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薩摩の龍  作者: 龍水
3/6

朧月夜の霞む夜

短いですがご了承ください

漆黒の闇の中に、朧月夜の霞む夜

それは、始まりか、それとも終焉か

何を指し示すのかはわからぬ

ただ、わかるのは

影のある光に縋るしか(わたし)には道がない



龍は新選組局長室前にいた。

正しくは放置されていた。

そんな状況を気にも止めないのか、

まるで鼻歌を唄いそうな風を吹かせて

夜空をのんびりと眺めていた。



こんな夜は、焼酎を片手に

のんびりと酒を飲みたかものだと

少し感傷的になるのだが

それもいい酒の肴だと

なんとも呑気なものだった。

だが、残念ながら待ち受けているのは

呑むに呑めない幹部達(さけ)

摘まむに摘めぬ現実(つまみ)

一筋縄でいかないであろう彼らを

どうしたものだかと考えながら

どうにかなるだろうとそう割り切っていた。

波乱万丈なもので

人生は楽しいものなのかもしれぬと

他人事のように考えていた。


いやはや

正に、剛毅とよぶべきか

ただ何も感じないだけなのか

敏感なのか

鈍感なのか

計算しての行動なのか

それとも、 行き当たりばったりなのか

土方は、後々まで

そのことを考える羽目になる。






ーーーーーーーーーーーーーー



・・・・コンコンッ ・・・・サッ・・


「失礼いたします。新選組隊士候補でございます。

神崎龍です。お呼びと伺い参上いたしました。」


これから行われることをまるで気に病まず

堂々と入室してきた姿に、

幹部の面々は少なからず動揺をみせた。

しかし、流石は新選組幹部と言おうか

動揺を見せたのは一瞬で、

また異様な雰囲気を漂わせ始めた。



「皆、こいつは今日入隊を希望してきた。

だが、俺一人では入隊を許可できねぇ。

そう独断で判断させてもらった。

そういうわけで幹部で話し合ってこいつの 入隊を決定してぇと思う。」


嫌な沈黙が続いたあと、

土方が単刀直入に切り出した。

その言葉を聞き、

あの土方がそう言う奴など

なんとも面倒なことだ と

幹部達の瞳が憐れみを含んでそう語っていた

その中で、

温厚で律義そうな学者のような男が

龍に自己紹介をするように告げた。

因みにこの男

名を山南敬介と言い

役職は総長、小野派一刀流免許皆伝


さて、龍はというと

なんとも想像内の反応に辟易としつつ

つらつらと

先ほどと同じように自己紹介をした


幹部達の反応もしかり


何処かで見た風景だなと

苦笑いを隠せぬ龍であった



____________________


神崎龍 薩摩の商家出身

剣は示現流、小野派一刀流、北辰一刀流を免許皆伝

十八番はやはり萃華示現流

薩摩を出て長く、 薩摩の訛りは抜けている

薩摩を出てからは、全国の道場を点々とし武術を磨いた。

要するに免許皆伝は三種だが、齧った流派は星の数。

得意なのは太刀であるが、実は二刀流も好きである。

当時にしては珍しく馬術が得意

馬上での試合は負け知らずである

幼い頃の剣の師範も龍の馬術は常々褒めたものだった。

今まで、何処にも務めた事がなく、新選組ここが初めてである





問題が山積みの自己紹介に幹部達はざわついた。

薩摩出身は危険要素

しかし、腕が立つものが欲しい

龍の剣術の凄まじさは座っているだけで予想できた。

幸か不幸か、見て分かるのが幹部であった。

その上現在

薩摩浪士たちが増加している。

その者たちが扱う示現流には怪我人が続出し、ほとほと手を焼いていた所だった。

こいつを新選組なかに入れるのが、吉とでるか凶とでるか

わかるはずもなかった

副長ひじかたが手を焼くのも頷ける。



そんな雰囲気の中、原田左之助がのんびりと声をかけた。

______原田左之助、槍の名手にして快活で朗々とした男だ。喧嘩っぱやいが、それも美徳なのかもしれぬ。役職は十番隊隊長


「なんで、新選組ここなんだ??他にも引き取り手はあっただろ?それほどの腕っぷしならよ。」


その言葉に沈黙する一同。

男たちの目が、龍に集まった。


「それによう、わざわざ故郷の奴に剣を向けたいって思わねえよな、普通。」


それまで、事の成り行きを黙って見てた龍の表情が微かに動いた。

心なしか瞳が曇り、唇が僅かに歪む。

しかし、直ぐに表情を戻し答えた。


「故郷はすてました。もうとうの昔に。今は故郷なんてものは持ってない。」


「それはそれで寂しいもんじゃねぇか。人は誰しも故郷こころつーもんは持ってるもんじゃないのかい??」


そう、ふと永倉新八が言った。

_________永倉新八、神道無念流免許皆伝、おおらかな性格で何処か情に脆い

役職は二番組隊長


その言葉をきき、故郷を去ってきた者たちが何とも言えない顔をした。

みな、多きや少なきに関わらず何かを捨ててきた者たちだ。

言葉の重みを心から受け止めていた。



ふっと何処からか嗤う声がした。

龍が切ない笑みを浮かべて幹部達を見ていたのだった。


「 大切なものは全部壊れました。いや、壊されたって言った方がいいのかな?私にはもうなにも残されて居ないのです。」


そう言って切なげに笑った龍は嘘を付いているようには見えなかった。

そこに居るのはただ哀しみに暮れる人

哀しみの中に居る人


その人は静かに自分の人生みちを語った。




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