表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いが届く時  作者: 茉月
6/16

片思い

 それから半年が経ったある日。


 ナオが帰宅しようと退社した時、誰かに呼び止められた。


「ナオさん!」


 振り向くと矢城が立っていた。


「矢城くん、今帰り?」


「はい。あ、あの……。これから予定ありますか?」


「ん~。とっても残念なんだけど、ないんだよ」


「ナオさんてば……。普通に、ない、って言えばいいじゃないですか~。じゃあ、俺に付き合ってもらっていいですか?」


「じゃあ普通に……。いいですよ」





 矢城は会社の駐車場まで来ると、車の助手席のドアを開けた。


「ナオさん、どうぞ」


「えっ! 矢城くん? 車持ってたの?」


「購入しちゃいました!」


「わお!!」




 矢城はナオを乗せ、車を走らせる。


「いつ買ったの?」


「先月です。少し乗り慣れて来たから、そろそろナオさんを乗せても大丈夫だろうと思って……」


「大丈夫だろう? ……なの?」


「いえいえ、大丈夫ですよ!」


「そう言えば、ずっとバイク通勤だったよね? やっぱり車の方が良くなっちゃった?」


「あ~、今までは特に必要性を感じなかったんですよね」


「へ~。若いのに珍しいね」


「若いからって、車好きとは限りませんよ。それに……。購入資金も不安でしたから」


「あ、って事は貯め込んでたんだ~」


「ええ……。まあ……」


 矢城は暫く沈黙のまま車を走らせる。


 矢城が車を乗り入れた店は、以前雅樹と来たイタリアンレストランだった。ナオは偶然だとは思ったが、口には出さずにいた。


 店員に案内された席に座る。


 あれっ? これも偶然?


 その席も、あの日に雅樹と話をした席だったのだ。


 ナオは、矢城も時々この店に来るのかな? 程度に思っていた。



「ナオさん、ワインでも飲みますか? 俺が送りますから、たくさん飲んでもいいですよ」 


「え~、ひとりで飲んでも楽しくないよー。今日は食べるだけでいいや」


「遠慮しなくていいですから」


「遠慮とかじゃないよ。あたし、ちょっとじゃ済まなくなるからさ。それに、ワインはそこまで好きでもないんだよね」


「あ、なら、ビールもありますよ!」


「だから、食べるだけでいいって」


「……。そうですか……」


 矢城は何だか不満そうな素振りを見せながら、オーダーを済ませた。



「何か相談事でもあるの?」ナオが聞いた。


「えっ? 何でですか?」


「だって、付き合って欲しいって言ってたから」


「……。あ、いえ、先ずは空腹を満たさないと、ナオさんがイライラするかと思って……」


「ぷっ、確かに」


 ナオは、真顔で言う矢城に笑ってしまった。


「じゃあ、満腹になったら、どこ行くの?」


「どこ行きたいですか? 好きなところに連れて行ってあげますよ。そのために車買ったんですから」


「……え……?」


「だからもう、雅樹さんに頼らなくても済みますよ」


「ん? どうゆう意味?」


「ナオさんは、時々雅樹さんと一緒に帰って、食事して、家まで送ってもらってますよね? これからは、俺がその役割を果たします」


「役……割……って……。何を言ってるの?」


「俺の前でも、泣き顔を見せていいって事です。あ、俺は泣かすつもりはないですけど」


「……矢城くん? 言ってる意味が良くわかんないんだけど?」


「ナオさんはこの店で、このテーブル席で、雅樹さんに涙を見せてましたよね? いつも明るいナオさんが、雅樹さんの前では泣けるなんて……。俺、ちょっとくやしかったです!」


「……!? 矢城くん……? あなた……。見てたの?」


 矢城は、それには答えず、運ばれて来たパスタを口に運びながら、「俺にもいろんなナオさんを見せて欲しいんです」と言った。


 ナオは、矢城が何だか不気味に思えて、なかなか麺が喉を通らなかった。


 雅樹に飯野さんの事を話したあの日、矢城くんが自分達を見ていた事は間違いない。


 偶然? 故意?


 ナオは、控え目だけど、どこか安らぎを感じる矢城が嫌いではなかった。しかし、今日の矢城には恐怖心さえ覚える。


 あの日と同じ店で同じ席。予約でもしていたのだろうか?


 ナオは、どんな風に接したらいいか戸惑いながら、矢城の表情を観察していた。



 車に戻ると、矢城が「この後どうしますか?」と聞いて来た。


「どうするって……。矢城くん? あたしに付き合って欲しかったのは、食事だけ?」


「も、もちろん、ナオさんさえ良ければ、ドライブしたいです」


「そーじゃなくて! 今日、あたしを誘った理由(わけ)を知りたいのよ!」


「ナオさん……。わけもなく誘ったらいけませんか?」


「そんな事ないけど……。どうゆうつもりなのかと思って……」


「どうゆうつもりって、ナオさんが好きだからに決まってるじゃないですか。他に理由なんてありませんよ」


 なにそれ? いきなり告白? 矢城くんて、そんなはっきり言う人だったの?


 ナオは何と答えたらいいかわからないでいた。


「俺……。最初はナオさんを見てるだけで十分だったんです。でも、飯野さんとの事があってから、ナオさんが時々俺を誘ってくれたじゃないですか。凄く嬉しかったんです。それから、少しずつ普通に話せるようになって、今は、少しでも長くナオさんと一緒にいたいし、ナオさんの事、いろいろ知りたいと思ってるんです。こんなにときめいた女性(ひと)は、ナオさんが初めてなんですよ! それに……。女の人の前でこんないっぱい喋ってるなんて、自分でも驚きです」


 ナオは、ますます返事に困っていた。


「ナオさん?」


「……。矢城くん……。気持ちは嬉しいけど……、あたしは……」


「わかってますよ! 俺の事なんて、何とも思ってないんでしょ?」


 矢城はナオが話終わる前に遮った。


「いいんです。それでも。俺は、ナオさんの為に費やす時間は惜しくないですから」


「何でそこまであたしのこと……」


「さっきも言ったじゃないですか! ナオさんを好きになったからですよ! 俺、ナオさんに出会わなければ、只の陰湿で目立たない男でした。だから感謝してるんです」


「だからって……、あたしは……、矢城くんの気持ちに応えらるような状態じゃないよ……」


「雅樹さんの事ですか?」


「えっ?」


「ナオさんは雅樹さんが好きなんですか?」


「違う! それは違うよ!」


「良かったぁ。雅樹さんには彼女いますもんね」


 矢城は、まだ雅樹が彼女と続いてると思ってる。


「矢城くん? あたしね、実は……、好きな人がいるのよ……」


「……。そうなんですか? でも、付き合ってはいませんよね? 片思いなんですか?」


「はぁぁ……。矢城くんたら、ズバリ言うのね」


「あ……。す、すみません」


「ふ……。でもそのとおり。片思いなんだ……」


「じゃあ、俺と一緒ですね。気持ち、わかります」


「うう……。笑えない……」



 ふたりは、徐々に普段通りへと戻って行った。



 矢城はただナオが好きなだけなのだ。

 ナオは、矢城に対する不信感めいたものは薄れたものの、今は彼の好意を受け入れるほどの気持ちは持っていなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ