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パラレル!  作者: 入羽瑞己
第四話 終わりを司る魔王
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拾参の世界④

拾参の世界――破壊神の話――海浜にて


「どうしたどうした? そんな散漫な動きでは私を倒せんぞ?」

「……っぐ……」

 進もうとすれば光弾が俺を襲う。前の光弾を消そうと思えば、後ろの光弾が俺を襲い、突っ切ろうと思えば光弾はその密度を一気に高めてそれを阻止する。

 光弾一発一発の威力は大したこと無いが、流石に長時間されされていると厳しいものがある。

「私に触れもできないのであれば、自慢の無力化の能力があっても何の意味もないなぁ!!」

 一発の光弾が消えれば二発の光弾を出し、二発の光弾が消えれば三発の光弾を出す。奴がしていることはただそれだけなのだが、どうにも突破口が見えてこない。魔力とやらが無くなるまで粘ってみようかとも思ったが、どう考えても俺の消耗の方が激しい。

「どうしようもないのだ、命乞いでもしてみたらどうだ? もしかしたら動揺して、光弾のコントロールを誤るかもしれないぞ」

「好き勝手言えるのも今の内だ。ほざけ」

「口だけは立派だな。…………まぁ、本来この光弾が一発当たれば並の魔族は消し飛ぶようなものだが、それに何発も耐えている頑丈さは誉めてやろう」

「嬉しかないな」

 好き勝手言われているが、どうにも策がない。イライラばかりが募るが、どうしようもない。

(万事休す、か……?)

「ふはは! 破壊神も無様だなぁ! こんな小娘なんて、お前じゃなくても殴れば一撃なのになぁ!」

「――試してみようぜ、魔王様!」

 背後、勇者がマオに襲いかかったその一瞬、マオの視線が俺から切れる。

 その一瞬、砂を思い切り蹴り上げる。それにより、一時的にではあるがマオの視界を振り切る事に成功する。

「っく、勇者め。力もないくせに、ちょろまかと余計なことを……」

 勇者は次の瞬間には、マオの手の薙ぎ払い一つで呆気なく吹き飛ばされていた。だが、奴が残した功績は大きい。

「ど、どこへ行った!?」

 焦りの混じった声。右か、左か。必死に目を動かすマオの懐に、俺は身体をねじ込む。

「ここだよ」

「――っ!?」

 一撃。ただその一撃に全てを終わらせる気持ちを乗せる。……乗せた、はずだった――

「頼む……やめてくれ、如月!」

 しおらしいマオの声。それがマオ本人の意志で語られているわけではないと頭では分かっていても、俺の身体は一瞬止まってしまう。

 魔王の力の前では、その一瞬が命取り。そんなことは、誰にとっても自明のこと。

「ふはは! 女の声には弱いか。意外な弱点だな、破壊神(シヴァ)!」

 次の瞬間にはもう、俺の身体は無数の光の槍に身体を貫かれ、宙を舞っていた。


「さ、流石です、ケイテン神様! あ、あの破壊神をやっつけるなんて!」

 朦朧(もうろう)とする意識の中、マオに駆け寄るエルの姿が目に入る。どうやら、ケイテンのことを(たた)えているらしい。

「ふむ、エルか。だが、まだだ。こいつはしぶといし、何をしてくるかわからない。体中貫いたからって、簡単に死んだなんて思っちゃいけない」

「そ、そうですよね。簡単に信じちゃいけませんよね。だって、このご時世、天使だって神に逆らうことだってありますもんね」

「そうだ。このご時世、天使が神に逆ら――ん?」

 一瞬の気のゆるみ。驕り。そんなものが、奴に隙を作ったらしい。

「今です、勇者さんッ!!」

「貴様、創造主に対してよくも……(たばか)ったな!!」

 エルがマオを後ろから羽交い締めにし、マオが鬼の形相で声を荒げる様が映る。非力な天使に押さえ付けられただけなのに、魔王は随分取り乱している。

 しかし……それだけ。呼ばれた勇者は出てくる気配がない。

「ふふふ……ふはははははははははははははッ!! 勇者が何をするつもりだったかは知らんが、どうやら不発に終わったようだな。飼い犬に手を噛まれたかもしれないと一瞬動揺したが、杞憂(きゆう)だったようだ。エルを作った当初は、あまりの馬鹿さに欠陥品とばかり思っていたが、こんなところでその馬鹿さに救われるとはな」

「そん……な……」

「お前は後でいくらでも調整してやる。今は引っ込んでろ!」

 そう言ってマオは易々と拘束を抜け出し、エルの襟を掴んで海に放り投げた。

「さぁて、破壊神(シヴァ)。あとはお前を殺してジ・エンドだ。私はこれから魔族の侵略者たちの相手をせねばならない。遊んでやりたいのは山々だが、そんなに暇でもないんだ。これにて終わりにしよう」

 マオの手には魔力で作られた光の剣。おそらく首を切ってトドメとするつもりだろうが、生憎俺にはそれをよけるほどの元気は残ってない。

「言い残すことはないか? 優しい私はこの世界を支配した後、お前を世紀の極悪人として未来永劫語り継いでやるぞ。碑文に刻んで欲しい言葉があるなら言ってみろ」

「……傷だらけでも、勇者か」

「何だ? お前に勇者なんて言葉が添えられるとでも思っているのか?」

「俺は思ってるぜ」

 刹那、勇者は背後から己の身体とマオの身体をその錫杖をもって貫く。

「か、は…………? な……に……!? ば、馬鹿な、この私が…………」

 悦に入った余裕の表情とはうって変わって、血走った目で苦悶の表情を浮かべて悲痛な声をあげるマオ。大きく目を見開き歯を食いしばったその様子が、その事態があまりに予想外であることを俺に伝えてくれる。

「残りは、頼んだぜ、破壊神。魔王は、助けた。後は、遠慮無く、やってくれ……」

 傷だらけの勇者。全身から血を流し、片目を潰し、片腕をあらぬ方向に曲げ、片足を引きずった状態でマオに忍び寄った勇者は、最後の力を振り絞って錫杖を突き立てた。そして、マオと共に――倒れた。

 勇者の言葉の意図はわからない。だが、あんなよれよれになった勇者の力で、マオの身体を貫通させるだけの力を発揮できるとは思えない。

「この錫杖……」

 よろよろと立ち上がり、真紅に染まった錫杖を引き抜く。だが、二人の身体からは血が出るでもなく、あっさりとそれは引き抜けてしまう。

 わからない。勇者の言葉の意味。この行為によって、何が起きる?

「迅様ぁ、ご無事ですかー?」

 しばし(ふけ)っていると、いつもは快活な声が妙にしんみりとして聞こえる。海の方を見ると、水浸しになったエルがふらふらと歩いてきているのが見えた。

「なんとか、な」

「よ、良かったぁ……って、んな!? なな何で『それ』を! ももももしかして貴方、迅様じゃ……」

 俺が錫杖を持っているのを見ると、エルの表情が強張(こわば)る。

「こいつが、何かあるのか? ほら」

「わわ、投げないでくださいよー。これ結構危ないんですから」

「それのどこが危ないんだよ」

「い、いいですか、迅様。これはですね、神様が……」

「返、せ……」

 か細い(うめ)き声。見ると、エルが説明を始めたところで勇者が意識を取り戻していた。

「あ?」

「私の、錫杖を、返せ……」

 這いながら、錫杖を求める勇者。どうやら既に満身創痍らしく、まともに立つことも難しいらしい。

 だが、その様子を見たエルは、錫杖を抱きしめて首を振る。「絶対に渡してはいけません」と。

「この錫杖を使ってケイテン神様は精神交換ができるんです。その様子を見る限り、たぶん勇者さんの身体に……」

 そう言って目を伏せるエル。

「……なるほど。『今は勇者の身体にあのクソ野郎がいる』ってことで大丈夫か?」

「は、はい……この様子を見る限りでは」

 既に勇者に気高き英雄の面影はない。あるのは、血走った目でただ汚らしく錫杖を求める醜い男の姿のみ。

「返せ……エル……。創造神からの命令だぞ……」

「そ、創造神様からの命令でもこればかりは従えません。もう、あなたに従うのはこりごりです」

「何だと……お前、自分の言っていることが……」

「錫杖を貸せ、エル」

「………………え!?」

 エルは俺の言葉に一瞬拒否反応を見せるが、「大丈夫だ」の一言で、渋々俺に錫杖を渡す。

「おい、貴様。この錫杖が欲しいのか?」

「欲しい……錫杖を、寄越せ……」

「そうか。それなら、返してやろう」

 俺は錫杖を木っ端微塵にへし折って砕く。

「あ……あぁあああ、なんてことを……。なんてことを、してくれたんだ、おまえぇ!?」

 粉々になった錫杖の破片を拾い集め、惨めったらしく俺の方を睨む勇者。

「あの……迅様……」

「何だ?」

「勇者さんを……」

 皆まで言うな。大方こいつが言いそうなことはわかる。

 片目を潰し、腕を折り、足を折り……わざわざ入念に自分で身体を痛めつけまでして錫杖を使ったんだ。こいつが俺にやって欲しいことぐらいはわかっているつもりだ。

「ああ、わかってる。遠慮無くやってくれ、だろ? 貴様の分までしっかりやるさ」

「許さんぞ、破壊神(シヴァ)……絶対に、お前を……」

 憤怒の表情でふらふらと立ち上がる勇者。

「伊佐見ユウ。覚えたぞ、その名前」

 一瞬だった。

 渾身のボディブローを腹部に見舞う。その瞬間、決着はついただろう。だが二打三打と、打撃を重ねていく。ボロボロになった勇者の身体に、猛烈な『ラッシュ』が見舞われる。

 止まらない連撃。容赦のない攻撃。

 ほんの五秒ほどの猛攻だった。だが、フィニッシュブローを決めたとき、既に勇者の身体は(いびつ)に変形するほどに損傷していた。

「遺言はあるか?」

「………………」

 既に反応もない。ただひたすらに、随分とあっけない終幕――。


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