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パラレル!  作者: 入羽瑞己
第一話 爆ぜる。
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肆の世界①

肆の世界――怪人の話――遊園地にて


「俺様は『秘密結社ヘルサターン』の技術力をもって作られた改造人間『エクスカラベイザー』だ! 今をもって、この遊園地は我々『ヘルサターン』の物となる! 逆らうヤツ、逃げ出そうとするヤツは……」

 エクスカラベイザーの指示に従って、ガスマスクを装着した戦闘員が、逃げだそうとした一般人に『エクスカラベガス』を噴射する。ガスの直撃を受けた一般人は、しばらく悶えた後、(たちま)ち他の一般人に襲いかかった。

「このように、強制的にヘルサターンの支配下に入ってもらうことになる!」

 戦闘員が「イーッ」と規律の取れた返事を返す中、ガスの効用で眼の縁が赤黒く(・・・)なった一般人も、それに倣って「イーッ」と高らかに声をあげる。

「俺様とてできれば穏便に事を済ませたい。おとなしく我々に従うのだぁ!」

 エクスカラベイザーが声を張り上げるが、民衆の耳には届かない。絶望的な状況にパニックになり、周りなど関係なくただ自分が逃げて生き延びることに精一杯になっている民衆に、醜い怪人が何を喋っているのかなど聞こえるわけがない。

「えぇーい、止まらんか!! でなければ、エクスカラベガスをお見舞いするのだからな!」

 エクスカラベイザーの怒号虚しく、民衆はひたすら逃げる。よって、彼の指示で戦闘員によってガスがまき散らされるが、|元々牽制の用途しか想定されていない《・・・・・・・・・・・・・・・・・》『エクスカラベガス』では、叫喚して逃げ惑う民衆の勢いを殺すには至らない。

 エクスカラベイザーが現場を掌握できない内に、既に民衆の八割が遊園地からの脱出に成功。しかし、全く周りを(おもんぱか)らずに逃げた多くの大人たちの所為により百余名の重軽傷者が出ており、逃げ遅れた民衆の殆どがそれに該当していた。

「ふははは! 随分と活きの良い人間共だ」

 どう見たら目の前の人間たちに活きの良さなど感じ得るのか。絶望を感じ、目にはもう何の光も灯ってない民衆の前でそんなことを言って何の意味があるというのか。そもそも、始めに生物兵器を見せて民衆の冷静さを奪ったのは間違いだったのではないか。

 戦闘員たちがこの作戦の構想には些か問題があると感じる中、エクスカラベイザーはそんな意向もお構いなしに戯曲(・・)を続ける。

「ふはははははは!! 怖いか、恐ろしいか!? だが、恐怖に打ちひしがれて叫ぼうが喚こうが、誰も助けてなどくれんのだ! 助けを願っても無駄なのだ!」

 助けなど誰が願っているのか。もう半ば死すら覚悟しているではないか。

 戦闘員らが、非情な民衆に置いていかれた哀れな弱者たちの表情を窺えば、そんな感想を抱く。しかし、高笑いを繰り返す上司に向かってそんなことを言う権利など与えられているはずもなく……全身黒タイツに特徴的なマスクを被った『ヘルサターン戦闘員』は、ただただマニュアル通り「イーッ」とひたすら繰り返し、上司に服従の念を示す他なかった。

「ではでは、お前たちをどう料理してやろうか!? ふははは、泣け、喚け! 絶望に打ちひしがれるが良い!!」

 高圧的な態度で、民衆の恐怖に追い打ちをかけるエクスカラベイザー。

 しかし、戦闘員たちは知っている。この目の前の上司が何を思ってこんなことを言っているのか。これから彼が何をしようとしているのか。……というより、結局彼は何もしないであろう(・・・・・・・・・)ことを。

 彼に与えられた使命は、さして意味もなく人の集まる施設を占拠し、さして意味もなく民衆を混乱に陥れ、さして意味もなく不気味な笑い声をあげること。

 一介の役者でしかない彼に、それ以上のことは許されていない。彼は自分が『悪人』であり、その母体である「ヘルサターン」という組織は『悪の組織』である、ということを民衆に伝えるためだけにここにいる。悪人であれど、悪事を働くことは許されないというジレンマの中、彼は――

「くたばりやがれ、カメムシ野郎! サイキック、バスタァーッ!!」

 『正義の味方』の登場と共に、爆音を響かせてこの世を去る。

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