかってるはずなのに、本気で心配して、そんなこと言ってくれるんだもの」

 いや……そりゃいくらなんでも、片腕を包帯で吊ってるような女の子が一人で夜道を歩いて帰るとなれば、誰だって心配になるでしょうに。

「ところで史郎くん。あたしのこと、すき(・・)?」

「………………え?」

 勘違い。何だろう、この既視感は。……ってか、あれだよね。これあれだよね。

「ごめん、聞こえなかった」

「レディに対してそれは失礼じゃないかしら、史郎くん」

 隙。空き。透き。剥き。梳き。漉き。鋤き。僕の知ってる『スキ』のレパートリー。えぇと、はたしてナツキちゃんの発言はこのどれに該当するんだろうか。

「ごめん、どのすき(・・)かわかんない」

「……え? ああ、うん。えぇと……英語でLOVEっていうすき」

「ああ、うん。あれだよね、『月が綺麗ですね』って訳すんだよね」

「史郎くん。あんまり逃げてばかりいたら嫌われちゃうわよ?」

「かの文豪には嫌われないでしょ、きっと」

「あたしには嫌われるちゃうけどね、絶対」

 立ち止まるナツキちゃん。手を握っているため、自然と僕の歩みも止まる。

「史郎くん、女の子に皆まで言わせるつもり?」

 ナツキちゃんに嫌われる。迅に殺される。変わる日常。訪れる非日常。僕は……どうしてこう、参った時にばかり決断をせがまれるのか?

「だけど……僕にはナツキちゃんの意図がわからない。答えてからかわれるだけだったら、流石に僕もやるせないよ」

「好きでもない男の子の手を握る趣味はないの。それに……もし、これが冗談だと言うのなら、無防備なあたしをさらって、好きなようにしてもらっても構わないわ」

「そんなこと僕ができないことを知ってるくせに。全部知ってて、このタイミングでそんなことを言うのはずるいよ、ナツキちゃん」

「理由を知りたい? でも、それは史郎くんの答え次第。できれば迅くんがいないところで、君の本当の気持ちを聞きたい」

 真剣な表情のナツキちゃん。この表情で訴えてなお、これが演技だと言うのなら……僕は一生女の子を信用できなくなる。それは、できれば避けたい。

「僕は……ナツキちゃんが、好き……です……」

「史郎くん……」

「――だけどッ!」

「……え?」

「僕には、君を好きな理由が、よくわからないんだ……」

 僕は、咄嗟(とっさ)に嘘を付いた。理由なんて単純明白だ。考える余地もないのに。

「そう、か…………ふふ、それなら、あたしも理由を言う必要はないよね」

 ウィンクするナツキちゃん。やはり可愛い。その外見から行動までの全てに集約された可愛らしさと美しさ。僕が好きだと言うのはそれであり、それ以上でもそれ以下でもない。

「それじゃ、夜も遅いし帰りましょうか」

「う、うん」

 刹那、ナツキちゃんの手が離れる。「あぁ、これでお別れか」と僕は瞬時に判断した。

 ――が、違った。


「…………それじゃ、また明日。遅刻しちゃダメよ、学校」

「う、うん! じゃ、じゃあね。き、気を付けてッ!!」

 ナツキちゃんが小走りで帰っていく。僕は、大きく腕を振って見送った。しかし……ここから先のことはよく覚えていない。とりあえず、半絶叫半狂乱で家まで帰ったような気がしてる。いやはや、巽史郎にとってあれは反則であり、刺激が許容量を遥かに超えていた。

 好きな理由がわからない? 僕は馬鹿か。

「ナツキちゃんの唇……」

 ごめん、迅。どうやら僕は、今日から君に殺されることを恐れないだろう。(こと)に、色恋沙汰に関することにおいては。

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