神樹の森:3
突然動きだし泣いたかと思えば精霊を使役し掌に乗せて喜び何かの果汁を与えられ眠った。
人の子が学ぶ前から精霊を使役し人には見えないはずの精霊でお手玉遊びをするなど今まで聞いたことも見たことも無い。それも赤子がだ!
この世に存在しない色を纏い精霊を視認し使役する妖精や守護獣に近い能力を持つ赤子。そして赤子の周囲には属性を問わず多くの精霊達が取り囲んでいる。翁の指示で連れてくるだけであれば翁の属性である地属性の黄色の精霊が多くなり属性に偏りが出るはずがそれがない。
「どうやら生まれて間もない赤子のようなのですが存在そのものが不可解で、最初に黒と金の国近くの森に居るのに気付き関係性を考慮し、お二方をお呼び立て致しました」
この地は神山のご加護により神山を中心に力の及ぶ六芒星の形に守護され先端部分にそれぞれ黒の国(闇)・金の国(光)・黄の国(地)・青の国(水)・赤の国(火)・緑の国(風)の6属性6国の神殿があり神殿を守る守護獣がご加護の守護を強化している。
髪や瞳の色は精霊の加護を示し精霊遣いの資質のある者は強い加護を受けている精霊の多く集まる同じ色の国にて精霊術を学ぶ。国によって集まる精霊の属性に偏りがある為だ。
頭髪や瞳の色は混血となっても両親のどちらかの色しか現れず、先祖返りを起こす事もあるが色が混じる事は無い。濃淡の違いはあるが六色の内のどれかしか存在せず黄髪に赤髪が混じるような事はあっても色そのものが混じりオレンジ色になる事はなく銀や紫は存在しない。精霊が混じる事は無いからだ。
たまに加護を持たない虚弱な白髪が生まれる事はあるがそれでも瞳の色は加護を受け色を帯びている。白髪白眼といった加護無しは生きられないので存在しないとされている。
「それにしても随分大人しい赤子ですね。人の子は泣くのが仕事だと聞き及んでいますが私達を見ても大人しいとは珍しい」
至急との翁の呼び出しに対応すべく獣の姿のまま、つまりは巨大な金狼と黒猫の姿
「生まれて間もないようですから目が見えていないのかもしれませぬな。精霊達は視えていたようですが」
脆弱な人の子なら納得する理由だ。
「ところで精霊達が赤子に見たことも無い実の白い果汁を与えていたが大丈夫か?」
普段から面倒見の良い金狼、紅輝が心配そうに翁に確認する。
「あぁ~あれは仙乳の実ですじゃ。この森にしかない貴重な実で人は触れる事も出来ませんので見る事も無かったのでしょう。有害どころか有益で丈夫に育ちます」
「それなら安心ですね。まさか精霊達があれほど甲斐甲斐しく赤子の面倒をみるとは思いませんでしたよ。さてどうしましょう?この色彩では親を探しても名乗り出ない可能性が高いですよ。人族は異端を排除する性質がありますからね」
面倒くさがりな黒猫、黎夜が今後についてサクサク話を進める。
「とりあえずは親捜しの為に他の国へはオレから連絡する。金の国でも探してはみるから黎夜も黒の国での親捜しよろしくな」
「それは構いませんが赤子はどうします?飽き症の精霊がいつまでも面倒をみるとは思えませんし私達では子守は出来るかもしれませんが子育ては難しいと思いますよ」
紅輝と黎夜の視線の先には精霊が揺り籠の様に揺らしながら赤子の眠りを守っている。本人は気楽なもので変わった寝息を立てて熟睡している。
すぷぅ~すぴぃ~すぴぅ~すぷぃ~
何とも気が抜ける。裸の赤子に精霊が冷えないようにか布団のように寄り添っている。人は虚弱で儚い。寝食も必要としない守護獣には扱いが判らない。
「この色彩では人の住まう地では何かと悪目立ちし生き辛いでしょうから、わしらが面倒をみますじゃ。この様子では精霊達もしばらくは手放さないでしょうから引き離すのは困難かと」
余りにも警戒心の無い無邪気な寝姿に絆されたのか人と係わることを厭う翁にしては珍しい申し出であった。
「では任せる翁。必要な物があれば何でも連絡してくれ。出来る限りの協力は惜しまない」
そう言い残し金狼と黒猫は翁の前を去った。