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想いが届く時  作者: 茉月
11/16

動き始めた感情

 ナオが退院した日に飯野からメールが来た。


『退院おめでとう!

ほんとに良かった。お見舞いにもろくに行けなくてごめんね。なかなかメールも出来なくてすまない。とにかく無理しないで、ゆっくりしてていいから。会社の方はみんなで協力して、何とかなってるから安心してね。今日は退院祝いのお酒は飲んじゃだめだよ(笑)

またメールするね』


 飯野さん……。あんまり優しくしないでよ……。


『ありがとうございます。みんなに心配かけてしまって、ほんとにごめんなさいm(_ _)m

お仕事忙しいんだから、お見舞い来てくれるだけで嬉しかったです(*^-^*)。メールもくれたり、凄く元気付けられましたよ~。様子見ながら来週にでも復帰出来ればいいかなあーって思ってます。お酒は暫く我慢しますよ~(-.-;)』


 ナオは自分の気持ちを抑え、普通に返信した。



 ナオは2日程家で過ごし、3日目から毎日矢城に面会に行っていた。


 退院して1週間が過ぎ、ナオは仕事復帰した。


 みんな優しく迎えてくれて、後は矢城の復帰まで頑張ろうと言っていた。植田さんも残業してくれていたらしい。


「すみませんでした……。負担をかけてしまって」


「ほんとよ。お陰でちょっと給料増えそうだけどね。でも良かったわねー、後遺症もないみたいだし。ナオちゃん、守られてるのね。これでやっと残業から解放されるわ~。あ、でも来週からね。今週いっぱいは、あなたは残業しなくていいから」


 相変わらず、ちょっとトゲのある言い方で慰める。


「大丈夫です。しっかり休ませてもらいましたから」


「だめよ! 若いからって無理が利くと思わないでね」


「あたし、もう、そんな若くないですよ~」


「だったら尚更じゃない? 言っとくけど、来週から私は一切残業しないから。そのつもりで」


 植田さんなりの心使いに、ナオは感謝していた。快気祝いをしてくれる話が出たが、ナオは、矢城が復帰してからにして欲しいと断った。



 それからナオは、矢城が退院するまで、出来るだけ病院に顔を出した。

 矢城には離れて暮らす母親と妹がひとりいて、事故の時にもナオに頭を下げに来ていた。退院後も何度か顔を合わす事があった。


「ナオさん、いつもすみません……。私がまめに来られればいいんですけど……」矢城の母親が恐縮する。


「いいえー。私が勝手に来てるだけですから気にしないでください。私に出来る事があれば、やれる範囲でやりますから、安心してください」


「あんたにはもったいないくらい、かわいい女性(ひと)よね~」


「だから、前にも言っただろ? ナオさんは俺を心配して来てくれてるだけだって!」


 矢城の母親は、ふたりが付き合っていると勘違いしているらしく、ナオが来るといつも病室から出て行く。


「気を利かせてるつもりみたいです」


 ナオは「みたいね」と言って笑った。 


 矢城とナオは、短い時間ではあるが、会う度にお互いの自分の事を少しずつ話始めていた。


 矢城の父親は、矢城が15歳の時に工事現場の事故で亡くなっていた。だから今回の事故では、母親がひどく心配し、息子まで連れて行かないでと、半狂乱気味に泣き叫んだと言う。助かった時には、夫が守ってくれたと、涙ながらに泣き崩れていたらしい。


「ウチもさ、あたしが目を覚ました時、父親がいてさ、久しぶりに父親の顔見た気がしたよ。やっぱり心配してくれてたんだなあーって思っちゃった」


「当たり前じゃないですかー。心配しない親なんていないですよ」


「でもね、学校の行事も来たことなかったし、母親が具合悪い時だって、出張に行っちゃった人なんだよー。お母さんも良く我慢してるなーって思ってるんだ……」


「ナオさんって、兄弟(姉妹)は居ないの?」


「うん……。ひとり娘。箱入り娘なんだよ」


「は……こ……いり?」


「まんまでしょ?」


「いや、箱から飛び出して、伸び伸び育って野生化したみたいだね」


「あら、良く分析出来ました。……ってか、矢城くん!? あたしにタメ口利いてる!」


「えっ! あっ! わっ! 俺、どうかしてました! ごめんなさい!」


 ナオは「慌ててる矢城くんったら、かっわいい~」とゲラゲラ笑った。


「いいよ、いいよ、タメ口で。それに、入社したのは矢城くんの方が先なんだし、先輩じゃな~い? 今までが間違ってたんだよ。自然に出ちゃったんなら、それって距離感が縮まったって事じゃない? なんだか嬉しいな~」とニコッと笑った。


 ズッキューン!! か、か、かわいい……。

 矢城の心臓の鼓動が大きくなった。と同時に別の部分も大きくなった。


 ヤバッ! ナオさんにばれる!!


 上半身を起こしてベッドに座っていた矢城が、急に下半身をぞもぞし出した。


「ん? どうしたの? 足が痒いの?」ナオは矢城の下半身に掛かっていたタオルケットをめくった。


「あ! ダメ! あ……、あ……」


 矢城の大事な部分が盛り上がっているのがわかる。


「!! …………」


「だからダメって言ったのに……」


「なんで? あたし……の……せい……?」


「ナオさんが、嬉しいって言うし、メッチャかわいく笑うし……。その笑顔に反応しちゃったみたい……。思春期でもあるまいし……。こんな事でこんなになった事なんかないのに。どうしちゃったんだろ……、俺の身体……。なんか今、すごく恥ずかしい……」


 矢城は少し顔を赤らめた。


「ま、まあ、いろいろあるよね? 女だって、その……ね? なんて言うか……、複雑だし……。生理現象だもの。仕方ないよ」


 そう言いながら、ナオは矢城の事が急に愛おしくなると同時に、胸の奥がドキドキするのを感じた。考えてみれば、歳だって3歳差。離れているうちに入らないじゃないか?


「あ、そうだ! 雅樹がね、あんまり顔出さなくて悪いな、って言ってたよ。でも、俺の顔見るより、ナオの顔見てた方が矢城は喜ぶだろうから、遠慮しといてやる、とか言ってんのよ。来りゃあいいのにね」と、話題を逸らす。


「雅樹さん……。ホントはナオさんと一緒に居たいのに、ナオさんが俺のとこばっかり来てるから、誘えないんじゃないのかな?」


「えっ?」


「俺はもう大丈夫だから、もっと雅樹さんと一緒にいてあげてください」


「矢城くん? 何か勘違いしてない? 雅樹とは友達だよ? 雅樹だって、あたしに矢城くんの様子を聞きにきて、元気だったよ、って言うとほっとしてる。今はあたし達にとっては、矢城くんの方が大事なんだよ」


「今は……なのか……」


「あ……。いや、だから……、もう~! とにかく仕事復帰出来るまでは、他の事考える余裕がないって事!」


「プッ。わかってますって。ナオさんたらムキになっちゃって、ホントかわいいんだから」


「下半身殴るよ!」


 矢城が思わず股間を押さえる。


「やだ! 右足の事だよ」


「しまった……。やられた……」



 その剥き出しになった腕を良くみると、かなりいい筋肉をしている。何で今まで気付かなかったんだろう? 鍛えてるとは言ってたけど、腹筋とかも割れてんのかな? ハッ! だから元気がいいの? やだ、なに考えるんだよ。



 ナオはその日以来、矢城を男性として意識するようになっていた。



 矢城のギプスがはずれ、ナオも間に合う日は一緒にリハビリに立ち合ったりしていたが、幸いにして回復が早く、通院リハビリとなった。



 事故から4ヶ月。矢城は仕事復帰した。なんて回復力の早い男なんだろ。




 

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