神樹の森:7
「くっくっく翁のあの顔。すっかり爺バカだな人を厭うていた翁には到底思えん」
「ここも随分賑やかになったものですね。静寂の森とも言われているのに…」
お座り状態で紅さんが話せば同じくお座り状態の黎さんが呆れた風に話している。お爺ちゃんは何気に照れててゴボゴボ空咳をしている。お爺ちゃん誤魔化せてないよ?
その後は何だかシリアスモードでボソボソ会話しているので邪魔しないように少し離れた所でその様子を見ていた。正確にはモフモフ突撃のタイミングをはかっていた。玉や琥珀に相談してもいつでもOKとしか返ってこないんだよね。どうせなら背中にも乗せて欲しいし頭も撫でたい。正面からおねだりコースが無邪気な赤子らしくて良いかな?
「じぃ~じ」
まずはお爺ちゃんに声をかけて相手してもらえるか確認。
「どうした環。寂しいならこっちゃ来い。紅輝様も黎夜様も邪険にはせんぞ。ほれ、おいでおいで」
おぉ~お許しが出た。大した話ではなかったのか遠慮して損した。
「はいぃ~」
笑顔でお返事して近くまで行くと紅さんの尻尾がフリフリ呼んでいる。思わず飛びついちゃった。うっわーフサフサで気持ちいい。
「きゅ~っ」
飛びついて捕まえた尻尾があっちへ行ったりこっちへ行ったり捕まえては逃げて捕まえては逃げてを繰り返し追い続けて捕まえる。何これ楽しい!
「きゃ~っ!」
フサフサモフモフでも狼の毛は少し硬い。紅さんの尻尾を捕まえて落ち着いたら隣の黎さんの尻尾も何気に揺れている。これは捕まえなきゃですよ。
紅さんの尻尾を放して次は黎さんの黒くてしなやか尻尾を捕まえる。細いけど柔らかい毛並みが堪りません。尻尾に巻きついてグルグル巻きに首に巻きつけて幸せを堪能です。
「くふふぅ~」
首に黒い尻尾を巻きつけて金色の尻尾を捕まえて抱きしめる。モフモフ天国です!くぅ~幸せ、う~何だか眠くなってきた。遊び過ぎたかなぁ~?もっと堪能したいのにぃ~眠気が…
くぅ~。
「おや?静かになりましたね」
自分の尻尾を巻きつけている環へ黎夜が目を向ければ紅輝も振り返り
「ふっ寝ちまったな。あれだけ遊べば遊び疲れもすんだろう」
尻尾を抱きしめて眠っている環へ優しく目を細めた。
「それにしても運動能力といい会話がある程度成立する知能といい随分早熟ですね。精霊に至っては自分の一部のように使いこなしていますね」
まだ数ヶ月くらいの赤子が精霊達の補助があるとしても異常ではないだろうか?纏う色彩だけでなく能力も異常ときては今後しばらくはここで育つ方が良いのかもしれない。
今回翁の元へ訪れたのは情報収集結果を伝える為だけでなく赤子、環の処遇についても相談が必要だと思われたからだ。人の子を神樹の森の妖精が育てるなど前代未聞の珍事。普通に考えて赤子が育つ環境ではない。早急に人の手へ預けるのが良いだろうとは判断されるものの異常性が際立てばそれも難しい。育てられている環自身がこの環境を良しとしているようなので引き離すのは可哀想で、さらに難しい。
「翁が負担でなけらば環はここで育つ方がいいのいかもしれんな。どうする翁?判断は任せる。難しければ金の国で預かることも可能だ。一応準備も整えている」
「私の方でも準備を整えています。特に私達の姿を恐れないのであれば闇守様が預かりたいと手ぐすね引いてお待ちです」
黒の国の守護獣である闇守様の可愛い物好きは有名だ。だが人には一歩も二歩も距離を置かれる恐れ多く尊い存在。手元で赤子を育てる機会があるはずもなく二度とはないだろうチャンスを狙っている。
「はてさて環を育てるのに負担どころか楽しくて仕方ないですが本人がどのように思っているかですな。こればかりは環自身に選んでもらうが良かろうて」
翁自身も人の子が育つ環境で無い事は重々承知している。ただただ可愛いので手元から放したくはない。しかし選ぶのは環自身もしくは精霊達。環はここを離れる事を選ぶのだろうか?そうなると寂しくなる。翁だけでなく森の妖精達もずいぶん環を可愛がっていた。この神樹の森の妖精は翁を筆頭に人を厭う者ばかりであるにもかかわらず環をとても可愛がり世話を焼いている。
「環次第ですじゃな」
「ところでオレ達は尻尾を環に捕まえられたままなので動けないんだが?」
「目覚めるまで待つしかないようですね。本人に確認しなくてもならないですから…」
三者の優しい眼差しを受ける環に目覚める様子はない。ずいぶんお疲れのようだ。そして変な寝息も変わらない状況はどうあれ平和だ。
すぷぅ~すぴぃ~すぴぅ~すぷぃ~