表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレル!  作者: 入羽瑞己
第二話 邂逅
19/46

漆の世界③

漆の世界――天使の話――街道にて


「えと、わたしの顔に何か……?」

「なぁ、俺たちって初対面だよな……?」

「…………え?」

 勇者様と二人で夜道を歩く。本当は一人で家まで帰りたかったのだけど、彼は送っていくと言う。断れなかったわたしは、結局ほぼ見ず知らずの人と一緒に帰ることになった。

 そして、なぜか何度もわたしの顔をのぞき込んでいるなと思った刹那、彼は突然そんなことを言い出したのだ。

「……いえ。たぶん、学校で一度お会いしました。放課後に迅様と戦ってらしたのって、あなたですよね?」

「じんさま……?」

 彼はしばし頭を抱える。そして記憶を辿り、気付いたようだ。

「……あぁ、『破壊神』か。ってことは、手前は途中で邪魔に入った…………いや、そんときから前に会ったことあるような気がしてたんだ。本当に今日初めて会ったか?」

 彼は首を傾げて、そんなことを一人でぶつぶつと呟き出す。どうやらナンパのための安売り言葉でもなさそうだ。

「ダメですよぉ、勇者様。『破壊神』って呼び方されるの、迅様嫌がるんですからね」

「んなこと言ったって、破壊神は破壊神だろ? 第一、俺が奴が嫌がる呼び方をしようが……」

「ダーメーです! ダメなものはダメなんです! 迅様には『如月迅』っていう立派な名前があるんです。そりゃ、見た目はちょっと怖いかもですが……破壊神なんて呼ばれるほど、悪い人じゃありませんからね!」

「あぁ!? そんなんだったら、俺にだって『勇者』じゃなくて名前くらい!」

 名前くらい。そう言った後、なぜか横を歩く彼の声が一瞬曇る。

「名前くらい………………い、いや、何でもねぇ」

 だけど、すぐにさっきまでの声色を持ち直して会話を続けた。

「だけど、俺も『勇者様』なんて呼ばれるのはあんまり嬉しくねぇな。他人行儀に感じてな。これからはお互いパートナーだ。親しみを込めろとまで言わないが、せめて『ゆうしゃさん』とかで呼んでくれ」

「わ、わかりました、勇者さん」

 何を言っているんだ、彼は。わたしのパートナーになるのは迅様ただ一人! 仕方ないから一緒に組むだけなのに、なんだか……馴れ馴れしい。

「それにしても、良かったのか?」

「何がです?」

「いや、その……手前、随分と破壊神に入れ込んでるみたいだが……」

「『悪の化身である破壊神に肩入れするのはやめておけ』とでも? それに関しては余計な」

「いや、そうじゃねぇ」

 「お世話です」の言葉を紡ぐ前に、彼はわたしの予想を否定する。

「俺は力を得た代償として『使命』を課された。『使命』だから破壊神を殺そうとするし、殺すことに躊躇もねぇ。だが、手前は破壊神とは随分と付き合いが長いみたいじゃねぇか。カミサマからの命令だからといって、自分が直接手をかけなくても、奴を殺そうとしている俺に手を貸すことに抵抗はねぇのか?」

「それは……」

 ないわけがない。だけど……。

「仕方ないんです。もともと、貴方がカミサマと呼ぶ『あの人』には、わたしは従う他ありませんから」

「どうして?」

「貴方の言う『使命』と同じようなものです。生まれた時から決められてることって、あるじゃないですか」

 たぶん、わたし以外にはわからないことでしょうが、ね。

「……そうか。悪い、不躾なことを聞いた」

「いえ、気にしてませんから」

「…………そうか」

 その後、わたしたちの間には気まずい空気が流れ――その日は結局、お互い何も話さずに別れた。


 家に帰って鏡を見ると、どうやらわたしの頬には雫が伝った跡があり……。

「もう、いつものようには接せない……か」

 突然現実を痛感させられる。今日の放課後は一緒に帰ったというのに、夜になればそんな彼をどうやって殺すかの話。

 正直馬鹿げてる。馬鹿げてるが……それでもわたしは、『あの人』が言うならば勇者さんに付き従い、愛しの彼を殺すための手伝いをしなければならない。

 どうしてわたしは天使という名の下に生を授かってしまったのだろうか。どうして人並みに好きであることを許されないのだろうか。

 鏡には天使の輪が映り、自分が天使であることを忘れた日はない。天使として人々を癒す分には何の不満もない。しかし、その癒しの力を――自分が愛した存在を殺めるために利用しなくてはならないとは、なんと現実は残酷なのだろう。

 自分の部屋に入るや否や、目からは大粒の雫が漏れ、何度も何度も頬の跡を上塗りしていった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ