表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/45

第11話  襲撃



 薄暗い山道をしばらく進んだ時、茂みの方から人の気配を感じ、青羽は視線を上げた。


「よお、久しぶりだな、青羽」

竜司(りゅうじ)――」


 青羽は不愉快そうに眉根を寄せ、茂みの中から現れた人物を睨みつけた。

 竜司と呼ばれた男は、青羽よりわずかに背が高く、着崩した着物の上から狼の毛皮をまとい、着物の上からでも分かる形の良い筋肉質な体、赤茶の髪を頭の上で一本に結わいている。日に焼けた精悍な顔には頬に大きな刀傷があり、それがより一層強靭な印象を与える。


「お前、頭になったそうじゃないか」


 竜司はあざやかで、不敵な笑みを浮かべて、ざくっと地面を踏みしめる。


「何しに来た――?」


 青羽は竜司の言葉を無視して、静かにだが威圧的に言い放ち、冷やかな眼差しを向けた。

 その視線を受けた竜司は気分を害する様子もなく、不敵に口元を歪める。


「何しに来た、だって? それはこっちのセリフだ。ここ山華の山は俺達山賊の縄張り、余所者に入りこまれちゃ困るんだよな」


 にたにたと口角を上げ、その瞳に妖しい光が濃くなる。

 ざざっと竜司の背後から茂みを踏み分ける音が続き、ぞろぞろと山賊が現れる。その数はおよそ三十人。

 いつのまにか青羽と快斗の背後からも山賊が忍び寄り、気がついた時には周りを囲まれていた。


「そろそろ決着をつけようぜ、青羽」


 竜司の瞳がぎらりと光り、あざやかな笑みを消して青羽を憎々しげに睨みつけた。

 青羽は朱華国のあちこちに隠れ家を持ち世界中を駆けまわる盗賊団の一員で、今や頭におさまったという。そんな青羽に対して、竜司は山華の山の山賊の頭にしか過ぎない。

 二人が出会ったのは数年前。元々、山賊は自分たちの縄張りに隠れ家を持っている盗賊団を敵視し、その時も山華にやってきた盗賊団に山賊から戦いをしかけたのだった。

 当時、お互い頭になる前で、初めて会った二人は斬り合いになり……

 青羽がわずかな力の差で竜司の顔に傷をつけることとなった。

 それ以来、竜司は青羽に対して個人的な感情を抱き、会うと必ず喧嘩をしかけてくるのだが、今回は用意周到に山賊団総出で青羽を取り囲む竜司の意気込みに気圧される。

 盗賊団でも一、二を争う腕前の青羽と快斗ならば、相手が数人ならば二人だけでも簡単に蹴散らすことが出来る。だが、二人を取り囲むのは三十人。

 分の悪い状況に、青羽と背中合わせに立った快斗はぎりりと奥歯を噛みしめ、苛立たしげに山賊を睨み据えた。


「竜司、こんなやり方はお前らしくないだろ?」


 二人の喧嘩を側で見てきた快斗は、竜司が青羽に対する気持ちは傷を受けた恨みとかではなく、ただ単に負けたことが悔しくて青羽との喧嘩を楽しんでいるように思えた。だから、こんなふうに大勢で襲ってくるのは竜司のやり口ではない。


「そうだ、お前たちに構っている暇はない。構ってほしければ、また今度にするんだな」


 不愉快そうに竜司を睨みつけた青羽に、竜司は刀を抜きながら叫んだ。


「お前の、そういう所がむかつくんだよ――っ!」


 突然切りかかってきた竜司に、青羽は反射的に刀を抜き受け止めた。ぱちぱちと火花が飛び散り、お互いに間合いをとる。

 竜司の一撃を合図に、他の山賊が青羽と快斗目がけて襲いかかってきた。

 二人は仕方なく数人で襲いかかって来る山賊をなぎ払っては、自分たちを囲む山賊の輪の切れ目を目指して駆け、そして切りかかって来る山賊の相手をした。

 青羽には竜司の攻撃の切れ間に他の山賊が襲いかかり、気を抜く暇も与えずに攻撃がしかけられ続けた。

 腕に自信がある青羽でも、こうも次々に攻撃を仕掛けられてはきりがなかった。辺りには数人の山賊が意識を失くして倒れていたが、青羽も快斗も満身創痍で状況は良くなかった。

 じわりと額に汗がにじみ、顔に張り付いた髪を取り払おうとした時、青羽がなぎ払って地面に転がった山賊の刀にけつまずき、体勢を崩す。

 その隙をついて、山賊の一人が鋭い動きで刀を振り下ろしてきた。

 青羽は体勢を崩しながらも、片膝と片手を地面について刀の柄で相手の胴をついて昏倒させる。

 安堵の吐息を小さくもらした時、青羽は殺気を感じて反射的に振り返る。

 背後には赤茶毛をなびかせて立った竜司が、青羽めがけて刀を振りあげたところだった――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ