ロビングスの大神殿 ーフーディーン 一.
「――…ガニ様、本当に、これは大変なことなんでございますよ」
「――ええ、分かっております」
それは二人組の男の話し声だった。
一方が何やら不満げな様子で語った。
「一昨年も、ひどい不作でございました。今年もどうやら日照りで、獲れが十分でないんでございます。こんなことがございますか?一体私の何がいけなかったんでございましょう。もっと立派な石工に、像を彫らせりゃよかったんですかね」
「神々はいつも気まぐれなものです。しかし、祈っていれば、幸いを降り注いでくださることもあります」
落ち着いた方の声は諭すように言ったが、不満げな声はそれに被せるように言葉を続けた。
「すると、家内にこう言われましてね。――お前、ロビングスは違うんじゃあないのかって。あれは太陽の神様だけど、畑とか、作物とか、そういうのは、豊穣の女神様にお祈りするのが筋だろうって。それで、私も気づきましたんでさ。確かに、お角違いの祈りだったんです。そうです、リアンナ女神様のが、"向いてる"んだってことは、疑いようのない事実でさ」
「確かに、豊穣の女神リアンナが、豊かな実りをもたらしたもうことは事実です。しかし、ロビングスに祈ることが、筋違いとはなりません。神々はいつも我々の声に耳を傾け、人間の行いの…―」
「ああ、本当に悔しいことで!」
怒った声はまくしたてて遮った。
「なんで言ってくださらなかったのかって、私が腹を立てたのもお分かりでしょう?ええ、ガニ様。わたしゃ、本当に疑問でございますよ!どうして私の間違いを教えてくださらなかったのかって」
「いえ、ナグナントさん。そもそも神々の役割は、それしか果たせないという、厳密なものではなく―…」
「ええ!分かっています。像を建てさせたほうが、そちらのもうけになりますからね!そりゃあ、よいでしょうよ。黙って像を置かせて、黙ってもうけを受け取るだけ!本当にありがたいお役目ですよ!ねえ、神官というのは、立派なもんです!」
(――話を聞かない男だわ)
ルイアナは祈りの姿勢のまま、こっそり心で呟き、
(なんて話を聞かない人なの)
遠目に怒鳴る男を見ていたカロンも、こっそり眉をひそめた。
今や、怒鳴る男と、それをおさめる神官は、話しながらルイアナのすぐ側まで来ていた。
彼らが側へ来ると、ルイアナは立ち上がってそちらを振り返った。
激高する男をなだめていた神官はルイアナに目をやった。
「――…姉上。いらしていたのですか」
少しだけ驚いたように、その神官は目を見開いた。
「リアンナの幸いがあなたの上にあるように。――相変わらず厳粛に務めを果たされているのですね。ルク・ガニよ」
ルイアナは言った。
「ロビングスの幸いが、あなたの上にありますように。――どうぞ、我が弟と呼んでください。水臭い方だ」
王の(庶子を除いて)三番目の子ども、フーディーンは屈託なく笑った。