第42話 盗賊と王子と側近と幼馴染と
「えっ……?」
王都に一緒に行くと言った青羽の言葉に、咲良は驚きの声をもらす。
ベッドの上で抱き合うような姿勢のままで、青羽の次の言葉を待っていた咲良だったが――
「咲良ぁー!!」
自分を探す柚希の声に、部屋から突然姿を消して心配させていることに気づく。
「あっ……」
慌ててベッドから降りようとした咲良の腕を青羽が掴み、後ろから抱きしめ、肩口に唇をはわせる。
「……んっ……」
突然の唇の感触に甘い吐息をもらし、咲良は身をよじる。
「青羽、やぁ……っ!」
咲良の抵抗をものともせず抱きしめ、首筋に何度も口づけ、耳たぶに歯をたてて噛みつく。
「愛している、咲良――」
耳元で魅惑的な声で囁かれて、脳内がしびれる感覚に体を震わせた。
ゆっくりと腕を解かれた咲良は、腰が抜けてへなへなとベッドからすべり落ちてしまった。月明かりの中、林檎より赤く頬を染めた咲良を、青羽はくすりと意地悪な笑みを浮かべて見下ろす。
優雅な動きでベッドから立ち上がった青羽は、慣れた手つきで咲良の手を取り、片方の手を腰に回して廊下へと続く扉へと歩く。
廊下からは、咲良を探す柚希の声が聞こえていたが、咲良は青羽の甘美な囁きに思考が上手く回らなかった。
ガチャリとドアノブを回して廊下に出た青羽は、廊下を焦った様子で走っていこうとした柚希に鷹揚な態度で声をかける。
「おい、お前」
「誰だ? ……って、咲良!?」
青羽に腰を抱かれてふらふらの状態で歩いている咲良に気づいた柚希が咲良に駆け寄ろうとして、射抜くような威圧的な眼差しで青羽に睨まれて、柚希はぴくっと肩を揺らし、眉根を寄せる。
「もしかして、あんた、盗賊団の……」
柚希の視線は咲良の左の耳につけられた耳飾りに向く。
背後から階段を駆け上がってくる足音が近づき、廊下を二つの足音が近づいてくる。
「なにかあったのですか?」
一階で待っていた朱璃と蘭丸が、咲良を探す柚希の声を聞き、駆けつけてきたのだった。
朱璃は、廊下を塞ぐように真ん中に立つ柚希を見て、それからその先に男に抱えられる様にして立つ咲良に気づいて息をのむ。
「咲良――っ」
慌てて咲良に駆け寄ろうとした朱璃を止めたのは、蘭丸だった。
「朱璃様、この男――盗賊団の首領じゃないですか」
蘭丸は鋭い視線で青羽を見つめ、朱璃の腕をぐいっと引き止める。朱璃はその言葉に、目をすがめて青羽を見、そのことに気づいたように眉根を寄せる。
「盗賊がこんなところで何をしているのですか――?」
朱璃は静かだが威厳にみちた声でいい、鋭い眼差しで青羽を見据える。
ふっとおかしそうに鼻で笑った青羽はその瞳にギラッと光を反射させて、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「朱華の王子にも俺の顔は知れ渡っているとは、俺もそこそこ有名らしいな」
馬鹿にしたような言い方に、かっと頭に血がのぼって食いかかろうとする朱璃を、蘭丸が後ろから押さえつける。
「朱璃様、落ち着いて……」
「そなた、咲良に何をしたっ!? まさか……っ」
「なにって――?」
目元に不敵な光を宿した青羽は、見下すように朱璃に笑みを向ける。
「こいつのすべては俺のものになった。残念だったな、朱華の王子。こいつの力で戦に臨むつもりだったようだが、こいつはもう乙女じゃ――」
青羽の言葉が言い終わる前に、蘭丸の制止を振り切った朱璃が青羽に殴りかかる。
それまで成り行きをおろおろと見ていた柚希も朱璃を止めようとしたが、その腕もすりぬけて朱璃は青羽の胸ぐらに掴みかかった。
「馬鹿にしてもらっては困る。私は咲良がミスティローズだから惹かれたわけじゃありません、咲良が乙女だろうとなかろうと、咲良は……っ」
言いながら放った拳は優美な動きで青羽に避けられ、青羽が振りあげた膝に朱璃は胴を蹴られてうめき声をあげる。
「うっ……」
「朱璃様っ!」
「わー、待った、まった……」
よろめいた朱璃を蘭丸が後ろから受け止め、殺意をむき出しに青羽を睨み据える蘭丸の視界に柚希が慌てて飛び込む。
「蘭丸さん、この人は違うんだ。あんたも、余計なこと言うなよ、ややこしくなるだろ」
鋭い視線がギロッと柚希に向けられて、あまりの殺気に背筋を震わせながら柚希は蘭丸からじりっと一歩後ずさる。
「どういうことだ――?」
「それは……」
柚希、とばっちり……(笑)