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パラレル!  作者: 入羽瑞己
第四話 終わりを司る魔王
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拾弐の世界⑤

拾弐の世界――大総統の話――校長室にて


「ナツキちゃん!? だ、大丈夫なの……?」

「心配には及ばないわ、史郎くん。命に別状はないから」

「命に別状はないって……」

 僕はなんだかんだで担任との戦いは軽傷で済んだ。そりゃ、担任は端から殺すつもりなんてさらさらなかったんだから当然だ。

 だけどナツキちゃんは校長を倒すにあたって、そういうわけにはいかなかったようだ。体中に裂傷やら打撲やらの傷を作り、片腕は関節が外れてしまっているのか、片手で支えていないとぶらんぶらんした状態だった。

「……そんなことより、これはどういう了見かしら?」

「おおかた、優等生のお前さんは予想できてたことだろ?」

「監察官殿と直接会うのは二度目かの? 儂が編入の手続きをしたとき以来じゃて」

「すまんね。監察官様にはお茶ぐらい出せってなもんだが、生憎それをする余裕すらないってなもんで」

 校長室に五人の人間。初めて入ったが、校長室が会議室も兼ねていることもあり、それだけの人数がいたぐらいではまだ広さを持て余している。

「あたしの質問に答えて頂けるかしら? これほど事態が深刻化しているのがわかっているなら、もう少し早く対処を行っても良かったはず。随分手荒い歓迎を受けさせられた(・・・・・・・)みたいだけど?」

 ナツキちゃんの鋭い言葉が向く先――それは僕の雇い主であり、僕をこんなところに呼び出した張本人。

「正直すまんかった。危機管理能力の欠如を問われてしまっては反論の余地もない。加えて、世界の管理者(ガーディアン)に名を連ねる幹部連すら殆ど掌握されてしまったとあれば、儂らも不用意に動けんかった」

 申し訳なさそうに語る白髪の老人――九鬼十兵衛。それが自分の血か、はたまた他人の血かもわからないが、血糊(ちのり)まみれのスーツを着た彼の姿を見ると、壮絶な状況の中を潜り抜けてきたのがわかる。

「と言っても、理由の説明にはならんの。大総統は状況もよくわかってないじゃろうし、とりあえず今起こっていることを儂の口から説明しよう」

 そういって九鬼さんは、「今この世界で起こっていること」「ケイテンという特異点の存在」「どうして血だらけで校長室まで来る羽目になったのか」を説明する。

 今、巷では『ケイテン神』という新しい神を信仰する人間が出てきているらしい。だがそれは様々な次元と世界を渡って、人々の概念を書き換えることで不当に世界を支配してきた『ケイテン』という次元犯罪者の能力の効果によるもので、本来あってはならないものであるようだ。

 『ケイテン』はその世界に住まう人々の概念を上書きすることで、自分が神として君臨できる世界を増やしているらしい。信仰が集まればその能力も増大するらしく、現在の『ケイテン』の能力を鑑みるに、相当多くの世界を手中に収めていることが予想されるようだ。

 先日の魔族大侵攻のごたごたを皮切りに、この世界に住む随分多くの人々が既に『ケイテン』の支配下に落ちてしまったらしい。そしていよいよ世界転覆を企てる彼らの手によって世界の管理者(ガーディアン)の長に位置する九鬼さんたちは命を狙われ、現在に至っているらしい。

 要約するとこんな感じ。

「あたしは謝罪や言い訳が聞きたいわけじゃないの。ケイテンの襲来、活性化は随分前から予期されていたはず。どうして入念な対策を立てなかったの?」

 九鬼さんの説明が終わるやいなや、すぐさまナツキちゃんが噛み付く。

「それは管理の怠慢としか言いようがないのう……」

「さて、怠慢で済まされる話かしら? 一度前例があり、奴は置き土産まで残していったのよ?」

「………………ま、置き土産って点では、その責任は俺にあるんだろうな。すまね、監督不行届ってなもんだ。優等生自ら気にかけてたみたいだからと放置していた……なんて言うと怒られそうだな」

 担任が珍しくバツの悪そうな顔を浮かべる。しかして、置き土産とはなんだろう?

「ねぇ、置き土産って何?」

「天使よ」

「天使?」

「天使――エル・ガブリエル。彼女はケイテンによって作られた存在よ。おそらく彼女がこの世界における奴の『目』となり『耳』となっていたわ」

「な、何だって!?」

「そんなに驚くことはないでしょうに。確認が取れてる範囲だと、史郎くんと迅くんは一度ケイテンに会ってるはずよ。去年の秋頃、目の前のクソみたいな(担任)から依頼されてね」

 去年の秋頃――僕らは初めてエルちゃんに出会った。「ムハンマド」とかいう怪しい新興宗教団体の調査に赴いた際、彼女が生贄にされそうになっていたのを助けたのがきっかけだ。

 ゾンビに襲われ、チェーンソーに追われ、チャッキー、エクソシスト、ラバーマスク何でもござれの中、夢の中を引っかき回されたり、僕は捕らわれの身になったりもしたけど、最終的には迅がその拳をもって全てを解決してくれた。

「でも、その事件は迅が全部解決したんじゃないの? ムハンマドは教祖も御神体も失って壊滅。そのケイテンとかいうのも消滅したはずじゃ……?」

「大幅に弱体化せざるを得ない結果にはなったようだけど、なんとかケイテンは消滅を免れ、他の世界に逃亡を成功。様々な世界を支配していくことで着々と力を蓄え、辛酸を舐めさせてくれた破壊神への復讐のために舞い戻ってきた。以前は失敗したこの世界(バースト)の支配も兼ねて……ってところかしら」

「なるほど。ところでその破壊神である迅と、マオちゃんの行方、誰か知ってますか?」

「大総統くん。良いところに気が付いたな!」

 九鬼さんの秘書である玉城さんは、机の上に行儀悪く腰掛けながら指をパチンと鳴らしてテレビのリモコンを取る。

「結論から言えば、あの二人はもうここにはいない。まぁ、話に聞くより見た方が早い」

 そう言ってテレビの電源を入れる玉城さん。『蓮皇海浜観測所』というテロップの入った映像がでかでかと映し出され、そこには……

「「……何、これ……?」」

 ナツキちゃんと声が被る。横で担任が「ひぇー、こいつぁすげぇ」などと呑気な声をあげているが、どう見ても事態はそんな悠長ではないらしい。

「第二次魔族大侵攻。不思議なことに、前回攻めてきた魔族連中と殆ど同じような奴らじゃ。だが、見て分かるように」

「魔王が、魔族を、()いている……?」

 大量虐殺。一方的な破壊。凄惨たる光景。逃げ惑う人々。

 そこに映っていたのは、魔族の王が魔族の民を灼く姿。海浜から街へ侵攻しようとする魔族の兵隊は押し寄せるまま、魔王の獄炎の前に為す術なく塵と化していく。

 明確な殺意をもって行われる攻撃。慈悲や遠慮など微塵も感じられない。おそらくはそれが魔王本来の姿。冷徹無比な攻撃を行い、人々を苦しめる。

 しかし本来、その冷徹さが魔族の民に向く道理はない。

「何で、マオちゃんが笑ってるの……?」

 画面上に小さく映るのは、紛れもなく僕らの級友。いつもどこか自信なさげに振る舞っていた新しい僕たちのアイドルは、下品な高笑いをあげつつ破壊行動を繰り返す。まるで邪悪な魔王(・・)のように……。

「最悪の状況ね。まぁ、その……色んな意味で」

 色んな意味で。魔族が攻めてきて、マオちゃんが魔王の力で暴走してて……。おそらくどちら一つでも最悪なのだろうが、二つ同時となるともう「最悪」などという言葉の範疇を超えているようにしか思えない。

「第二次魔族大侵攻、魔王の復活、魔王の奪われた精神……魔族とやらに関わるとろくなことにならんねぇ、全く。まぁ、攻めてきたのはあちらさんのようだが」

「不幸中の幸いと言えば、ケイテンにとってもせっかく殆ど掌握した世界を、魔族共に滅茶苦茶にされるのは不都合ってことだろうさ。状況的にこちらも兵隊を動かして対処できるような余裕もないが、ケイテンは手駒にした魔王で対処にあててくれている。その間に、こっちは色々考えて対策を講じる。こいつは漁夫の利に(あやか)ろうってわけだよ」

「そいつぁ、良い考えだ!」

 割と絶望的状況のはずなのだが、担任と玉城さんは軽快に今の状況を笑い飛ばす。

 この人たちは前から頭のネジがどこか歪んでいると思っていたが……奇人変人の考えることは、やはり僕にはわからない。

「…………ん、あれ?」

 画面端に映っているのは、傷だらけの竜。

 竜はその上に、三人の人影を乗せて今まさに飛び立とうとしている。そして、その二人は見知った顔――特に一人は、知りたくもないのによく知りすぎている悪友。

「………………何やってんの、迅……?」

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