伍の世界①
伍の世界――管理者の話――オフィスにて
「報告を頼む、玉城」
「今回の特異点は三つ。いずれも世界の均衡を歪められるだけの力を持っている。もたもたしていれば、いずれは特異点の力に取り込まれるだろう。早急な対処が必要だ、十兵衛」
引き締まった身体にリクルートスーツ。整った顔立ちに眼鏡。そして仕事を眈々と冷静にこなす様から、周囲から「知的で仕事ができる美人秘書」と称される社長秘書『玉城』。
「とりあえず資料。幾分か繁雑だが、なにせ急ごしらえの品だ。我慢しろ」
彼女は見た目の印象に反し、主の机に行儀悪く腰掛けながら言い放ち、資料の入ったファイルを無造作に投げ捨てる。主――九鬼グループの総裁『九鬼十兵衛』は、その社長秘書のあるまじき言動に毎度のことながら苛立ちを覚えるが……どうせ言っても直るまい、と半ば諦めつつ渋い顔をして資料に目を通す。そして内容を見るや否や、既に皺だらけの顔を更に強くしかめた。
「これは、本当か……?」
「この有能な秘書が、虚偽の報告をしたことがあったか、十兵衛?」
この秘書は態度は悪いが、忌々しいことに仕事はできることを知っているだけに。九鬼十兵衛は資料の内容に複雑な感想を抱く。
「…………ふむ」
そして口元に手を当て、考え込む姿勢を取る白髪の老人。「そろそろ現役を退き、後任に全ての役職を譲ろうか」と思う今日この頃、彼はしばらく無言で考え耽って――
「やれやれ。今度こそ、最後の仕事となるといいのじゃが」
世界を動かす手配を進めるのであった。




