竜の神 竜神伝説2
部屋に入った僕たちだが、部屋の豪華絢爛な造りに圧倒される。
部屋は壁も床も金でできており、部屋の中央に高さが2メートルほどの竜の形をした像があった。出入り口は僕たちが入ってきた所以外はない。
「すばらしい!大発見だ~!」
先生の壁と壁を往き来している姿は興奮を抑えきれないように見える。
吹き抜けで天井が見えないこの部屋の壁はどこまで続くのだろう?
竜の像を良く見てみる。
この神殿の神に献上した美術品なのだろうか?
僕は竜の像に触れる。
『汝、何を求めるか?』
像から思わず手を離す。
っ!今のは...?先生の声ではないし、頭の中に直接響くような声だった。
先生は壁を触って出入り口を探してるようだ。
もう一度触ってみる。
像が光輝き出す。目を覆っていると瞬間に無重力感、地に足がつかない感覚を感じた。
「うぉーなんだねコレは!?」
目を開くとさっきの部屋ではなく上も下もわからない白い空間に僕と先生がいた。
どこなんだここは?
白い空間に光が生まれた。
光は大きくなり僕と先生を呑み込んだ。
気が付くとさっきの部屋に戻ってきている。
はっ先生は!?
「うーん、何処だここ?」
俺の後ろで倒れていたが目を覚ました。
「さっきの部屋に戻ってきています。
すいません僕が興味本意で像に触れたから」
「像に触れたら今の現象が起きたのか
摩訶不思議なこともあるものだ。ははっは!」
しかし何だったんだ?
スー..
突然壁が開いた!
「あそこが出口かな?真東君、神殿内を歩いてみよう。」
「ちょっと待って下さい!足音が聞こえませんか?」
カツン、カツン、カツン、カツン
足音は次第に大きくなっていく近づいてきているようだ。
隠れる場所がこの部屋にはない。
「誰かいるのかね!?」
先生、叫んだら駄目だよ!?
って言っても遅い。
足音は確実にこちらに向かってくる。
誰なんだ?
部屋に女性が入ってきた。
像に向かって何かを話している。言葉がわからないので話している内容が伝わってこない。
僕たちに気づいてないのか?
女性の顔の前で手を振る。
何やってんの先生!?
あれ先生になんか気にも止めずに像に話をしている。
「私たちの姿は見えてないようじゃな。」
「見えてないって、どういうことですか?」
「私にだってわからんよ。」
先生はお手上げのポーズを取った後に竜の像に手を触れる。
するとまた、竜の像が発光した。
光が静まる。
「なんじゃったんじゃ?」
『神よ、我らの国は貴方のおかげで発展しました。』
!!女性が話している言葉がわかるようになった。
『魔法なるものは我らの生活に欠かせぬ物となりました。
本当に感謝しております。
お礼の証として供物をいつもの部屋に置いております。』
女性はそれだけ言うと、部屋から出ていってしまった。
魔法?あの本に書いてあった物のことか?
それより女性はどこから来たのか、知るために部屋を出る....
出る...出ようとしたが見えない壁に阻まれた。
えっ出れないの?
女性の足音が消えていく、壁がスライドして部屋がまた閉じてしまった。
くっなら鉄格子があった場所から外に...
「駄目だよ。鉄格子が直ってしまっているよ、電動カッターも無くなっている。」
先生は鉄格子を掴み、引っ張っている。
えっこっちはなんで直ってるの?なんで電動カッターも無いの。
閉じ込められた!
「落ち着きなさい。
まずは鉄格子を歯で削るんだ!」
「先生が落ち着ちついてください!!」
歯が削れますよ!
どうすれば?
自然と竜の像に目をやるとまた像が発光した。
またか~!
発光により目を閉じてしまう。
光が止んだみたいだ。
目を開けても、また同じ部屋にいる。
そしてさっきのように壁が開いた。
そして同じ足音が聞こえてきた。
女性が入って来るのか?
考えていた通り入って来たのは女性だった。
でも違う....確かに同じ格好をして顔は似ているようだがこの人はさっきの女性ではない。
「貧乳だな。」
「貧乳ですね。」
そう違ったのだ。
女性は竜の像の前まで歩み寄る。
『神よ、お目覚めください!
私の父は、神のお告げと偽り他国を蹂躙しようとしています!
どうか父を止めてください!』
女性は竜の像にすがり泣いた。
お目覚めください?
神は寝ているのか?それともこの神殿からすでにいなくなったのか?
「おそらくだが、彼女のお父さんは国の王なのだろう。
私たちが読んだ書物にも書いてあった。
人が増えて、土地が無くなったから他の領地を戦争で奪ったという記述がね。」
「先生、それは昔の話でしょ!」
「いや違う、私たちが過去に遡ってここにいるようだ。」
そんなバカな!
「少し気になっていたのだよ、さっきの女性が来たときの部屋の壁は真新しかった。
そして今の壁は少し時代が経っている。
私たちが最初に足を踏み入れた時の壁はさらにだ!
つまりここは過去の神殿となる。
どうだね。理解...できないよな。」
「はい...。」
先生も言葉にしたが、理解は出来ないようだ。
でも一番しっくりくる答えになるよな。
過去か...
今の僕たちの存在はどういう意味があるのだろう?
『....このことを伝えなければ、
領主のハンニバル様に。』
女性は部屋を出ていった。
ダメもとで女性に着いて行こうとしたが弾かれ、壁も閉じてしまう。
領主のハンニバル、あの本の主なのだろうか?
でも女性の今の話し方じゃ今は戦争前のはず。
あの本には戦争後のような記述で書いてあったから、最後の文面と矛盾する。
考え事をしていても容赦なく、竜の像がまた発光した。
目を開ける、また同じ部屋だ。
!!さっきの女性が横たわっている。
女性に触れることは出来ないが、息がまだあることはわかった。
『...お父様、何てことを。
あの国には、私の友人がいたのに。私まで閉じ込めるなんて。』
戦争のことだろうか?
おそらく、戦争を反対した彼女をここに閉じ込めたのだろう。
彼女はお父さんを止められなかったことが悔しいのだろう唇を噛みしめ泣いていた。
『ハンニバル様、早く私が書いた本に気づいてください。』
あの本のことか?
あの本は彼女が書いた物だったのか....。
竜の像がまた発光する。
『レミィ!しっかりしろ!
すまない私が戦争などに参加してなければ!』
目を開けると男性が彼女を抱き締めて泣いていた。
この男性が彼女がハンニバルと呼んでいた人か。
彼は鎧を身に付けている。戦争から帰ってきて彼女の残したという本に気づいたのだろう。
彼女は彼の腕の中でぐったりとしていた。
亡くなったのだろう。
閉じ込められて放置され、独りで....
『神よ!我が命を糧に国王を!憎きこの国を滅ぼしたまえ!!』
なにを言っているんだこの人は!?
ゴゴゴゴゴゴっ
なんだこの音は!
男性が開いていた壁の扉と鉄格子つきの通気口から大量の水が進入してきた。
僕たちの時代では島は海に沈んでいた、まさか今がまさに島が海に沈んでいるのか!?
ハンニバルという男性とレミィという女性が水に呑まれて姿が見えなくなった。
そして僕と先生も....
苦しくない...。
「これは不思議じゃ、私たちは過去に干渉が出来ないため溺れることはない!」
竜の像に必死にしがみついていた僕にを宙のに浮かぶ先生が言ってきた。
「浮かんでるー!」
「ほんまじゃー!」
驚いた、先生は水の中で泳いでるわけではなく。浮いていた。
「おっほほ~!念じてみよ、自分が宙に浮いているイメージじゃ!」
浮かんでいる先生はスイスイと僕の上をぐるぐると回る。
念じる....。
おー確かに体が浮いた。
「真東君!
上じゃ上に光がある!」
天井が見えなかった部屋の上に光があった。
あそこに向かえば帰れるのか?
先生と僕は夢中で光を追った。
『汝、何を求めるか?』
またあの声だ。
光に触れた瞬間、そこにあった横道に視線を感じた。その奥に漆黒の鱗を持った『竜』がいた。
一瞬のことのはずだが、先生と僕は竜の目を長い間見てるような感覚だった。
光に呑み込まれてまた白い空間に戻ってきたようだ。
「先生、見ましたか?」
「...忘れられそうにない存在だったよ。」
空間に発生した光に呑み込まれる。
目を覚ますと、神殿の竜の像の前に戻っていた。
「戻れたのか?」
「鉄格子が壊れてる....戻ってきたんだよ。」
『汝、何を求めるか?』
またあの声だ。
竜の像が黒く光っている。
「あなたはこの国の神なのですか?」
『汝らは見たであろう?我の姿を、この島で過去に起きたことを。』
「なぜ、国を海に沈めたのですか?」
『人間は力の使い方、知識の使い方を間違えたようだ。
我が眠っている間のことだ、力を持った人間は力を持たぬ人間を迫害した。
最後に我の元に来た者は悔いていた、心の底から悔いていた。
だから叶えた、力を持った人間がいる島を全て沈めた。』
「.....では何故また島が浮上したのですか?
島が浮上してこなければ僕たちがここに来ることはなかった。」
『汝らに問うためだ、もう一度聞く。
我は何でも叶えられる。
汝、何を求めるか?』
「なにも要りません!
と言いたいですけど、家に帰りたいので僕たちが泊まっていたホテルまで戻して頂けますか?」
先生と僕は視線を合わせて頷き合う。
『我、求めに応じよう。
我は汝らを試した、汝らが力を求めれば殺した。
汝らが私欲を言えば殺した。
だが汝らは、澄んだ目をしている。
我が間違えたことを汝らは、正してくれるであろう。
去らばだ。』
光に包まれるとそこは僕たちが泊まっていたホテル近くの砂浜だった。
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あれから3年経った、
先生は大学教授を続けながらも、『人と人』という講座を月に1回のペースで開いていた。
もちろん僕も助教授の地位を得て、先生に同行している。
あの島での出来事について先生と僕は話し合っていない。
島での出来事をなかったことのように過ごしていた。
幻か現実か?
生きていて不思議なこともあるものだ。
『汝、何を求めるか?』