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悪役令嬢は世界で一番あたたかい糸を紡ぐ  作者: 南蛇井


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8/40

第8話:運命への恐怖 ― フラグは消えていない

噂は、風のように届いた。


「最近、編入してきた子がいるらしいわよ」


 昼休みの食堂。

 明るい声が、特別な意味もなく交わされる。


「平民出身だとか」

「成績がすごくいいんですって」

「王太子殿下と、少し話したって……」


 アメリアは、食器を持つ手を止めた。


 ――来た。


 心臓が、一拍だけ遅れて鳴る。


(……まだ、名前も聞いてないのに)


 彼女は視線を落とし、何事もないふりをして席を立つ。

 噂話の輪から、自然に距離を取った。


 中庭を抜けると、春の光が降り注いでいた。

 生徒たちの笑い声、風に揺れる木々。

 すべてが、穏やかで、平和だった。


 だからこそ――胸がざわつく。


(ヒロインらしき少女)

(王太子)

(偶然の出会い)

(物語が、動き出す合図)


 前世の記憶が、鮮明によみがえる。


 アメリアは歩きながら、遠くを見る。


 校舎の向こう側。

 人だかりの中心に、背の高い人物が一瞬だけ見えた。


 金色の髪。

 整った横顔。


 王太子――アルベルト。


 距離は遠い。

 会話が聞こえるわけでもない。


 それでも、胸の奥が冷える。


(近づかない)

(関わらない)

(目立たない)


 そう決めてきた。

 ここまで、うまくやってきたはずなのに。


(でも……)


 アメリアは足を止め、胸元に手を当てる。


(これは、破滅が回避された証拠じゃない)

(ただ……)


 まだ、イベントが始まっていないだけ。


 物語は、遅れてやってくることもある。

 フラグは、静かに積み上がり、ある日突然、牙を剥く。


(わたしが優しくしたから)

(編み物を渡したから)

(空気を変えてしまったから)


 それが、別の引き金になっていたら?


 笑顔の裏で、世界は予定通りに動いているのではないか。


 アメリアは深く息を吸い、吐く。


「……大丈夫」


 声は小さい。

 誰に言うでもない言葉。


「まだ……始まってないだけ」


 その言葉は、祈りでもあり、言い聞かせでもあった。


 春の風が吹く。

 遠くで、誰かが楽しそうに笑う。


 世界は今日も、何事もなく回っている。


 けれど、アメリアの胸の奥には、

 消えない“運命への恐怖”が、静かに息づいていた。

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