公平な裁き ー始まり
夏になり、眩しい日が照りつけるクスキオンの館を後にして、ルイアナたちは別荘へ移った。
大河フエウスの流れる岸辺を端につけ、日干し煉瓦作りの建物の密集するメネトの街は、今日も賑やかだった。
その一画にある館で、ルイアナは横臥していた。
張り出した庇に、三方は壁がなく、風が通り抜けになっている、極めて開放的な空間だった。
こうしてまどろみながら景色を楽しむための場所だ。
床下に等間隔に立てられた柱の間には、大河から伸ばされた水路からそそぐ水が、なみなみと揺れている。人口の池だ。
館の背面には、モルクス杉や糸杉などが林立する森がそびえ、時に酷なまでに照りつける夏の日差しを遮っていた。
「――…そういえば、申し立て人たちがやって来るのは、今日の午後からだったわね」
ルイアナは水面の影が揺れ映る顔を、横へ巡らせた。
側に控えていた侍従長がうなずいた。
「はい。まもなくこちらに。謁見の用意はできております」
「そう。――では、私もそろそろ支度をしましょう」
ルイアナは立ち上がり、侍女たちを見た。衣装替えの侍女たちがそれに楚々と集まり、準備を始める。
************
カロンは扉をそっと開けて中の様子をのぞいてから、謁見の間に入った。
彼女は部屋の奥にいた侍従長に軽く辞儀をして挨拶してから、書記係りの隣へ立った。
部屋の中央では、すでに二人の人物が膝をついた姿勢で待っていた。
(…これから、殿下が領地のもめ事の裁定をなさるのね……。どうしてこう、いつも大勢の訴えが絶えないのかしら…)
ルイアナが都にいる間は、委任を受けた管理人が治めているのだが、ルイアナ自身がメネト市にいる間には、彼女が直接その訴えごとを処理することもあった。
今日行われるのも、そのような事例の一つで、争っているのは二人の人間だった。
一人は壮年の男で、もう一人はまだ若い少年だった。
謁見の間の下方には、今回の裁きに関係ある村人たちが、特別に館へ入ることを許され、聴衆として集まり、部屋は少しざわめいていた。
上座に敷きつらえられた場に、ルイアナの姿が現れると、彼らは一斉に頭を垂れて敬意を表した。
「――本日、王女殿下が特別の寛大さをお示しになり、そなたらの訴えをじかにお聴きになられたまうこととなった。しかと感謝いたし、このご温情をよく心にとどめよ。神々にも恥じぬふるまい、民にふさわしき行いを心がけ、謹んで、厳粛に言葉を述べよ」
侍従長が重々しい言葉で二人に告げると、両人ともが深くうなずき、目線を下にしたまま謝意を述べた。
「――では」
侍従長は書記が事前に書き上げたものを読み上げた。
「…今回の訴えは、申し立て人・メネトの良き民にしてフメールの僕、ゲオルグ・ゼン・ナイマンからのものである。ゲオルグは父のマセット氏の代から、メネトのワー村に畑を持ち、毎年の税もとどこおりなく納めている」
侍従長は男に目を向けた。
「そなたがゲオルグに相違ないな。申し立ての意志に変わりないか、今一たび確認する」
「はい、そうでございます。――私は断固として申し立てます」
「疑われし者は、彼に仕うる下男、セントン。生まれはイホンの地で、二年前からゲオルグの家に居住し働いている。そなたがセントンだな」
「はい、そうでございます」
声こそ幼いが、少年はしっかりとうなずいた。
侍従長はうなずき、手元の板を上のルイアナへ向けた。
ルイアナは板に手を置き、うなずいた。訴えを受けることを承認することを示したのだ。




