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第25話  国境の革命歌 1



 翌日、部屋を出た柚希はぴたりと動きを止める。突き刺すような激しい瞳にひたと睨まれて、瞬く。

 ちょうど扉の向かい側の廊下の手すりに寄りかかるように立つ朱璃が非難の目で見据えていて、柚希はたじろぐ。


「おはようございます、朱璃様……どうかしましたか?」


 睨まれる覚えのない柚希は、戸惑いながらも笑顔で挨拶を口にする。

 朱璃は気品に満ちた瞳にギラッと光を反射させて、瞳に鋭さを増す。


「君は……私達がいない間に咲良に何をしたのですか? 咲良が泣いて私の馬に乗せてほしいと言ってきたのだよ?」


 訝しげに言い、朱璃は柚希から視線をそらさない。

 ここのところ咲良を独占欲丸出しに側に置いていた朱璃は、蘭丸からいい加減、本来の咲良の世話係である柚希に役目を返してあげるように注意され、渋々、今日からの旅は咲良には柚希の馬に乗ってもらうつもりだった。が、そのことを咲良に話すと、わずかに頬を染め、必死に朱璃様の馬に乗せて下さいと懇願してきた。

 本来ならば、この咲良の願い出は泣いて喜ぶところの朱璃も、さすがに二人の間に何かあったのだと感じて焦って、喜ぶどころではなかった。

 咲良はすでに蘭丸と厩へ降りていき、朱璃は昨日自分達がいない間に何があったのか問い詰めようとイライラしながら柚希を待ち構えていたのだった。


「いえ、何もありません」


 静かな声で言った柚希は、朱璃から視線をそらして奥歯をぎゅっと噛みしめた。

 何もないなんて嘘だが、咲良のことが好きな朱璃に対して自分も咲良のことが好きだとは面と向かって言えなかった。


「そうですか、それならいいです」


 柚希は視線を戻した先に、強い光を宿した瞳でじっと自分を見据える朱璃の鋭さに、何もないという言葉を信じているのではないということが読み取れて、いたたまれなくなる。

 ゆっくりと踵を返して階段の方へと歩き出した朱璃に続き、柚希も無言で後に続いた。



  ※



 旅装を整えた三頭の馬は菱華の街を出て北の国境へと続く街道を進んで行く。途中、いくつかの村を通り過ぎ、国境まであと村を一つ過ぎればというところに来た時に、異変は起った。

 街道の先に見える小さな村から、激しい馬のいななきとすさまじい悲鳴、金属のぶつかり合う鈍い音が入り混じって聞こえてくる。

 一行はその異様な音に馬の手綱を絞り馬の速度を一気に落とす。

 先にあるのは、北の国境に続く街道沿い最後の村である矢華(やか)村。そこから聞こえてくる悲鳴が、知華村でのあの日の出来事が重なって咲良はぶるりと背中を震わせる。


「咲良……?」


 抱えるように一緒の馬に乗っていた朱璃は、咲良の体が尋常じゃなく震えていることに気づいて、美しい眉を寄せる。


「なにかあったんですかね……?」


 朱璃の馬に近づいてきた蘭丸が訝しげに矢華村に視線を向ける。


「矢華村は確か、先代大巫女の出身村でいまは孫巫女がいるはずですよ」


 思い出しながら話す柚希の言葉に、朱璃ははっと顔をあげて村を見つめる。


「まさか……」

「朱璃様?」


 朱璃の緊迫した様子にいち早く気付いた蘭丸だったが、蘭丸が問いかけるよりも早く、朱璃は握った手綱に力を込めて馬を駆る。


「朱璃様……っ」


 蘭丸も慌てて後に続き、柚希も手綱を強く打って馬を掛けさせる。

 街道を一気に北上し、そのまま矢華村へと入っていった朱璃は、目の前の光景にくっと息をのむ。

 そこには刀傷を受けて血を流した村人が幾人も倒れている。その向こうでは村人が逃げまどい、青錆色の外套を羽織った騎兵と歩兵が村人に刀を振り下ろしていく。


「…………っ!?」


 声にならない悲鳴を上げて、咲良は口元を手で覆う。見間違うはずがない、あれは知華村を襲った隣国・蒼馬国(そうばこく)の王軍と同じ色の外套――


「蒼馬国――っ」


 ぎりぎりっと歯を噛みしめるように苦々しく呟いた朱璃に、蘭丸と柚希が追いつく。


「朱璃様、これはっ!?」

「蒼馬だ、この村も狙われてしまったのか……」


 咲良には隣国である蒼馬国の王軍がなぜ朱華国の村を次々と襲うのか理解出来なかったが、朱璃の言葉に彼が何か知っていることを感じて振り仰ぐ。

 じぃーっと敵国の兵に視線を向けていた朱璃は、振り返って自分を見上げる咲良の視線に気づいてわずかに瞳を揺らしすっと視線を戻す。その瞳に、ギラッと光を反射させる。


「村を助けなければ――」


 強い使命感に満ちた声に、咲良はぞくっと背中が震える。


「蘭丸、村人を助けるのが優先だ。なるべく兵の命はとらないようにしてくださいね」


 朱璃の無茶な注文に、蘭丸は不敵な笑みを浮かべて馬の手綱を打つ。


「了解――」

「柚希、君は負傷している村人をどこか安全な場所へ非難させてください」

「朱璃様はどうするのですか?」

「私は軍を指揮している将軍を探し、撤退させます」

「わかりました、出来る限りのことをしてみます。咲良は……」

「咲良を連れていくわけにはいきませんから、咲良の事もお願いできますか? 咲良――」


 朱璃に促されて咲良は小さく頷く。

 咲良を馬から下ろすために先に朱璃が馬からひらりと降り、馬にまたがった柚希が歩を進め二人に近づいた時、複数の蹄の音がこちらに近づいてくる事に気がついて、朱璃と柚希は身構えた。



後半部分大幅変更ため、次話に移動しました。2012.1.16

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