動揺
矢城が復帰して、3ヶ月が経ち、矢城もすっかり回復していた。
その日は、雅樹から誘いがあり、ナオは居酒屋にいた。
「居酒屋で真面目な話っつうのはどうかと思ったんだけど、俺さ、こうゆうとこの方が落ち着くんだよな」
「真面目な話?」
「ああ……。まあ、いつも真面目だけどよ!」
「どうだか。でもなんかやだなあ~、あらたまっちゃって。最初から真面目な話とか言われると構えちゃうじゃん?」
「まだプロポーズとかしねーから安心しろよ」
「あら? してくれないの?」
「していいのか?」
「受けるかどうかは別だけど」
「おまえさ、そう言う大事な事軽く言うなよ!」
「雅樹が言い出したんじゃん!」
「あ……。わりい……」
雅樹は一呼吸するとナオに向かって聞いて来た。
「俺はナオが好きだ! ナオは俺が好きか?」
ドキッ!! いきなりかよ!!
「ストレート過ぎるよ。好きか嫌いかって聞かれたら……、好きだけど……」
「矢城と俺なら? どっちが好きだ?」
「そんな事……わかんないよ! ふたりとも好きだし……」
「じゃあ、ふたりと付き合うのか?」
「雅樹……。どうしちゃったの? あたしは、まだ付き合うとかそんなん決めてないよ? 自分の気持ちも良くわかんないのに……」
「じゃあ、決めろよ」
「はっ? 何それ。感じ悪~。いつもの雅樹じゃないよ!」
「ああ、俺、どうかしちゃってるんだ。ナオの気持ちが矢城に向かってる気がして、不安なんだよ。事故以来、ナオが矢城を見る目が違って来てるし、こんな不安になった事初めてなんだ。だから、ナオの気持ちが知りたいんだよ。俺じゃダメか?」
ナオは正直迷っていた。ふたりとも好き。でもそれは友達以上恋人未満の中途半端な感情だった。
胸の奥がキュンとなったのは、飯野と一緒にいる時だけだったから。
雅樹に抱かれた時は、なんだか夢の中の出来事のようで、自分の感情と合致したものではない気がしていた。
矢城くんとはどうなんなんだろう? 求められたら受け入れられるの?
ナオはほんとにわからなかった。
ナオは暫く黙り込む。
「はあ……。俺って小せえやつだよな……。ナオを見守るぐらいの器の広いやつになんなきゃ、矢城には勝てないよな……。悪かった。一方的過ぎたよ……」
「勝ち負けの問題じゃないでしょう? それに好きって気持ちだけじゃ、どうにもなんないこともあるし……。笑う影には泣く姿もある……。もう少しこのままでいようよ、ね?」
雅樹はわかったよ、と言うと、テーブルのつまみを平らげた。
「大事な話って、それだけ?」
「それだけって……。俺にとってはナオの気持ちを知る事が何より大事な事なんだ。俺の気持ちはちゃんと伝えたからな。ナオがもう少しこのままがいいなら、そうするから。俺、待つよ」
「ありがとう……」
数日後の休日。
昼まで寝ていたナオの携帯が鳴った。
矢城からだった。
『は……い』
『ナオさん! 今からナオさんを向かえに行くから、準備しといてください!』
『はい? なんか約束してたっけ?』
『してないけど、とにかく行くから!』
『ちょっ! あたし起きたばっか……』
電話は一方的に切れた。
どうしたって言うの?
矢城は近くまで来ていたのだろうか、15分くらいで来た。
「もう~、早すぎだよ~。女の子が15分で準備出来るわけないでしょ!?」
「ごめん……。どうしても聞きたい事があって、来ちゃった」
「聞きたい事? なら、あたしの部屋上がる? お母さん帰って来るの夜だし」
「えっ! いいの?」
「いいよ。どうぞ」
矢城は、ナオの部屋に初めて招かれた事が嬉しくて、小さくガッツポーズをした。
ナオの部屋は女の子の部屋にしてはかわいくない。ナオさんはあんなかわいいのに。などとキョロキョロしていると、ナオが麦茶を運んできた。
「見回したって、彼氏の写真とかないよ」と言いながら、おぼんごとテーブルの上においた。
「ほんとにシンプルだね。すっきりしてて気持ちいいくらい。ナオさんがかわいいから、なんだかすごいギャップを感じるよ」
「片付けるのが嫌いだから、散らかさないだけよ」
「ナオさんて、女らしいんだか男らしいんだかわかんないね」
「やだぁ~、バリバリ女の子じゃん!」
ナオがベッドを背にして座ると、矢城も隣に座った。
「ナオさん……、スッピンもかわいいね」
「やだ……、あんま見ないでよ。矢城くんの来るのが早すぎるから、顔しか洗う時間なかったんだから」
「ごめん。でも、プライベートが見れてなんだか嬉しいよ」
矢城の視線が胸元に行くのがわかった。
ヤバい! ブラ着けてなかった……。
「あ、ねえ、聞きたい事ってなに?」
ナオは膝を抱え、胸を腕で隠した。
「うん……。ナオさんは雅樹さんとは付き合ってないって言ったよね?」
「雅樹とは……なんてゆうか……、友達感覚から抜けきれないって感じかなぁ……」
「ナオさんは友達同士でも、体を許す人なの?」
「!?」
「俺、やっぱりナオさんをあきらめるなんて出来そうもないんだ。雅樹さんと一緒にいるナオさんを、冷静に見られなくなってきてるんだ」
「ちょっと待って! 友達同士で体を許すってどうゆうこと?」
「雅樹さんに聞いたから……」
「雅樹に……聞いた?」
「ええ。『俺はナオの気持ちを確認しないまま、ナオを抱いたけど、ナオはすげーいい顔してて、俺、ますます惚れちまった』って話すから、なんでそんな事わざわざ俺に話すのか聞き返したら、『おまえにナオを取られる気がした』って……」
うそでしょ? 雅樹はそんなやつじゃない!
「俺、かなり動揺したよ。ふたりが付き合ってるなら許せたけど、なんか裏切られたような気がして。俺が口出す事じゃないかもしれないけど、ナオさんが雅樹さんの事、どう思ってるのか知りたかったんだ」
「信じらんない……。雅樹がそんな事、他人に言うなんて……。待つって言ってたじゃない……。ひどいよ……」
「俺は……、ナオさんが雅樹さんのこと、ほんとに好きなら身を引いてたよ。遠くから見るだけにしてたかも知れない。でも、そうじゃないみたいだから、まだあきらめたくないんだ! ナオさんと一緒にいたい」
「あたしは……、ふたりとも好きだよ……。でも、好きって感情にはいろいろあって……」ナオが話してる途中で、矢城は強くナオを抱きしめた。
「ナオさん! 俺、ナオさんを守るから! どんな事があっても、必ず! だから、俺のことちゃんと見てよ!」
「矢城くん……」
ナオは矢城の逞しい腕に抱きしめられ、鼓動が早くなる。
あたしを守る? そんな言葉、言われたことない。
その時だった。矢城の唇がナオの唇を押さえる。
「……!?」
「ナオ……。俺を好きになってよ」矢城は人が変わったように、ナオを抱き抱えると、ベッドに寝かせ、覆い被さって来た。
「キャッ! 矢城くん!?」
「ナオ……。好きだよ……。ナオのすべてを俺にも見せて」矢城は、ナオを呼び捨てにし、ナオの両手を押さえ、キスを繰り返しながら、ナオの肌に触れ始めた。
「や、……やめて……」
いきなり野生化した矢城。
ナオは矢城の力に勝てるはずもなく、起きたばかりの無防備な格好が、簡単に乳房を露わにする。それは、矢城を興奮させる要因にもなってしまったようだ。
「矢城く……ん……。雅樹と同じ事する……つもり?」ナオはやっと言葉を発した。
「雅樹さんの時より、気持ちよくしてあげるから」
矢城の力はかなり強く、鍛えられているのがわかる。ナオは抵抗しても無駄だと思った。
矢城くんは優しい人よね? ナオを守ってくれる人よね? 今ナオの上に乗ってる人はほんとに矢城くん?
ナオは矢城くんのこと好きだからこんな事してるの?
ナオの混乱した頭の中とは裏腹に、身体はとろけそうに熱かった。
ナオはそんな自分が嫌でたまらない。
あたしは気持ちがなくても感じる女なの? 違う! 全く気持ちがないわけじゃないんだ。いやなら抵抗しまくればいいじゃない? 雅樹も矢城くんもナオが好きって気持ちがあるから、激しくてもどこか優しいんだ。好きなら欲しくなるよね? あたしは……ふたりとも好きになってるの?
ナオの感情を無視するかのように、身体は熱り続けた。
ナオは、自分の正直な身体の反応が疎ましく思えてならなかった。
矢城はぐったりしたナオの横で「俺、ますますナオが好きになった。責任取れる男になるから。だから、俺のこと、ちゃんと考えて欲しい。ナオ……、好きだよ。もう離れたくない」と言って抱きしめた。
「……ふたりとも勝手だよ……。あたしの気持ちを乱す事ばかりするんだから……」
「ナオが素敵過ぎるからだよ。あ、俺、いつの間にかナオって呼んでる! いい?」
「なんでもいいよ……。罪悪感ゼロなんだね……」
「でも……、嫌がってなかったじゃない?」
「やめてって言ったじゃない!?」
「……止まらなかったんだ……」
「お願い……。今日はもう帰って……。ちょっと考えさせて……」
矢城はわかったと言って、服を着ると、ナオのおでこにキスして部屋を出て行った。
どうしたらいいの? ふたりと付き合うわけには行かない。
助けて……飯野さん……。
ナオはシャワーを浴び、着替えると、タクシーで飯野のマンションに来ていた。
携帯を取り出し、電話をかける。
「なにやってんだろ……あたしは……。電話になんか出るわけないじゃん……」
『はい、はい』
あ、出た……。
『も、もしもし……、ナオです……』
『うん、どうしたの? 夕食のお誘い?』
ナオは時間など気にしていなかった。
『あ、ごめんなさい……。あたし、どうしたらいいかわからなくって…。飯野さんしか頼る人いないから……』
『…………。今どこにいるの?』
『マンションの……下……です……』